「痔」とは? 〜一つの病気ではない〜
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(2019年7月8日加筆修正)
「痔」という漢字は「やまいだれ」に「寺」と書きます。
昔から人に言えない、隠れて寺に相談するような悩み多き疾患だったのでしょうか。
そして「じ」ではなく「ぢ」と、「ち」に濁点を付けて表現されることが多いのは、出血を伴うことが多いからでしょうか。
患者さんを診察していて驚いたことの一つに「痔が一つの病気」だと思っていることがあります。
今日はその誤解を紐解いていきたいと思います。
痔は「一つの病気」ではなく主に3種類ある
「痔」という言葉は特定の一つの「病気」を指すのではなく、肛門の良性疾患の「総称」です。
「痔なんです」という患者さんに「なんの痔?」と尋ねると、「???」となることが多いです(笑)
自分がなんの痔であるか知らない患者さんが本当に多いです。
肛門に起こるトラブルはたくさんありますが、「痔」というと主に「痔核」「裂肛」「痔瘻」の3つを指します。
俗に「イボ痔」「いぼ痔」「疣痔」と表現される「痔核(じかく)」。
俗に「切れ痔」と表現される「裂肛(れっこう)」。
俗に「穴痔(あな痔)」と表現される「痔瘻」。
3つ、全く別々の病気です。
肛門という小さな部位に起こっていますが、全く違う病気です。
ですから当然、痔の種類によって原因や症状、対処法、治療法なども異なってきます。
肛門を専門にしている医師は「痔」という言葉を用いることはほぼありません。
患者さんに病名を告げる時も「痔核」「裂肛」「痔瘻」と疾患名を使っています。
もしも「痔」としか告げられないようなら突っ込んで訊いてみて下さい。
「痔核ですか?裂肛ですか?痔瘻ですか?私の痔は何ですか?」
それにちゃんと答えられないようでしたら、肛門に詳しくない専門外の医師である可能性が高いです。
出来るだけ肛門に詳しい、出来れば肛門を専門にしている、肛門を専業にしている医師を探して受診されることをオススメします。
「痔」以外にもある肛門の疾患
肛門科で診る病気は以上の3つの痔核・裂肛・痔瘻だけではありません。
他にもたくさん肛門周りに起こる病気があります↓
悩ましい肛門周囲のかゆみ「肛門そう痒症」
切れ痔(裂肛)と患者さんが勘違いしやすい「肛門ヘルペス」
温水便座の普及と共に最近増えてきた「肛門尖圭コンジローマ」
「痔核」のカテゴリーに入るけど痔核(イボ痔)とは別物の「血栓性外痔核」
痔じゃないけど女性にとったら気になる出っぱり「肛門皮垂」
肛門周囲膿瘍(痔瘻の前段階)と鑑別が必要な「粉瘤」や「異所性子宮内膜症」
人には言えない悩み「便漏れ」
私が提唱している洗い過ぎ・拭きすぎ・こすり過ぎによる皮膚障害「過剰衛生症候群」
肛門周囲の皮膚良性腫瘍「軟線維腫」「稗粒腫」
肛門周囲の皮膚にも出来ることがあるニキビ「毛嚢炎」
ナプキンや肛門に使用したモノによるかぶれ「接触皮膚炎」
湿疹だと思ってたら皮膚癌だったというケースが多い「パジェット病」
尖圭コンジローマとよく似ている悪性化に注意を要する「bowenoid papulosis(ボーエン様丘疹症)」
痔だと思ってたら癌だったという悲しいケース「肛門癌」や「直腸癌」
肛門の黒子(ホクロ)だと思ってたら癌だったという「基底細胞癌」「悪性黒色腫」
一刻一秒を争う命に関わる疾患「壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)」
まだまだあるかもしれませんが、私たちが経験したものを列挙してみました。
だから肛門科は決して「痔」だけ診ているわけではないのです。
様々な肛門のトラブル、お尻にまつわる悩みを持った患者さんが訪れています。
患者さんが痔と間違えやすい腸の病気
肛門に、あるいは肛門から何らかの症状があると、「肛門が悪い」と思われるようです。
患者さんの頭の中は「トイレの時に血が出た→痔!」となっているみたいですね(苦笑)
肛門からの出血で痔ではなかったケースで多いのが潰瘍性大腸炎です。
問診で分かることも多いですが、診察すると直腸粘膜に発赤や出血などが見られることも多く、その場合は腸の病気を専門にしている医師を紹介して大腸内視鏡検査を受けて頂いています。
潰瘍性大腸炎と並んで炎症性腸疾患(IBD)の代表的疾患「クローン病」も肛門科で遭遇する疾患です。
肛門科で初めてクローン病を疑われて診断されるケースもあります。
痔瘻や裂肛で受診された患者さんの肛門病変が、普通のそれと違う場合が多いので、疑った場合はIBDの専門医を紹介しています。
また最近、若い女性に増えているのがクラミジア直腸炎です。
クラミジアというのは細菌です。
クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)という真菌の一種によって引き起こされた感染症で、教科書的には性行為感染症(sexually transmitted disease;STD)に分類されていて、最も頻度の高いSTDの病原菌となっています。
偏性細胞内寄生体(へんせいさいぼうないきせいたい)なので、生きた細胞の中でしか生存・増殖出来ないため、理論上は感染経路は性行為となりますが、性行為を介さない、感染経路が特定出来ない症例もあるようです。
治療は抗菌薬の内服です。早期発見し治療することが大切です。
まずは正確な診断を
いかがでしたか?
痔という病気にも3種類あること
痔以外の肛門のトラブルがたくさんあること
痔と紛らわしい腸の病気があること
をお伝えしました。
でも、それを診断するのは医師です。
日本は自由標榜制なので医師免許さえあれば好きなだけ、いくつも「○○科」という看板を掲げることが出来ます。
でも医師の専門は一つです。
専門の医師と非専門の医師とで診断が違うことも多々あります。
できるだけその疾患を専門にしている医師を探して受診されることをオススメします。
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特に肛門科専門医の女医は少ないです。
医師の性別よりも専門性を重視して受診して欲しいです。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。