日本の肛門科の歴史と現状〜専門の医師を見分ける〜
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(2019年5月10日加筆修正)
当院は明治45年4月1日創立。
日本の現存する肛門科施設としては2番目に古い肛門科です。
だから何なんだ?
古いから偉いのか?
そんなことは思っていませんが、先祖代々、脈々と受け継がれてきた肛門科は、私たちの生きた証であり誇りです。
そして日本の肛門診療を語るには、肛門科の歴史を語らずして伝えられないので記事にすることにしました。
肛門科は大学ではなく開業医が受け継いできた診療科
肛門科は古くより、大学や大きな総合病院ではなく開業医が診ていた診療科でした。
1938年、国家総動員法が発令され、多くの機関や企業が強制的に統廃合されていた頃に医療の世界にも影響が及び、肛門科を削除しようという動きがあったそうです。
それに危機感を持った肛門病科の開業医師が集まり陳情を行い、かろうじて阻止されました。
それをきっかけに肛門病科の地位基盤を作るため1940年3月に日本直腸肛門病学会が設立されました。(この学会が後に日本大腸肛門病学会となります。)
私たちの祖先、大阪肛門病院を設立した初代院長、佐々木惟朝は学会の発起人の一人です。
学会創立時の副会長を歴任し、第二回日本直腸肛門病学会の会長を務めました。
まさに日本の肛門病学の幕開けに重要な役割を果たした人物です。
当時の資料や写真、学会誌が私たちの施設に残されています。
学会設立以前からあった肛門専門施設
学会設立以前より肛門専門施設が全国にありました。
第一回日本臨床肛門病学会学術集会の岩垂純一先生の講演より内容を引用させて頂きます。
年代順に掲載します↓
1902年 谷肛門科痔疾注射院(東京浅草)→ 現在は廃院
1903年 畑肛門病院(三重県伊勢市)→ 「畑肛門医院」と改名
1912年 大阪肛門病院(大阪市)→ 「大阪肛門科診療所」と改名
1921年 山本肛門病院(東京日本橋)→ 現在は廃院?
1923年 野垣病院(名古屋市)
1924年 松島病院(横浜市)
1927年 渡邉医院(京都市)
1928年 勝呂肛門科医院(西宮市)→ 「勝呂クリニック」と改名
1928年 三枝肛門科医院(静岡県)→ 「三枝クリニック」と改名
1933年 鮫島病院(鹿児島)
1935年 平田肛門科医院(東京青山)
1937年 荒川外科医院(東京九段)→ 「荒川クリニック」に改名
1946年 黒川梅田診療所(大阪)
1962年 錦織病院(奈良県)
日本で最初に開院した肛門専門施設「谷肛門科」と山本肛門病院以外、すべての施設が現在もまだなお続いていることに驚きと感動を覚えました。
上記の施設はいわゆる「老舗」肛門科です。
それぞれの施設に特徴があり、代々受け継がれてきた門外不出の技術もあるでしょう。
古いことが良いわけでも、古いから偉いわけでもありませんが、歴史が証明してくれることもたくさんあると思います。
専門病院、専門センターの台頭
1960年代になると肛門専門病院やセンターが開設され肛門科の発展に大きな役割を果たしました。
当時、研修が出来る肛門専門病院として
横浜に 松島病院
名古屋に 野垣病院
大阪に 大阪肛門病院(大阪肛門科診療所のことです)
鹿児島に 鮫島病院
の4施設がありました。
そして次々に新しい施設が開設されていきました。
1960年 社会保険中央総合病院 肛門病センター(東京新大久保)→ 「東京山手メディカルセンター」と改名
1972年 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院(岡山)
1977年 札幌いしやま病院(北海道)
1979年 家田病院(愛知)
1981年 所沢肛門病院(埼玉)
1981年 大腸肛門病センター高野病院(熊本)
