肛門皮垂(スキンタグ)〜たるみが出来た原因を治さずに手術してもまた出来る〜
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(2019年5月7日加筆修正)
元皮膚科医という経歴からか、女性患者さんから、お肌の悩みや化粧品についてよく相談を受ける佐々木みのりです。
痔ではないけど、手術の必要もないと言われたけれど、それでもやっぱり気になる肛門の皮膚のたるみ「皮垂」(ひすい)。
「人に見せる場所じゃないし、顔じゃないんだし、そんなこと気にするのは邪道。頭では理屈で分かっていてもやっぱり気になる!!」
「それがコンプレックスになってる」
「そのせいで彼氏とエッチも出来ない」
「セックスの時に彼氏から『痔があるよ」と指摘されてショック・・・」
女性患者さんから年齢を問わず、そのような悩みを告白されることが多い肛門科女性外来。
いぼ痔とどう違うの?
なんで出来るの?
そんな患者さんの素朴な疑問に答えたいと思います。
この記事の目次
皮垂はなぜ出来る?
皮垂は皮膚のたるみです。
でも皆さんが一般的にイメージする皮膚のたるみって「老化」「加齢」によってできるものというイメージがあるようですね。
肛門に出来る皮膚のたるみ「皮垂」は老化で出来る「シワ」や「たるみ」とは違います。
歳を取ったからって出来ません
必ず「何か原因があって」形成されます。
自然に皮膚が盛り上がってきたり、たるんだりしません。
腫れがひいた後のたるみとして出来ます。
腫れの原因は次の3つが多いです。
1,血栓性外痔核
これは「おしりの血豆」です。
手術しなくても治る痔ですが、腫れが大きいと、ひいたあとにたるみとなって残ってしまう場合があります。
病気についての詳しい解説はコチラ↓
2.見張りイボ
これは切れ痔(裂肛)の炎症によって出来た皮膚の腫れです。
切れ痔があるときは硬くコリッとしていたり、場合によっては赤く腫れたりするのですが、切れ痔が治ってしまうと炎症がひいて、やわらかい皮膚のたるみのようになることが多いです。
硬いまんまのケースもありますが、いずれにせよ、皮膚のかたまり、皮膚のたるみですね。
ある意味、これは切れ痔の証拠でもあります。
患者さんが話してくれなくても肛門を診たら分かるという私たちにとっては重要な情報源でもあります。
切れ痔についての詳しい解説はコチラ↓
女性の皮垂の原因で最も多いのが「見張りイボ」です。
医学的には手術の必要はありません。
気にならなければ手術なんてせずに持っていてもいいんです。
皮垂を、手術せずに持っておくという選択をする女性も多いです。
痔ではなくて切れ痔のせいで出来た皮膚のたるみだと聞くと喜ぶ患者さんも多いです。
それにね
手術してキレイにしてもらっても便通を治さなければまた出来ますよ。
だから切れ痔の原因となった便通を治して下さいね。
3.痔の手術
肛門の手術後は個人差はありますが、ある程度、むくんだり腫れたりします。
その腫れやむくみがひいた後に、その部分の皮膚がたるみとして残ってしまうことはよくあること。
これを「術後皮垂」というのですが、気にする患者さんと全く気にとめない患者さんとにハッキリ分かれますね。
別に術後の経過には影響がなければ切除したりしませんし、影響がないことが多いです。
皮垂の手術、する?しない?
皮垂は病気ではないので医学的には手術の必要はありません。
だけど女性にとったら悩ましいもの。
できれば切除してキレイな肛門にしたい
そう思われる女性も多いです。
特に大きな皮垂だと異物感や違和感もありますし、坐薬を入れるときや拭き取るときに邪魔になったりしますから、あまりにも巨大なものは手術を考えてもいいと思います。
ですが、基本的に私は小さな皮垂の手術には反対派です。
特にごま粒くらいの小さな、米粒にも満たないような大きさの皮膚のたるみを気にする患者さんの手術は断っています。
なぜなら切除することによって、つっぱる肛門になり便が出しにくくなったり、術後に肛門がむくんだり腫れたりすれば、また別の場所にたるみが出来てしまうからです。
この腫れやむくみは体質もあるのか、全然腫れない人と何度やっても腫れてしまう人がいます。
何度切除してもイタチごっこになってしまって、結局キレイにならないことがあります。
そのキレイの基準も患者さんの美的センスによって随分違うのも事実。
鏡で毎日見ている顔じゃないのに、こんな小さなたるみをどうやって見つけたんだろう?
