手術件数で病院の実力が分かるのか?
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(2019年7月9日加筆修正)
若い頃は早食い・大食いなら誰にも負けない自信があった佐々木みのりです。
数ヶ月前にアンケート用紙が届きました。
某新聞社からの手術件数についてのアンケートです。
いつもならスルーしてゴミ箱行きなのですが、今回は敢えて解答して返信しました。
「病院の実力」というタイトルで某新聞紙面上に掲載されるとのこと。
当然、「手術件数=病院(医師)の実績」ですから、数が多い方が実力が上という内容であることは予測できます。
手術件数の少ない当院が掲載されても、私たちにとってはメリットはありません。
むしろ手術件数が実力を表すのであれば、私たちは実力が無いということになります(苦笑)
たくさん手術をやっている先生から見れば「こんなちょっとしか手術やってないのか?!」とバカにされる可能性もあるわけです。
デメリットを覚悟の上、アンケートに答え掲載されることを選択しました。
その理由は、専門医・指導医が2名も居る肛門科専門施設が、こんなにも手術件数が少ないと言うことに注目してもらうことによって、痔の多くが手術をしなくても良くなることを知って欲しいからです。
このブログも多くの患者さんにそれを伝えたくて書いています。
ブログやホームページでも記載していますが、当院の手術率は5%前後です。
手術をしない技術、手術を避ける技術を大切にしています。
それも患者さんの「出来れば手術は受けたくない」「手術せずにすむのであれば手術したくない」という希望によって実現した診療方針でもありました。
そして実際に、痔の多くは手術をしなくても改善することを患者さんを通して体験することになったのです。
この記事の目次
「痔=手術」ではない
医師に限らず世の多くの人が痔の治療というと手術を連想するようです。
でも実際は全く違います。
痔の多くが手術をしなくても良くなります。
手術が必要な痔は本当に少ないです。
実際に当院に来られた患者さんの手術率は5%以下です。
ほとんどの患者さんが手術をせずに痔が治っています。
他の病院で手術を勧められた患者さんも全国各地からセカンドオピニオンで来られていますが、今スグ手術が必要な痔はほとんどありません。
初めて受診された患者さんを診察して、そのままその場で手術するという経験は私たちは皆無です。
それは当院が自由診療であると言うことも大きな理由ですが、患者さんの希望を聞かずに、承諾も取らずその場で手術をしてしまうことはあり得ないです。
たとえ医学的に手術適応であっても・・・。
手術適応は医師によって異なる
院長もブログで書いていますが、肛門科は診断が最も難しいと私たちは考えています。
当院は自由診療なので、色々な病院を回ってから最後に受診される患者さんが多いです。
施設によって「診断」も違えば「治療方針」も随分違うことを患者さんを通して知っているからです。
「ひどい脱肛で今スグ手術が必要です」と言われた患者さんが、脱肛ではなくて切れ痔(裂肛)と見張りイボだったり、
「痔が飛び出てるから手術するしかない」と診断された患者さんが、ただの皮膚のたるみ「皮垂(ひすい)」「スキンタグ」だったり、
「腫れ上がって重症だから今、切りましょう!」とその場で手術を勧められた患者さんが、切らなくても治る痔「血栓性外痔核」だったり、
中には本当にひどいケースがあって
「複雑痔瘻で手術が必要です」と言われた患者さんが何も異常が無い正常な肛門だった・・・
ということまであります。
患者さんも「同じお尻なのに、先生によって言われることがこんなに違うなんて・・・。何を、誰を信じたらいいのか分からない。」と混乱される方もおられます。
診断自体が違うわけですから、当然、その先にある治療も違ってきて当たり前。
診断が大きく違うケースのほとんどが専門外の医師によるものでした。
だから肛門科は専門にかかってほしいです。
専門かどうかの見分け方が難しいのですが、以前に書いた以下のブログを参考に探してみて下さい↓
http://osakakoumon.com/column/643/肛門科の専門医の探し方・選び方〜期待外れにならないために〜
あなたの近くにもきっと肛門に詳しい専門の先生が居るはずです。
