オムツをしなければならないほど下着が便で汚れる原因
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(2019年5月14日加筆修正)
副院長の佐々木みのりです。
私の外来には、たまにオムツをした女性が受診することがあります。
介護を受けている患者さんではありません。
ちゃんと自分の足で歩いて受診されています。
年齢も30代〜60代が多いです。
若い人もいます。
そんな若い人がなぜオムツを当てているのか?
それは便が漏れる(と思い込んでいるケースも多い)からです。
便が付くから、便で下着が汚れるから、オムツをしてるんです。
私の外来にオムツを当てて来られたケースは以下の3つ。
1.本当の便失禁(肛門のしまりがゆるい)
2.便栓塞(いわゆる「糞詰まり」)
3.下剤の乱用
4.出残り便
1の本当の便失禁については、手術治療が必要と判断した場合には専門の施設と医師を紹介しています。
私たちでは残念ながら治療出来ません。
というわけで、2と3と4について解説していきたいと思います。
この記事の目次
便栓塞(糞詰まり)
便栓塞とは固まった便が肛門や直腸を塞いでしまって、便が出せなくなった状態です。
いわゆる「糞詰まり」と呼ばれています。
便意はあるのに出ない
あるいは
毎日ちょろちょろ軟便や水便だけが出てくる
という人も多いです。
多くの場合、古くなった便塊が固まってしまっていることが多く、数日、患者さんによったら1週間以上、便が出てないケースもあります。
明日出るだろう・・・
と様子をみているうちに、だんだんお腹の張りもひどくなってきて、
食欲も落ちる、
げっぷが出る、
お腹も痛い・・・
と、どんどん症状がひどくなっていきます。
便は毎日作られているので、作られた便が奥に溜まってきます。
溜まった軟便が、出口の便塊をすり抜けて、ダラダラと出てくるので、ちょっと頑張れば少量の軟便と水便だけが出ます。
それを数日続けると、出口の便塊はさらに硬くなり、大きくなっていきます。
上から便塊が肛門を圧迫するため、痛みも生じます。
痛くて座れない・・・という患者さんも多かったです。
身体は便を出そうとするため、ひどい人になると肛門の穴が開きっぱなしになって、そこから水便がダラダラと漏れ出てきている状態で受診された人もおられました。
自分じゃコントロール出来ないため、オムツを当てて受診されるわけです。
中には自分で便をかき出そうと指を突っ込んで、便をほじくって出そうと頑張っている人も多いです。
これ、自己摘便というのですが、肛門や直腸を傷付けたりすることが多いので危険です。
また浣腸を使って出そうと試みる人も多いですが、便塊が塞いで浣腸液が中に入りません。
浣腸しても液が中に入っていかず漏れてくる、全然効かない・・・
とあきらめて受診となります。
診察したらカチカチになった便塊を触れます。
その大きさもテニスボール大くらいの人が多かったです。
これじゃあ、穴を通りません。
無理です。
指で便塊を崩して、少しずつ出してあげるしか方法がありません。
いわゆる「摘便」と言うのですが、私たち肛門科医は「便堀り」って呼んでます(苦笑)
普通の医者は摘便をしないことが多いです。
病棟では看護師さんがやることが多いでしょう。
医師自ら摘便を行うのは肛門科くらいだと思います😓
私たち肛門科医は看護師さんに摘便を頼みません。
自分たちがやります。
私は一度も頼んだことがないです。
だって摘便って技術が必要だから。
結構、難しいんですよ。
なるべく痛くないよう、傷付けないよう、気を付けながら少しずつ少しずつ出していきます。
一気に出すと血圧が下がって危険だからです。
場合によったら肛門に局所麻酔をして摘便することもあります。
診察室の中はトイレ状態になります。
摘便した便の臭いがたちこめますから・・・(苦笑)
恥ずかしい・・・とか、
臭いが・・・とか
言ってられません。
患者さんも切羽詰まってるので、必死です。
いきんでもらって協力してもらいながら便を出します。
その光景は、まるでお産のよう・・・
出口の詰まりが取れれば浣腸も出来ますが、出口に便が塞がっていたら浣腸も出来ません。
出口の硬いコロコロ便は指で掘り出しやすいのですが、その奥は粘土状だったり、ある程度、やわらかいと摘便しにくかったりするんですよね💦
その場合は特殊な摘便用のヘラを使います。
これだとスルスル〜っと便が出てくれます。
ある程度、出たところで浣腸を使うことが多いです。
2週間、便が出てなかった患者さんは、診察室でも洗面器1杯分くらいの便を摘便で出して、そのあと浣腸をしたら、さらに大量の便が出て、トイレで流したら流れなくて詰まってしまったこともありました(苦笑)
浣腸も5〜6回やって、やっと肛門と直腸がカラになった!
というケースもしばしば・・・
出したあとの患者さんの顔は、まるで出産後の患者さんのような爽快な顔をされています(笑)
あー、死ぬかと思った!
を言われることもしばしば。
いやいや
笑い事じゃなくて
便が出なくなると本当に危険ですよ。
こうなる前に
もうちょっと早めに来て欲しかった😓
まだ大丈夫
明日出るだろう
その判断が糞詰まりの元です!
