肛門のできもの 〜それって本当に痔なの?〜
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(2019年8月11日加筆修正)
実は自分が出残り便秘と鈍感便秘だった佐々木みのりです。
肛門に何かできたら、すぐに痔という言葉が浮かんでしまうのは仕方ないのかもしれませんが、患者さんが痔だと思っているものが痔とは限りません。
痔ではなく皮膚のできものだったり、最悪のケースだと癌だったということもあります。
だから何でもかんでも痔と決めつけず、まずは痔かどうかも含めて正確な診断を知ることが大切です。
患者さんが「肛門のできもの」と言われたものについて、どんなケースがあったのか、今日はまとめてみたいと思います。
この記事の目次
患者さんが肛門の「できもの」と表現した病気
1.いぼじ(痔核・脱肛)
これは正真正銘、痔です(笑)
外から触って分かるものを患者さんは指していることが多く、ほとんどが外痔核でした。
外痔核は痛みも出血も何も症状がないことが多く、入浴時に何気なく肛門を触ってみて初めて気付いたということが多いです。
別に気にならなければ手術の必要はありません。
また、脱肛と言って、内痔核が大きくなり脱出するようになった状態の方もおられました。
これを手術せずに放置しても便が出しにくいとか、肛門の機能には影響がありませんが、痔核が出来ているということは、その背景に必ずと言っていいほど「便秘」があります。
だから便通を直すことをお勧めします。
そうすれば手術をせずにずっと付き合って行けることも多いです。
2.皮垂
これはただ単なる皮膚のたるみです。
排便時に腫れることもないですし無症状です。
ですが、自然に発生して出来た「たるみ」ではないため、その原因となった便通を直す必要があります。
詳しい解説はコチラ↓
3.見張りイボ
これは切れ痔(裂肛)の炎症で出来た皮膚の腫れです。
この「できもの」の奥に切れ痔(裂肛)があるのです。
切れ痔がある時は赤くなったり硬く腫れたりしているのですが、切れ痔が治ったら皮膚のたるみのようになることが多いです。
切れ痔が痛いのに、この見張りイボを触ると痛みを感じるから、「できものが痛い」と表現されることが多いです。
当然、切れ痔を治さなければ、どんどん腫れて大きくなりますし、痛みも続きます。
切れ痔を治すには、切れ痔の原因となった便通を直さなければなりません。
いぼ痔だと勘違いされている患者さんも本当に多い「見張りイボ」。
是非、知って欲しい病気です↓
4,尖圭コンジローマ
「できもの」と言っても、大きさから個数まで色々あると思うのですが、この場合のできものはプツプツとした小さなものが多発する、もしくはそれが集まってカリフラワー状の突起物になることが多いです。
これは性病に分類されている病気で、人にうつりますから注意が必要です。
詳しい解説はコチラ↓
5.血栓性外痔核
肛門にできる血豆です。
急に腫れて結構な痛みがあることが多いですが、なぜか全く痛みがない患者さんもいます。
何もしなくても、放置しても治ります(笑)
もちろん手術は必要ないです。
詳しい解説はコチラ↓
6.肛門周囲膿瘍・痔瘻
これも正真正銘、痔ですが、「おしりのできもの」と表現して受診される患者さんは少ないですね。
膿が溜まるので半端ないくらい痛いことが多いですし、どちらかというと「急に腫れた」と表現されます。
ただ、少数ですが、じわじわとゆっくり膿が溜まった場合、あまり痛みなどの自覚症状がなく、ただの「しこり」として自覚されて受診に至るケースがあります。
そのような場合、下痢ではなく便秘の人がほとんどで女性に多いです。
だから患者さん本人も痔瘻という意識はゼロでした(苦笑)。
女性の痔瘻は典型例からはずれるケースがありますね。
便秘でも痔瘻になることがあるのだという経験は私たちも衝撃でしたが、最近では、毎日出ててもスッキリ出ずに便が肛門の中の出口付近に残って、それが原因で痔瘻になっているケースまで経験しています。
7.皮膚疾患
・ニキビ(尋常性ざ瘡)・毛嚢炎・粉瘤
洗い過ぎによって皮脂膜が脱落し、皮膚のバリアー機能が低下すると、ちょっとしたことで感染を起こしやすくなります。
これらのものが肛門周囲に出来ている人は間違いなく温水便座愛用者で、温水便座症候群も伴っています。
温水便座症候群についてはコチラ↓
ニキビが化膿して腫れ上がることもあり、そうなると座って当たると痛いですし、痔瘻と勘違いされることもあります。
粉瘤も化膿していなければ皮膚の下にあるコリッとした「できもの」として自覚され、触ると分かる程度なのですが、これが化膿するとむっちゃ痛いことが多いですね。
つぶれてちょっと臭いのある粥状の内容物が出てくることもありますし、膿のような内容物が出てくると痔瘻と間違えられやすいです。
・稗粒腫(ひりゅうしゅ・はいりゅうしゅ)
稗粒腫とは
表皮にできる角質嚢で、上皮がはがれたり、創傷治癒後に汗管が閉塞して生じる
とされています。
過剰衛生により上皮がはがれることにより生じたと思われます。
実際に、肛門周囲に稗粒腫が多発している人は温水便座で過剰に洗浄しています。