1986年 松田病院(浜松)
1987年 日高大腸肛門クリニック(福岡県久留米市)
1988年 東葛辻仲病院(千葉)
これらの施設の多くが肛門専門施設として多くの肛門科の専門医を輩出し、肛門を専門にしている医師は上記のいずれかの施設で研修や勤務をしています。
関西圏では以下の2施設を加えたい。
大阪中央病院肛門科(大阪)
土庫病院(奈良)
逆に、これらの施設以外では肛門診療の専門的なトレーニングは難しいため、専門施設での臨床経験のない医師は、たとえ専門医資格を持っていても本当の意味での専門家とは言えない面があります。
これらの施設がすぐれている、ここなら絶対に大丈夫!というワケではありませんが、肛門専門施設であることは紛れもない事実で、一定の基準を満たしていると言えます。
もちろん施設によって、医師によって考え方や治療方針は違うでしょう。
それぞれの施設に個性があり、診察方法や手術方法も違っていたり、独自の治療をしている施設もあります。
患者さんによって合う合わない、好き嫌いといった好みもあるでしょう。
そこは受診して肌で感じてください。
少なくともこれらの施設では、痔ではないのに痔と言って必要の無い手術をしたり、見張りイボを脱肛と間違えるようなことは無いと思います。信じています。
大阪肛門科診療所は学会の研修認定施設ですが自由診療という特殊性もあり、現在は研修医を受け入れておりません。
子供が医者にならないのであれば、医者になっても診療所を継がないのであれば、弟子を取って育てようと思っていましたが、幸い、どちらかが必ず継承するという意思を伝えてきたので、私たちの思想や技術は子供に残そうと思います。
私たちは名を残すことは出来ませんでしたが、血を残すことは出来ました。
これからも脈々と受け継がれ、痔で悩める多くの患者さんから必要とされ、私たちが提供する治療によって患者さんが幸せになるのであれば、次の100年も続くでしょう。
医療は商売ではありません。
これはどんなに時代が変わっても
考え方が変わっても
ここだけは変えてはならない大切な部分だと思っています。
ここを変えずに貫いてきたからこそ100年以上こうして残っているのだと自負しています。
時代に流されず
お金に走らず
常に患者さんのことを思い
肛門病学を究めてきた先達に続きたいと思います。
後世に恥じることの無い肛門医療を地道にまじめに行い、キレイゴトと言われようがキレイゴトを貫き通し、後継者にバトンタッチしたいと思います。
まだまだ世の人々に認知されていない痔や肛門科のことを伝えるのが私の仕事であり、私にしか出来ない私の使命。
大げさですが使命感を持って情報発信をしています。
私たちのブログが痔で悩める人の心に光をともし、少しでも安心を与えられたら嬉しいです。
あまりにも専門外の医師にかかっている人が多いので、ちゃんとした肛門科の先生にかかってほしいと、いつもいつもセカンドオピニオンの患者さんを診る度に感じています。
当院に来なくてもいいんです。
どうか専門の先生にかかってください。
あなたの近くにもきっと居るはずです。
専門医資格の有無よりも「経歴」が大切
私たちのように肛門を専門にしている人間から見て、「肛門専門」だと言えるドクターの簡単な見分け方をお伝えしましょう。
私の外来を受診された患者さんから教えて欲しいという要望があったので具体的に書きますね。
セカンドオピニオンで来られた多くの患者さんから
「ブログを読んで、日本大腸肛門病学会の専門医リストを確認し、専門医だと思って受診したのに、肛門専門じゃなかった・・・。」
という苦情に近い意見も頂きました。
この記事です↓
医師選びに役立てて欲しいと思い書きました↓
この記事を読んで、ちゃんと調べて受診したのに、肛門専門の先生ではなかったそうです😰
どうやって見分けたらいいのか?