便は急に詰まりません。
日頃の排泄の結果です。
毎日出てる人に限って糞詰まりで来られるので私は大丈夫って思わず「ちゃんとスッキリ出し切っているかどうか」を普段から意識してくださいね。
下剤の乱用と肛門狭窄
便が出ないからと下剤を飲んでいる人が多いです。
手軽に薬局で買えるもののほとんどに、大腸刺激性下剤であるセンナやアロエなどが入っています。
これ、飲めば出るように出来てます。
でないと売れませんから。
これらの成分入りのものを飲んでいると大腸が黒くなっていきます。
大腸メラノーシスっていうのですが、黒くなった腸は神経細胞が変性しているので、腸が動かなくなります。
薬を飲まないと動かない腸を作ります。
詳しい話はコチラ↓↓
便が出ないからと、薬を飲む量をどんどん増やすと下痢便が常態化します。
そして薬を飲まないと便が出なくなります。
便をやわらかくする酸化マグネシウム系の薬でも飲み過ぎると下痢便が常態化し、1日に何度も便が出るようになります。
腸は黒くなりませんが、肛門は狭くなります。
肛門が狭くなると、ちょっと形のある便が出ただけでも痛いので、どんどんやわらかくするようになります。
最後には尿のような水便を出すようになってしまいます。
その頃には肛門がかなり狭くなっているので、診察も出来ないことも多いです。
私の指が入らない・・・…>_<…
というケースもあります。
狭いのに、炎症で硬くなった肛門は伸縮性が失われているため、穴を開けたり閉めたりすることがスムーズに出来ません。
だから便が漏れやすくなります。
水様便なので漏れてくるんです。
しかも下剤の飲み過ぎ、効き過ぎで、お腹はずっとキュルキュルと過剰に動きすぎているため、常に腹痛と便意があり、何度も何度も便が出て、トイレに一日中こもっている人がいたり、
所構わず、時を選ばず、急に便が出て漏れるから・・・とオムツを当てている患者さんがおられます。
肛門を広げれば治ると勘違いしている人がいますが、こんな便通のまま肛門を広げたら、さらに漏れるようになります。
だってそうでしょう?
ただでさえ狭い肛門でも漏れてるんですよ。
普通の広さにしたら、もっと漏れます。
このようなケースは下剤を減らす、必要なければ中止することから始めます。
そうしないと何も変わりません。
肛門はさらに狭くなっていきます。
ここで患者さんの強い抵抗にあいます。
下剤、やめられないんですよ。。。
今までずっと飲んできたし、飲まなかったことなんて無かったから・・・。
怖くてやめられないんです。
便が出なくなったらどうしよう・・・
普通の便が出たら痛いだろうな・・・
って(泣)
そこを越えられた人は治療出来ます。
普通の便が出せるようになれば肛門を広げても漏れません。
だって肛門のしまりが悪くて便が漏れているわけではないからです。
勇気を出して下剤を減らして普通の便を出すようにしないと、肛門を広げても、さらに漏れやすくなるだけで、「便が漏れる」という症状は改善されません(泣)
いくら私が言っても患者さんが行動してくれなければ治療になりません。。。
治療は誰かがやってくれるものではなく、患者さんの生活の中にあるからです。
私たちはそのサポートをすることしか出来ないんです。
そこを頑張って乗り越えた人はオムツを外せました。
普通に生活も出来るようになりました。
習慣性・依存性のある下剤もやめることができました。
そこに至るまでの過程は、もちろん大変だったこともあります。
でもほんのちょっとの勇気と行動力で変わります。
私はそんな患者さんのオムツを外したいと思って頑張ります。
今できなくてもいいんです。
少しずつでもいいんです。
何か1つでもいいんです。
患者さんがいつかオムツを外せるようにサポートしていこうと思います。
出残り便
私のブログをずっと呼んで下さっている人は分かりますね?
便がスッキリ出ずに中に残っていると、残った便があとからチョロチョロ出たり、それが下着に付いたりすることがあります。
便失禁と勘違いして来られる患者さんが多いため「ニセ便失禁」と呼んでいます。
もちろん肛門のしまりは普通です。
ヘタしたら痔すらない・・・という人も多いです。
排便後、紙に便が何回拭いても付くから温水便座で念入りに洗うようになり、洗い過ぎで肛門がボロボロという人も多いです。
温水便座の水が肛門の中にも入るので、それが残便と混じって便汁となり、下着を汚しているケースも多いです。
便が漏れる・・・というほどでもなく、ちょっと付くくらいなので、オムツではなくナプキンを当てている人が多いです。
キレイにしようと洗えば洗うほど漏れるようになっていきます。
若い女性に多いですね。
当然、本人にしたら悩みは深刻です。
そのせいで彼氏と性行為が出来ない女性もいました。。。
このようなケースは便をスッキリ出すようにすれば症状は無くなります。
簡単にアッサリ解決するので患者さん自身もビックリされます。
こんなに簡単に治るのなら、悩んでないで早く受診すれば良かった・・・と苦笑いされる「ニセ便失禁」。
意外と人に言えず悩んでいる人が多いと思います。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。