肛門が狭くなる原因 〜肛門狭窄症〜
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講演ばかりしているので時間制限のある学会発表が苦手な大阪肛門科診療所 肛門科女医で専門医・指導医の佐々木みのりです。
先日、学会で肛門狭窄について発表をしてきたので、ブログでも患者さん向けにまとめ記事を書きたいと思います。
肛門が狭くなる原因は様々です。
「細い便しか出なくなってきた」「便を出しにくい」という症状で受診された患者さんが肛門癌や直腸癌だったという経験もたくさんしているので、痔と決めつけず最後まで読んで下さいね。
肛門が狭くなる原因は主に次の7つ。
- 切れ痔(裂肛)の慢性化
- 痔瘻
- 肛門手術
- クローン病
- 洗い過ぎなどの過剰衛生
- 下剤の乱用
- 悪性腫瘍(肛門癌、直腸癌、肛門の皮膚癌)
この記事の目次
切れ痔(裂肛)の慢性化によって狭くなる場合
切れ痔(裂肛)によって肛門が狭くなる原因は主に2つあると私は考えています。
切れ痔(裂肛)の傷そのものの炎症で肛門が硬くなって狭くなるという場合と、下剤によって軟便ばかり出していることによって狭くなる場合です。
もちろんこの両方が重なっていることもしばしばあります。
切れ痔(裂肛)は簡単に言うと肛門のケガ。
ケガの傷が治る過程を考えれば分かりやすいでしょう。
ケガの傷を水で洗って絆創膏で保護したり抗生剤の軟膏を塗ったりして治すことが多いと思います。
昔は消毒をして傷をキレイに・・・と言われた時代もありましたが、消毒は傷の治りを遅らせるということが分かってからは消毒せずに流水で汚れを落とすだけになりました。
それでは肛門の傷はどうでしょう?
肘や膝の傷と違って流水で洗い流すことが出来ません。
しかも毎日「うんこ」💩が通って行きます。
傷があると硬い便を出すと痛いので、下剤を飲んでやわらかくする方が出す時に楽なんですが、この軟便がくせもの。
傷に付着しやすいのです。
便に汚染された傷は炎症を起こして腫れ上がったり、場合によっては化膿したりします。
傷の周辺が腫れて出来たモノが「見張りイボ」であり「肛門ポリープ」です。
外側に向かって腫れたら「見張りイボ」、肛門の内側に向かって腫れたモノが「肛門ポリープ」。
名前が違うだけで基本的に同じモノです。
切れ痔(裂肛)の炎症のかたまりですね。
そうして切れ痔(裂肛)が慢性化していくのですが、この慢性化に下剤の過剰内服が関係しているケースが多いです。
良かれと思って飲んでいる下剤、出す時に痛みが軽減するからと続けている下剤によって、かえって切れ痔(裂肛)を悪化させているのです。
切れ痔(裂肛)に関する詳しい解説はコチラ↓
https://osakakoumon.com/column/750
痔瘻によって狭くなる場合
痔瘻は肛門の中にあるくぼみ(肛門陰窩、肛門小窩)に便が入り込んで化膿し、肛門周囲の皮膚を突き破って膿が出て来て瘻管が形成される病気です。
膿が溜まっているわけですから当然、炎症があります。
炎症は組織を硬くするため、痔瘻の人は通常の人よりも肛門が硬くて狭い人が多いです。
全く狭くないケースもありますが、炎症が起こっている場所は硬いです。
特に痔瘻が深かったり何本もあるような複雑痔瘻の場合は狭窄が高度なケースが多いです。
もともと下痢傾向の人が多いため狭いことに気付いていない、困っていないこともしばしばあります。
肛門手術で狭くなる場合
いぼ痔(痔核・脱肛)、切れ痔(裂肛)、痔瘻、尖圭コンジローマなど、あらゆる肛門の手術で起こり得ます。
いぼ痔(痔核・脱肛)に対する治療として昔、広く行われていたホワイトヘッド手術によって生じた「ホワイトヘッド肛門」は有名ですが、どんな術式でやっても、やり方次第で肛門狭窄は生じます。
どの術式が良いとか悪いという問題だけではありません。
切りすぎた肛門は元に戻りません。
無いものは作れないので、肛門の手術には「病変を切除する」という「根治性」だけでなく、「排便がちゃんと出来る」という「機能性」も考えて慎重に丁寧に手術をする必要があります。
また傷が深いと瘢痕が生じます。
硬くなった組織は動かないため、伸縮性が無くなった肛門は細い便しか出せなくなります。
レーザーによる手術でも機種や手技を考えなければ火傷の跡と同じように硬い瘢痕を作り肛門を狭くしてしまいます。
ALTA療法(ジオン注射)も同じです。