それを教えて欲しい、
是非書いて欲しい、
きっと自分と同じように困っている、迷っている患者さんがたくさん居るはず・・・
という患者さんの声と要望からこの記事を書きました。
だから肛門専門施設も実名で記載しました。
これらの施設を受診できれば一番いいのですが、居住地によっては受診が難しいケースもあるでしょう。
そこで近所のクリニックで・・・となるのですが、看板に肛門科と書いてあっても専門かどうかまでは分かりません。
そこでチェックして欲しいのが専門医資格ではなく「医師の経歴」です。
肛門専門施設での「研修」や「勤務」経験があるかどうか見て下さい。
よくあるのが以下のようなケース↓
○○年 ○○大学医学部 卒業
○○年 ○○大学医学部 ○○外科 助手
○○年 ○○大学医学部 ○○外科 講師
○○年 ○○肛門クリニック開院
ここには上記の肛門専門施設での研修や勤務実績がありません。
つまり外科での経験しかないまま、肛門診療のトレーニングを受けずに開業をして、肛門科をやっている医師だということが分かります。
たとえ専門医であっても肛門専門とは言えません。
ここに騙されて専門だと思って受診する患者さんがほとんどです。
ちゃんと肛門専門施設で研修した医師は経歴にそれを明記しているケースが多いです。
例えば院長と同じ社保中(社会保険中央総合病院大腸肛門病センター)出身者は以下のように記載していることが多いです↓
○○年 ○○大学医学部卒業
○○年 ○○大学○○外科入局
○○年 ○○病院 外科勤務
○○年 ○○病院 消化器病センター勤務
○○年 社会保険中央総合病院大腸肛門病センター勤務
○○年 ○○消化器・肛門クリニック開設(継承)
この経歴の部分に上記の病院名が入っているかどうか、それが「勤務」や「研修」であるかどうかをチェックして下さい。
時々、「お客さん」として「見学」しただけなのに「研鑽を積んだ」「肛門診療について研究」という記載をしているケースもあるため、そこは突っ込んで先生に尋ねてみると良いでしょう。
「見学」と「研修」とでは全く意味が違いますので、ちゃんと実態のあるものかどうかを確かめてください。
専門医や指導医はあるに越したことはありません。
でも最近は筆記試験と単位、症例報告だけでクリアー出来るようになっているため、上記の肛門専門施設での研修経験が無くても専門医や指導医の資格を取れてしまいます。
また専門分野の変更・書き替えが可能なため、外科領域で専門医を取得した医師が、開業するときに肛門科を標榜するために肛門領域に書き替えるケースもありますから、資格の有無が絶対的な信頼とはなりません。
あまり資格にとらわれすぎると本当の専門の先生にかかる機会をなくしてしまいます。
また例外もあります。
これらの肛門専門施設での研修経験はないですが、肛門の専門医・指導医に弟子入りしてトレーニングを受け、専門医や指導医を取得された先生もおられます。
自院に専門医・指導医に来てもらい、一緒に診察や手術をすることで肛門診療の技術を身に付け、しっかりと専門的な修練をした上で肛門科を標榜されている先生もおられます。
これらのケースは「見学」とは全く意味合いが違います。
肛門専門施設での研修の経歴が無くても専門性は高いです。
大切なことは痔が治ること
以上、目安となる見分け方を書きましたが、本当に大切なことは専門医資格の有無でも、肛門専門施設での研修の有無でもなく、あなたのお尻がちゃんと治って、不便なく生活出来るようになることです。
肛門科の通院が終わることです。
それが専門外の先生でも出来ているのであればいいでしょう。
ですが肛門診療は大学でもほとんど学ばない、患者さんを診る機会もほぼない、診察や手術にトレーニングを要するという特殊性があるため、ちょっと知っている、見たことがある、教科書や論文で勉強したくらいでは難しいです。
だから専門の先生にかかって欲しいのです。
そして肛門診療において最も難しくて大切なのが「診断」です。
「手術」ではなく「診断」だと思っています。
なぜなら「手術が必要かどうか」「手術で患者さんの訴える症状を無くせるかどうか」の見極めが肛門診療の肝だからです。
ここでつまづくからその後の治療がうまくいかないのだと考えています。
そして私たちは「痔を治すこと」ではなく「患者さんの不便を取り除くこと」の方が大切だと考えています。
痔だからって患者さんが必ずしも痔で困っているわけではないからです。
目の前にある「病変」にとらわれず、患者さんを、患者さんの生活を、患者さんの人生を鑑み、どうすれば今困っていることを取り除けるのかを考えて診療をしています。
医学的には手術をすることが正解であっても、患者さんにとっての正解ではないこともたくさんあります。
医療は何のためにするのか?
誰のための医療なのか?
いつもその原点に立って患者さんと対話しています。
だから
患者さんの望まない手術はしない
その方針を貫いてきました。
たとえどんなに痔がひどくても、医学的に手術適応であっても、手術を勧めることはしてきませんでした。
患者さんが望まない限り手術を引き受けてきませんでした。
痔は良性疾患です。
放置しても死にません。
だから今直ちに手術をしなければならないという緊急性はないのです。
手術を受ける前に
手術によって何が得られるのか?
今困っていることが手術によって解決するのか?
よく考えて下さいね。
絶対に手術をしなければならない痔なんてほとんどありません。
慌てて手術を受けて後悔する前に自分の頭でちゃんと考えてください。
その上で出した結論であれば、どんな結果になっても後悔しないでしょう。
私たちの情報発信が痔で悩める人の道しるべとなり、治療によって幸せな結果が生まれることを心の底から願っています。
どうか良い先生に、良い治療に巡り会ってくださいね。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。