専門医の資格を持っていなくても下記にある肛門専門施設での研修・勤務経験がある医師、あるいは施設そのものが古くから肛門専門施設であるなら専門性は高いです↓
特に女性医師は少ないです。
肛門科を受診する際には女医にこだわらず専門性で選んで欲しいです。
また診断は同じでも医師によって提案する治療が違うのも事実。
手術適応に関しては「肛門疾患ガイドライン」にも明確な基準が掲載されていますが、そのガイドラインも正しい診断が出来てこそ生きてきます。
例えば痔核(いぼ痔、脱肛)。
「脱出しない痔核は手術適応ではない」
と明記されているにもかかわらず、脱出症状のない無症状の患者さんに手術やジオン注射を勧めている先生もおられます。
「診察したら中に大きないぼ痔がある。放置するとえらいことになるから早めに手術した方が良い。」
と説明をされると、いぼ痔に気付いてなくても、今は症状が無くても、患者さんとしては不安になります。
「私って、そんなにひどかったんだ・・・。」とショックを受けられることもあるでしょう。
ひどくなる前に手術をするのか、ひどくなってから手術をするのか、医師によっても患者さんによっても考え方が違うのでしょうが、ガイドラインを基準に考えるのであれば、手術は不要という結論になりますね。
また脱出しているいぼ痔(脱肛)で医学的には手術適応でも、痛み・腫れ・出血などの症状が無く、患者さんが何も困っていなければ、手術は必要ないと私たちは考えています。
医学的に手術が必要な状態であることと、患者さんが手術を必要とするかは別問題。
医学的に正しいことが患者さんを幸せにするとは限らないので、私たちはどうすることが患者さんにとって、患者さんのお尻にとって最善かを考えて治療を提案しています。
そして手術をするかしないかを含め治療を決定するのは患者さん。
医者じゃない。
決めるのは患者さんなんです。
痔は良性疾患
痔は癌と違って命にかかわる疾患ではありません。
どんなにひどくても、どこまでいっても痔は良性疾患です。
だから今日、明日に手術をしないとどうにかなってしまう・・・という緊急性はありません。
最近では癌でも手術を拒否して保存治療を選択する患者さんもおられると聞きます。
ましてや痔です。
放置しても死にません。
そもそも何が何でも手術をしなければならない疾患ではないんです。
アメリカから来られた患者さんが日本の肛門科の手術率の高さと手術件数の多さにビックリされていました。
アメリカでは保存治療が一般的で、よほどのことがない限り手術はしないそうです。
それは手術治療費が高額であると言う医療事情もあるのかもしれません。
(おそらく100万円は越えるでしょう)
「日本では軽い痔でも手術をしている」とおっしゃられていたことが印象的でした。
痔は良性疾患なので絶対に手術しなければならないということはありません。
どんなに痔がひどくても、痔のせいで困ったことが何もないのであれば、手術せずに痔をもっていてもいいのです。
痔のせいで排便が地獄だとか、痛みのせいで生活に支障を来しているのであれば手術を考えられるのも一つの選択肢でしょう。
でも、その今のつらい症状だって、本当に手術でしか取り除けないのか?
そこをよく考えて欲しいです。
本当に手術以外に今のつらい症状を取り除くことが出来ない場合に、最終手段として手術を考えるのであれば後悔もないでしょう。
でもね
意外と手術しなくても、つらい症状って治せるんですよ。
手術件数は恣意的に増やせる
肛門は顔のように鏡で毎日見ませんし、肛門の中はどんなに頑張っても自分で見ることは不可能です。
だから・・・でしょうか。。。
医者の診断を鵜呑みにせざるを得ないし、それが専門医なら尚更でしょう。
患者さんには見えない・分からないから、ある意味、何とでも言えるわけです。
そこでどれだけ誠実に仕事が出来るかを試される診療科でもあるかもしれません。
昔、Amebaブログ「みのり先生の診察室」でこんな記事を書きました。
見えないところでどれだけ誠実に仕事できるか
(Amebaブログ「みのり先生の診察室」のページ内で検索してみて下さい)
以前、同門の小原先生が臨床肛門病学会で興味深い発表をされました。
患者さんアンケートの結果を報告されたのですが、「専門医にすすめられた手術を決心しますか?」という質問に対して、なんと90%の人が即決心するか前向きに考えると答えていたんです!