水圧を強くして肛門を直撃して洗うと皮脂膜が剥がれ落ちるだけでなく、上皮にも細かい小さな傷ができるため稗粒腫が出来やすくなります。
・軟線維腫
これはただ単なる正常皮膚の増生によって形成されたものです。
良性の皮膚腫瘍ですね。
首や腋窩(わきのした)、鼠径部など、摩擦がかかる部位に出来やすいです。
これが肛門周囲に出来ているということは、それだけ何か摩擦がかかっているということでもあり、やはり洗いすぎたり、こすって拭いていたり、拭く回数が多かったり、お風呂でゴシゴシこすって洗っていたり、何らかの過剰衛生があることが多いです。
・皮膚癌
まれに肛門周囲に皮膚癌が発生することがあります。
私が経験した症例は全例、難治性の湿疹だと思われていました。
肛門がかゆいから、かかりつけの内科で薬をもらっていた患者さん
かゆくて掻いているうちに皮膚が盛り上がってきたと言った患者さん
ずっと長年、おしもの部分を消毒してきた患者さん
いぼ痔だと思って高価な通販の痔の薬を長年使い続けていた患者さん
色々なケースがありますが、ある日突然、急に癌は出来ません。
何らかの皮膚症状、皮膚トラブルがあります。
見せるのが恥ずかしい・・・では済まされないこともありますので、癌ではないことを確かめるためだけでも肛門科を受診して下さいね。
肛門科を受診することが恥ずかしいのであれば、皮膚癌の心配に関しては皮膚科受診されてもいいでしょう。
8.直腸がん、肛門がん
「痔だと思っていたら『がん』だった」というお話を一度は聞いたことがあるでしょう。
直腸は大腸の末端の肛門のすぐ奥の部分で、ここにできたがんが直腸がんです。
直腸がんは進行すると肛門の外からでも触ることができる状態まで大きくなるのです。
そして、あまり馴染みはないかも知れませんが、肛門にもがんはできます。
肛門がんです。
直腸がん・肛門がんは、触ると硬いのが特徴です。
いぼ痔(痔核)はプニプニと柔らかいので、手触りがちがうのです。
とは言っても、血栓性外痔核はコリコリと硬いのでやっぱり一般の方には見分けるのは難しいのです。
肛門に異物を触れたら肛門科の専門医に受診するのが一番良いのですが、がんか痔かを見分けることだけなら、外科でも可能です。
むしろ「がん」については肛門科よりも外科の方が専門なので詳しいです。
とにかく自己診断、決めつけは危険です。
一度は受診して悪いモノではないことを確かめて下さいね。
痔ではないのに手術を勧められることもある?!
痔ではない正常な肛門なのに手術を勧められているケースが結構多いです。
受診した肛門科で「痔瘻」と言われ手術をすすめられていた患者さんがセカンドオピニオンで当院に来られ、診察したら痔瘻なんて存在しないどころか、何もないとてもキレイな正常肛門だったということを日常的にたくさん経験しています。
だから肛門科だけはちゃんと専門にかかって欲しい。
また痔瘻に対してジオン注射(ALTA療法)をすすめられているケースもありましたが注射療法(ジオン注射)は痔瘻に適応はありません。
これは「いぼ痔(内痔核)」の治療方法です。
痔瘻でジオン注射で治しましょうって言うのもおかしな話です
このような話、冗談ではなく結構たくさんありまして・・・
だから患者さんが痔だと言っても、他の病院で手術と言われていても、私たちは鵜呑みにせず診察するようにしています。
時々メール相談で「○○病院を受診したら手術って言われたんですけど、そちらで受けたいので申し込み出来ますか?」という問い合わせを頂きますが、診察してみないと手術どころか痔であるかどうかすら分かりません
だから1軒の病院を受診して手術と言われてもすぐにその場で決めないことです。
家に帰ってから家族に相談してからでも遅くないですし、他の先生の意見を聞く余裕くらいあります。
どうか必要のない手術を受けることのないよう気を付けて下さいね。
そんな目にあわないためにも肛門を専門にしている先生にかかってほしいと思います。
本当に多いんです
必要の無い手術を勧められているケースが
何もない正常な肛門なのに痔と診断されているケースもたくさんあるんです
肛門科は専門にかかってくださいね
当院は自由診療なので、色々なクリニックや病院を回ってから最後に来られることが多いのですが、専門外の先生にかかっている患者さんが多いです。
専門外の先生は肛門に詳しくないので、正確な診断が出来ていなかったり、手術の必要がないものなのに手術を勧めていたり、私たち専門医と随分、診断・治療が違うことが多いです。
皮垂や見張りイボを脱肛と診断されて手術宣告を受けている患者さんが本当に多いです。
だから肛門科は専門の先生にかかってください。
きっと違うはずです。
あなたの近くにもきっといるはずです。
探してみて下さい。
その時に以下の記事を参考にしてみてください。
全国にある肛門専門施設について実名で書きました。
コチラの記事を是非読んで選んで欲しいです↓
皆さんがまじめに良心的にやっている肛門を専門にしている先生に出会えることを願っています。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。