痔ろう(痔瘻)とは?

痔瘻・痔ろうは「じろう」と読みます。肛門が化膿する病気です。
通常は激痛と発熱で発症し、初期に膿を出すために切開処置を必要とするケースが多い病気です。
こういった初期段階の痔ろうは特別に肛門周囲膿瘍と呼ばれます。
教科書的には痔ろうの原因は下痢とされていますが、当院では便秘の方の痔ろうも多数経験しています。

なお、いぼ痔(痔核)は悪化しても痔ろうにはなりません。切れ痔(裂肛)の中には浅い痔ろうになるケースがありますが、すべての切れ痔が痔ろうになる訳ではありません。(Ⅰ型痔瘻を参照)

他のもっと軽度の痔が悪化して最後にたどりつくのが痔ろうである、と考えている方がおられますが、これは誤りです。痔ろうはいぼ痔(痔核)、切れ痔(裂肛)とは独立した別の病気です。

症状は痛み、腫れ、膿、発熱が最もよく見られる症状で、かゆみが主体のケースもあります。
一方で、無症状の方もおられ、多彩です。
これは炎症の強さが変化することと、炎症による症状には個人差があるからです。

痔ろうで注意すべきは、痔ろうから起こる「痔ろうガン」です。
痔ろうガンは比較的珍しいガンで、ほとんどが10年以上痔ろうを放置した後に発生します。
発生頻度はそれほど高くはないだろうと考えられていますが、正確な頻度は不明です。

痔ろうの経過と特徴

痔ろうは、処置や手術になることが多い病気です。特に初期の化膿の時には切開の処置が緊急に必要な場合があります。痔ろうが疑われる場合には早めに専門家にご相談になることをお勧めします。

  • 発症時

    原因となる肛門腺に便が入り込み化膿が始まります。
    免疫力が十分な場合、これ以上化膿せずに治ってしまうと考えられます。

  • 急性期

    炎症が持続し、膿の分量が増えて広がります。
    膿が周辺を圧迫し非常に痛くなり、発熱もあります。
    自然に破裂して膿が出たり、病院で切開処置を受けて膿を出してもらう方もいます。

  • 慢性期

    膿が出た後の病巣は完全にふさがらないケースが多く、膿が溜まっていた病巣はトンネル状のろう管となって残ります。ろう管に便が再び入り込んで炎症を繰り返します。

痔ろうの原因

痔ろうの原因は、肛門の少し奥にある肛門腺という細い管に便が入り込み化膿することです。

  • 下痢便・軟便の方では、便が勢いよく出るので細い管に入り込みやすい
  • スッキリ完全に出し切れない排便の方(出口の便秘)では、肛門腺付近には常に便があるため便が管に入り込みやすい

という2つの原因が考えられます。

痔ろうの治療

痔ろうは治すなら手術が必要です。
そして正しく手術すれば、ほとんどの痔ろうは治ります。
一部治癒出来ない痔ろうがあるとされますが、例外的だと考えます。
当院が手術をお勧めするのは以下のような方です。

  • 痔ろうガンがこわい方
  • 痔ろうによる症状が辛い方

こういった方は、手術をした方が良いと考えています。
なお、痔ろうガンについてですが、痔ろうで定期通院していても、痔ろうガンの早期発見は困難です。
手術せずに痔ろうと付き合う場合は「痔ろうガンが起きる危険を理解したうえで誰のせいにもしない」という覚悟が必要です。

最近では多くの手術方法が考案されています。どの方法を選択するかは診察・検査の結果により決定します。

単純痔ろうと複雑痔ろう

痔ろうはろう管の通り道によって、4つの種類に分類されています(隅越分類)。Ⅰ型とⅡ型は単純痔ろう、Ⅲ型とⅣ型は複雑痔ろうと呼ばれます。

  • Ⅰ型痔ろう

    最も浅いタイプでろう管は皮膚のすぐ下を走ります。
    多くは裂肛(切れ痔)から発生します。
    手術は、裂肛と同時に裂肛の術式で行う事が多いです。

  • Ⅱ型痔ろう

    最も良くあるタイプの痔ろう。
    ろう管が直線状のものが一般的です。
    手術の際には切開開放術、シートン手術が適用されます。
    曲がっている場合は手術に工夫が必要です。

  • Ⅲ型痔ろう

    複雑痔ろうの中では一般的なタイプ。
    瘻管はぐるりと曲がっていることが多く、治療には知識と経験が必要です。
    専門の肛門科医による手術が望ましい病状。
    術式としては締まりを温存する括約筋保護術、シートン手術を選択します。

  • Ⅳ型痔ろう

    複雑痔ろうの中でも特に深いタイプで感染が直腸の方向に広がるものです。
    頻度は少なく、経験豊富な専門家が手術しても一定の確率で再発します。
    術式はケースバイケースで選択します。

  • クローン病による痔ろう

    クローン病は腸管に炎症が起きる病気で、特徴的な痔瘻を併発するケースが多いことが知られています。クローン病による痔瘻が疑われた場合、大腸(と小腸)の検査を行います。治療は専門の施設に紹介の上行います。

痔の種類と治療

痔の症状は大きく3つに分類されます。種類ごとに症状や治療法など詳しく説明します。

  • イボ痔

    肛門が膨らんでこぶ状になる病気。
    通常の痔核ではでっぱりと出血が主な症状で痛みは軽度ですが、痔核の一種である血栓性外痔核は突然痛みと腫れで発症します。

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  • 切れ痔

    裂肛は肛門に出来たキズ。
    排便時の痛みと少量の出血が典型的な症状で、原因は硬便が多数を占めます。初期に適切に治療すれば治りますが、慢性化すると手術が必要になるケースもあります。

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  • 痔ろう

    肛門が化膿する病気。
    痔ろうは激痛と発熱で発症し、初期に膿を出すために切開処置が必要なケースが多いです。長期間放置すると痔ろうガンが発生するケースがありますので、注意が必要です。

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