脱肛のせいで起こる裂肛が随伴裂肛(激痛)
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(2019年5月6日加筆修正)
実は痛みに弱い院長の佐々木巌です(笑)。
ものすごーく強い痛みを訴えて、人によっては文字通り脂汗をかきながら受診されたのに、パッと診察しただけでは普通の痔核だけしか見えないことがあります。
通常、痔核は無痛ですから、あれあれ?おかしいな?となります。
中には、すでによその肛門科を受診しておられて「そんなに痛いはずがない」と分かってもらえず、探して当院を受診される方も。
こんな時には、随伴裂肛を疑って診察をします。
先生によっては牽引裂肛と呼ぶ先生もおられますが、今回はまとめて随伴裂肛と呼ばせて頂きますね。
今回はこの随伴裂肛についてお話しします。
随伴裂肛とは
私たちは痔核や肛門ポリープなどが牽引されてできる裂肛のことを随伴裂肛と呼んでいます。
裂肛ですから、キズがある状態なのですが、言葉が示すとおり「何か別のモノに伴って、引っ張られたせいでできた裂肛」です。
本来、裂肛は硬い便(場合によっては下痢便)によって、便の通り道の皮膚が直接キズつくことで起こります。これが通常の裂肛です。
これに対して随伴裂肛の直接の引き金になるのは、便の通り道にある隆起、つまり痔核や肛門ポリープです。
普段肛門の中に収まっているこれらの隆起は、便が通るときには摩擦で肛門の外に飛び出そうとします。つまり脱肛するわけです。
脱肛する時に隆起の部分が引っ張られて、便が擦れる部分ではなく、隆起の根元の皮膚が裂けてしまうのが随伴裂肛です。
この随伴裂肛というのは正式な標準の病名かどうかは、知りません(笑)。
しかし、現実にはこういった病状にしばしば遭遇します。
随伴裂肛の症状
随伴裂肛の方は、通常、排便に伴う「激しい痛み」を訴えて受診されます。
そして当然ですが、痛くなり始めるより以前から、排便の時には「でっぱり」が出てきていたという経歴があります。
痛くなるまではチョイと押さえれば簡単に戻っていたので不便はなかったのに、あるときから急に排便時に激痛が出現し、でっぱりを押し戻すのが難しくなり、押し戻した後も数時間痛みが続く・・
こんなのが一番典型的な症状です。
一般に出血は大したことないという方が多いです。
出っ張りのせいでキズがついているのですが、出っ張りが動くたびにキズに負担がかかって、キズが治らないから出っ張りは炎症で大きくなるし、出っ張りが大きくなれば動くときにキズにかかる力はより大きくなり、当然痛みは強くなり・・。
絵に描いたような悪循環です。
とにかくメチャクチャ痛いそうです(苦笑)
診察はどうする?
こんなに痛いのに、診察を受けるのは恐ろしい・・
はい、よく分かります。
が、見なければ話になりませんので、診察は行います(笑)。
隆起の根元にあるキズを確認するのには、高度な技術を要します。
特に隆起が柔らかい場合、肛門鏡で確認しようとしても、隆起がすぐに覆い被さってキズを隠してしまうのです。
ですから診察の時には「ここにキズがあるはずだ」という予測を立てる経験が必要、というか経験が一番重要。
だって、予測も立てずに肛門の中のキズを探すなんて・・
そうでなくても脂汗をかいてる患者さんが耐えてくれるかどうか・・(苦笑)
実は、大阪肛門病院(当院の旧名称)に赴任したばかりの若い頃は、こういった病状があることを知りませんでした。
え?どうしてって?
実はこの病状、少なくとも当時は教科書にも書いてなかったし、誰もハッキリとは教えてくれなかったのです。
私がこの病名を聞いたのは手術室の中でのこと。
上司が「あー、随伴裂肛があるねえ」と言っていたのを何度か聞いたから。
当時は手術の現場まで来て、やっと診断できる病状なんだと理解していました。
そんなわけで、教科書にも書いてない、上司が口にしただけの随伴裂肛と言う病名、前述の通りで、未だに正式に通用する病名かどうかは知りません・・(苦笑)
大阪肛門病院に来てから、痛みでどうしようもない患者さんを診察する機会を得て、自分で理解したわけです。
その当時はこういう病状があることも知らず、当然経験もありませんから、患者さんに痛い思いをしていただきながら肛門の中を隅から隅まで確認して、やっとこキズを見つけておりました。
当時の患者さんには本当に辛い診察の痛みに耐えて頂き、教えていただきました。感謝しています。
・・考えてみたら、患者さんにしたらそれでも痛みの対策をしてほしい、と言う意味だったんでしょうね。
それくらい切羽詰まっていらっしゃったと言うことだったのでしょう。
最近の診察痔の痛みは、当時に比べると大分マシ・・なはず(汗)
でも痛くないって言ったら、やっぱりウソだよなあ。ゴメンナサイ。でも痛くないように努力しています。
随伴裂肛の治療はどうするのか
治療はご希望(と患者さんの辛抱強さ)にもよるのですが、多くの場合手術になります。
手術では、隆起の部分を切除して平坦にして、同時に裂肛も傷の治りが良いように処理します。
大阪肛門科診療所は手術を避ける技術を大切にしている肛門科ですから、患者さんが手術したくないとおっしゃればその希望が叶うように一生懸命付き合います。
この場合はどうするのかというと、出残り便秘の解消です。
こういった病状の方はほとんどの場合、常時直腸に便が残っています。
この残った便は様々な形で肛門に悪影響を及ぼしますから、この残便をスッキリ排便していただくのが私たちが行う出残り便秘の治療です。
通常の裂肛ならこの治療で手術を回避できるケースが多いのです。
しかし、随伴裂肛の場合はこういった治療には反応してくれることは少ないですね。
少なくとも治療をはじめてから2週間程度で改善できるケースはごく少数です。
もちろん長期間粘ることができれば、もっと治るケースが出てくるのかも知れませんが、いかんせん排便自体がものすごい激痛です。
一刻も早くラクになりたい方が多いのです。
私たちも知っていますから、つい
「手術の方がラクかも・・」
こんな風にお話しすることが多いですね。
さいごに
随伴裂肛の手術は、喜んでもらえるケースが多いですねえ(笑)。
だって、仮に痛みがあったとしても、手術前とは患者さんの心が全然違うんです。
「手術の前は『いつまでこんな状態が続くんだろう』って悲しくなっていたのが、手術した後には『この痛みを越えれば痛みのない日々がやってくる』って思えるんです。前向きな痛みなんです。全然我慢できます(笑)」
そうそう、同じ痛みでも希望のない痛みと希望のある痛みでは、患者さんの表情は全く違います。
当院は手術をお勧めするということはあまりないのですが、術後の患者さん達を見ていると、この病気だけはお勧めしても良いのかな?って思ったりします。
大阪肛門科診療所 院長。 平成7年大阪医科大学卒業。大学5年生の在学中に先代の院長であった父が急逝(当時の名称は大阪肛門病院)。大学卒業後は肛門科に特化した研修を受けるため、当時の標準コースであった医局には入局せず、社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。隅越幸男先生、岩垂純一先生、佐原力三郎先生の下で3年間勤務、研修。平成10年、院長不在の大阪肛門病院を任されていた亡父親友の田井陽先生が体調不良となったため社会保険中央総合病院を退職し、大阪肛門病院を継承。平成14年より増田芳夫先生に師事。平成19年組織変更により大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。