これは衝撃でしたね。。。
小原先生が自身のブログで次のようにコメントされています。
この結果、悪意をもって解釈すれば自覚症状で困っていなくても「あなたは痔です。早く手術しましょう。」と我々専門医の医師が患者さんの耳元でささやくことで「手術をうけてしまう」患者さんを作り出すことさえ出来る、とも言えるわけで、、、
色んな意味で手術件数を増やしたいという「誘惑」は医療の世界に皆無ではありません。
「手術件数だけ」をよい病院、よい医療機関の指標することはあまり適切ではないと感じる所以です。
それだけ専門医の口にする言葉は様々な意味で重い、ということを改めて感じました。
つまり専門医という肩書きを持った医師が、患者さんの耳元で「あなたの痔はひどいですよ。放っておくとえらいことになりますよ。手術した方がいいですよ。」とささやけば、9割の人は手術を受けるわけです。
たとえそれが医学的に必要なくても。
患者さんが必要としていなくても。
私たちの説明の持って行きよう一つで、さじ加減一つで手術は増やせるのです。
手術件数が病院の実力を反映するとは限らない
「情熱を持って説得すれば患者は手術に応じる」と豪語している肛門科の先生もおられますから、恣意的に、意図して手術を増やすことは可能です。
また手術適応の判断も医師によってまちまちです。
適応ラインを甘くすれば、ハードルを下げれば、いくらでも手術適応となるわけです。
だから痔疾患については手術件数が病院の実力を反映するとは限らない。
手術件数が多いということは、手術治療をメインにしているという証拠。
最初から手術希望の方は手術数の多い病院を選ぶのも一つの選択肢でしょう。
ほとんど手術なんてやったことのない医師や病院にかかるよりも、経験豊富な医師に手術をお願いしたいと思うもの。
でも手術件数と技術は必ずしも正比例ではないことも事実。
たくさんやっているから手術が上手いわけでもない。
究極、自分のお尻で体験してみるしかない、比べてみるしかないわけで、何度も試しに痔の手術を受けるわけにもいきませんから、肛門専門施設や専門にしている医師を選ぶことと、あとは「ご縁」なのだと思います。
昔から「医者選びも寿命のうち」と言われますが、本当にそうなのかもしれません。
手術と言われた痔を「手術せずに治す技術」は評価されない
当院は自由診療です。
保険診療の肛門科に比べると治療費が高いです。
だから・・・というワケではないのでしょうが、色々な病院を回ってから最後の砦だと思って受診される患者さんが多いです。
ホームページやブログでも手術率の低さと「手術をしない技術」「手術を避ける技術」を大切にしていることを謳っているせいか、手術と言われたけれど手術をしたくないという患者さんが大勢来られています。
そこで手術適応の基準の甘さと方針の違いに驚かされるわけですが、大凡、手術が必要なケースは無いのです。
特に多いのが切れ痔(裂肛)が治らないから、切れ痔(裂肛)が治ってはまた切れて・・・を繰り返しているから手術と言われているケースが多いのですが、
切れ痔(裂肛)が治らないのも、切れ痔(裂肛)を繰り返しているのも、「肛門が悪い」わけではなく「便通が悪い」のです。
便通を治さずに手術だけ受けても「切れない肛門」を作ることは出来ませんから、手術してもまた切れ痔(裂肛)を繰り返すわけです。
実際に3〜4回、手術を繰り返し受けているのに切れ痔(裂肛)が治らないという患者さんが多く受診されています。
切っても切ってもまた切れる
切って肛門をキレイにしても何度も見張りイボが出来る
と困っておられるのですが、多くの患者さんが便通を治したら2週間で切れ痔(裂肛)が完治し、通院まで必要なくなることに衝撃を受けられます。
いぼ痔(痔核・脱肛)に関しては診断が異なることも多いです。
専門外の医師が血栓性外痔核や肛門皮垂を脱肛と診断し、手術治療を勧めているケースも多いですし、専門医の間でも手術治療なのか保存治療なのか、意見や方針が分かれることもあります。
当院では痔の原因となった便通を治すことに力を入れています。
それはどんなに痔を手術で治しても、便通を直さなければ何度でも痔を繰り返すことを長年の患者さんの経験でもって知っているからです。
そして患者さんを通して便通を直したら痔が治るという経験をさせて頂いてます
手術と言われた痔を手術せずに治す技術は誰も評価してくれません。
患者さんは喜んでくれますが、手術件数は減るわけですから、件数が評価の指標となっている医療本やランキング本では低評価となります。
それでもあえて掲載されることを選びました。
手術件数が少ないことを誇りに思っているからです。
こんなにも手術せずに治るんだよ!ということを誰か一人でもデータから読み取ってくれることを祈って。
痔を治したいのか?それとも痔の症状から解放されたいのか?
最後に痔で困っている人に問いかけたいです。
あなたにとって「治る」とはどういうことですか?
痔を無くしたいのか?
それとも
症状を無くしたいのか?
どっちでしょう?
出来てしまったいぼ痔(痔核・脱肛)を取り除いて無くしてしまいたいのであれば手術を選択するのが正解です。
でも、排便の時に切れないように・・・とか、排便の時に痛くないように・・・など、症状を無くしたいのであれば、手術以外に今困っている症状を無くす方法はあるかもしれません。
そして必ず確認して下さいね。
手術を受ければ今困っている症状が本当に無くなるのかどうか
ここ、すごく大切です。
手術を受けたのに何も変わらない
こんなはずじゃなかった
と後悔しないためにも。
私たちの外来には受けた手術を後悔している患者さんもたくさん来られています。
中には取り返しの付かない後遺症が残ってしまっているケースもあります。
だから手術は慎重に決めて欲しいものです。
その治療の先に何があるのか?
その治療によって何が得られるのか?
よく検討して決めて下さいね。
色々あれこれ治療をやってみたけどダメだったという最終局面で手術を考えたって手遅れになりませんから。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。