って診察している私が不思議に思うこともあるくらい、本当に小さな小さな皮膚のシワの盛り上がりやたるみを気にする患者さんがいます。
肛門は便を排泄する大切な部位。
見た目のキレイさよりも肛門機能の方が大切です。
いくらシワのないキレイな肛門でも、つっぱって伸びにくい便が出しにくい肛門になっては意味がありません。
だから私は見た目よりも排泄機能重視で手術するかどうか決めています。
肛門は水平方向にも垂直方向にも動く筒のようなもの。
動くためにはシワは必要です。
ある程度のシワがなければ伸びたり縮んだり出来ません。
生理的なシワやたるみまで切除することは良くないです。
特に肛門の手術後に出来た皮垂「術後皮垂」は、肛門が伸び縮みするのに必要だから出来たとも言えます。
手術直後は大きく腫れていても、しばらく経つと腫れがひいてきて、硬かったものがやわらかくなり、数ヶ月したら自然なシワになって治ってしまったというケースも多いです。
だから術後皮垂については術後半年くらいは経過を見るようにしています。
慌てて手術を考えないことです。
私たちは、どんな手術でも慎重に検討するという姿勢を大切にしています。
いぼ痔(痔核・脱肛)と間違えられることもあるので要注意!
当院は自由診療です。
保険が効きません。
保険診療に比べると診療費が高いため、あちこちの肛門科(を掲げている施設)を回ってから最後に来られる患者さんが結構おられます。
その中で時々あるのが皮垂をいぼ痔(痔核・脱肛)と診断されて手術を勧められているケースです。
皮垂と脱肛は違いますよ。
これ、専門外の先生がよく勘違いすることの一つなのですが、「肛門のでっぱり=いぼ痔」ではありません。
いぼ痔は「肛門に出来た静脈瘤のようなもの」なので、うっ血すると腫れたり、うっ血がとれるとしぼんだりして大きさが変化することがありますが、皮垂は皮膚のたるみなので、トイレで頑張っても腫れることはまずないです。
ただ、皮垂なのか外痔核なのか診断に迷うケースはあります。
私は血管成分が多く、うっ血により大きさが変動するものは外痔核として扱っていますが、この診断基準は医師によってまちまちです。
学会のスライドを見ていても、「これ、皮垂じゃなくて外痔核でしょ」と思うものもあれば、「これは痔核じゃなくて皮垂だよね」って思うものもあるわけです。
要するに医師によって皮垂と診断するか、外痔核と診断するかは個人的見解の相違だったりするんです。
でも、皮垂にしろ、外痔核にしろ、別に無症状で患者さんが何も困ってなければ手術は必要ありません。
そのせいで便が出にくいとか、肛門の排泄機能には何も影響はありません。
だから慌てて手術を受けないで下さいね。
あとから考えても手遅れになりませんから。
まじめに良心的にやっている肛門を専門にしている先生だと皮垂を脱肛と言って手術をしないと思います。
だから肛門科は専門にかかってほしい。
この記事に肛門専門施設を実名で書いています↓
参考にしてみてください↓
皮垂を作った原因である便通を直さなければ切除してもまた出来る
そもそも皮垂が出来た原因は何でしょう?
血栓性外痔核も切れ痔(裂肛)も自然に発生しません。
その背景には必ずと言っていいほど便秘があります。
その便通を直さずにキレイに切除してもまた出来ますよ。
間違った排泄を直さなければ痔は何度でも繰り返します。
皮垂や見張りイボを切除する手術を年に3〜4回受けている患者さんがセカンドオピニオンで来られることが時々あるのですが、何度手術しても同じです。
「何回手術しても痔になるんです」
と言われますが、便通を直さずに手術だけ受けても、切れない肛門は作れないし、二度と痔にならない肛門に生まれ変わるわけでもないです。
だから何度も手術を受けずに便通を直して下さいね。
何度も手術を繰り返した肛門は、つっぱって伸びにくい、狭い肛門になっています。
そうなると
便も出しにくい、
便を出すと痛い、
ちょっとしたことですぐに切れてしまう
といった「使い勝手の悪い肛門」になってしまいます。
見張りイボの手術は慎重に考えて下さいね。
そんな小さなたるみ、気にするような男はやめときなさい
小さな皮垂を気にする若い女性に共通した悩みがあります。
彼氏から指摘された・・・というもの。
中には「お前、その痔、キレイにしてもらってこい」と彼氏から言われて泣きながら受診された患者さんも過去に数名おられました
彼氏同伴で診察室に入ってこられたこともありましたね。
そのような場合、決して女性は手術を望んでいないことが多く、彼氏に言われて仕方なく受診、手術を考えるという流れになっているのですが、私は手術をお断りしました。
病気でもない肛門を傷付けることは許せないし、そんなこと言う男も許せない(笑)
そのような女性患者さんから彼氏のことを色々と相談されたことがあるのですが、「こんな小さな肛門のたるみを気にするような男はやめておいた方がいいよ」とアドバイスしました。
だって、気にするのは肛門のたるみだけで済まないですよ。
別にキレイにしなくても自分のことを愛してくれる男性を見つけた方がいいと思います。
というわけで、診察室が恋の悩み相談所みたいになることもあります。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。