ジオン注射は痔核をケロイド状に固めるため肛門が硬く狭くなることがあります。
大切なことは「どの術式なら良いのか」ということよりも「誰がどのように手術するかで結果が違う」ということ。
全く同じ材料を使って料理をしても、作り手によって同じ味にならないのと似ていますね。
術者によって結果が違うため、手術を受けるのであれば専門にしている先生を選んで欲しいです。
専門医の資格の有無よりも経験や技術のある先生を。
専門の医師の探し方はコチラのブログを参考にしてみてください↓
https://osakakoumon.com/column/643
https://osakakoumon.com/column/2103
https://osakakoumon.com/column/3023
クローン病によって狭くなる場合
大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍を引き起こす原因不明の疾患の総称をIBD(Inflammatory Bowel Disease)と言い、クローン病はIBDの1つです。
このクローン病は肛門病変を生じることが多く、肛門科で見つかることもあります。
主に痔瘻や切れ痔(裂肛)を生じるのですが、慢性の炎症を引き起こす疾患なので、当然、肛門にも炎症があり、組織が硬くなっています。
通常の痔瘻や裂肛と違い、クローン病という病気そのものによって引き起こされているため、クローン病の状態によって肛門病変も変化し、狭くなったり広がったりを繰り返します。
クローン病の病勢が落ち着いているときは肛門も調子がいいということは日常的によく経験します。
洗い過ぎなどの過剰衛生で狭くなる場合
洗い過ぎ、拭きすぎ、こすりすぎによってボロボロになった皮膚は炎症を起こし硬くなります。
つっぱって伸びない皮膚になり、開きにくい伸縮性のない肛門になるため便が細くなったり、ひどいケースになるとオナラをすると肛門が裂けるようになります。
詳しい解説はコチラ↓
https://osakakoumon.com/column/778
下剤の乱用によって狭くなる場合
便秘だから飲んでいる下剤、便通に良かれと思って摂取している健康食品によって軟便・下痢便ばかり出していると肛門が狭くなることがあります。
肛門の穴は普段閉じています。
排便の時だけ大きく開くわけです。
排便というのは肛門の穴を開く貴重な機会。
ところが軟便・下痢便だと穴を大きく開かなくても楽々便は出せますよね?
そうやって楽して便を出していると、使われなくなった筋肉が廃用性萎縮するように、肛門の筋肉も硬くなり開きにくい肛門になっていきます。
最終的にはオシッコのような水便しか出せなくなって受診されるケースが多いのですが、もう診察も出来ないくらい狭い患者さんが多いです。
指も入らない
肛門鏡なんて無理
これじゃあ、うんこ💩出せないよね💦
ということで手術になる悲しい結末を何度も見てきました。
特に健康食品は要注意です。
市販の下剤(コーラックやスルーラックなど)やダイエットを謳っているスリムドカン、便がドッサリ出ると評判の美爽紅茶やモリモリスリムなどにはセンナやアロエなどのアントラキノン系下剤が含まれています。
これらのものは腸を黒くします。
腸が真っ黒になると自分で動かない腸になってしまうだけでなく、大腸癌の発生の一因にもなるため、肛門だけでなく腸に与える影響も大きいです。
あなたが今、飲んでいるものに下記のブログに記載した成分が含まれていないか是非チェックして下さい↓
https://osakakoumon.com/column/2687
悪性腫瘍によって狭くなる場合
肛門に出来た癌や肛門に浸潤した癌によって肛門が狭くなることがあります。
癌の組織は硬いです。
困ったことに痛みがないため、組織が大きくならないと気付かれにくいです。
だんだん便が細くなってきた
細い便しか出なくなってきた
という症状で来られた患者さんが肛門癌だったり、直腸癌が大きくなって肛門に浸潤してきていたり、肛門の皮膚癌だったりしたことが年に数例あります。
痔と決めつけず癌でないことだけは確かめてほしいです。
診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
オモチャを持ってくるトレーニング中
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。