痔からの出血だと思っていたら直腸癌だったという悲しい経験
カテゴリー:
(2019年5月13日加筆修正)
当院は肛門科のみの専門施設です。
肛門科以外の診療は一切していません。
大腸の検査も内視鏡専門の上手な先生を紹介して行ってもらっています。
当然、私たちの外来を受診される患者さんは痔や肛門周囲の皮膚疾患、便秘の人なんですが、患者さんが痔だと思っていたものが癌だったという悲しいケースが年に何度かは必ずあります。
患者さんにとっては頭が真っ白になるくらいショックな出来事ですが、見つけた私たちもとても悲しい気持ちになります。
それでも事実をありのままに伝え、細胞をとって調べてみるまでは分からないから、外科受診をすすめます。
関西地方や大阪の人だと私がお世話になった阪大の第一外科の関連施設やドクターを紹介するのですが、遠方の人だとお住まいの地域での総合病院の受診を促します。
痔は放置しても死にませんが癌は放置すると命に関わってくるため、一刻も早く受診するよう説明しています。
この記事の目次
「鮮血だったら癌ではない」の落とし穴
巷で良く言われている医療情報には間違ったものも多いので注意が必要です。
よく「鮮血だったら痔、黒っぽいゼリー状の出血だと癌」という下血の見分け方が一般的に流布しているようです。
実際、今まで来られた患者さんの口から何度も聞きました。
これを信じたがために癌の発見が遅れ、進行癌になってしまっているケースも多いのではないでしょうか。
なぜなら私が見つけた直腸癌の患者さんのほぼ全員が「鮮血だから痔だろう」と信じ切っていたからです。
ほとんどの患者さんが痔を確信して受診されます。
実際、出血をみても鮮血のことが多かったです。
癌ができている部位が肛門に近ければ近いほど、そこからの出血は鮮血になります。
だから血の色や性状を見て癌かどうか判断しないで欲しいのです。
若いほど進行が早い
直腸癌も他の癌と同様、若い人ほど進行が早いです。
20年近く前の話です。
32歳の女性が肛門から出血するので診て欲しいと言って来られました。
若いし切れ痔だろうと思って診察すると、切れ痔もいぼ痔も何も無いとてもキレイな肛門でした。
患者さんに詳細に尋ねると出血の量も紙に血が付く程度で、痛みも何もないと言われます。
おかしいなぁと思って指を奥の方まで入れてみたら、小指の爪ほどの大きさのコリコリっとしたしこりのようなものを触れます。
膿が溜まっているわけでもないし痛みもないし、でもこの硬さはおかしい、悪性腫瘍かもしれない・・・と疑い、師匠のいる外科に紹介しました。
幸い、すぐに受診されたようで、即日検査もしてくれました。
結果は・・・直腸癌で、しかもすごく珍しい組織型の癌細胞で、なんと肺に転移してしまっていました。。。
あんなに小さな癌なのに・・・と私もショックでした。
若いと進行が早いのですね。。。
それに癌が肛門に近ければ近いほど肺に転移しやすくなりますから・・・。
癌は大きさだけでなく細胞の悪性度によっても随分経過が違いますが、珍しい組織型の癌細胞だったということもあったと思うのですが、本当にあっという間に亡くなられました。
癌年齢は40歳以上と言われており、若い人は大丈夫だろうと思っていたら大きな落とし穴があります。
21歳の直腸粘膜下腫瘍の患者さんも経験しました。
20〜30代なんて癌になる年齢ではないという意識が患者さんにも医療者にもありますから、当然、大腸内視鏡検査なんて受けたことがありません。
21歳の女性は切れ痔で、切れ痔の治療のために私の外来に来られたのですが、診察すると直腸に腫瘤を触れました。
腸の壁の下にあるので、腸の表面は何も異常が見られません。(壁外性病変と言います)
でもこの下に何かある
絶対に何かある
患者さんにも自分の感触を正直に伝え、細胞を調べないと分からないが癌の可能性もあることを説明し、大腸内視鏡検査を受けに行ってもらいました。
その結果、粘膜下腫瘍だということが分かり、大きな病院に紹介となり、無事治療ができ、悪性度が高くなかったため治療ができましたが、こんな年齢で・・・と私も驚きを隠せませんでした。
若いから癌にならない
若いから大丈夫
と思わずに、心配な症状がある場合、一度、大腸内視鏡検査を受けることをオススメしたいです。
年齢は関係ありません。
今までかかっていたクリニックで診断されていない直腸癌も・・・
当院は自由診療なので、色々なクリニックを受診してから「最後の砦」だと思って随分遠方から受診される患者さんも多いです。
中には
痔の手術を何度も受けているのに脱肛が治らない・・・
という訴えで来られる患者さんもいるのですが、痔ではなく癌だったという経験を何度もしています。
全例が専門外の先生にかかっておらました。
私たちが一目見れば分かる癌も、専門外の先生には痔に見えてしまったようです。
「何度手術しても治らないし、出血が止まらない」と言って来られた遠方の患者さんは立派な肛門癌でした。
また紛らわしいのが痔と直腸癌と二つともあるケースです。
表に見えている立派ないぼ痔(痔核・脱肛)に気をとられて、その奥の癌に気付いてないんです。
患者さんも医師も・・・。
痔を治したのに出血が無くならない
と受診された患者さんが多いです。
そりゃそうです。
だってその出血、痔からじゃなくて奥にある直腸癌からだったんですから。。。
なぜ前の先生は気付いてくれなかったのか?
それは肛門の診察の仕方に違いがあると思います。
直腸癌を見逃さないために診察で工夫していること
肛門の診察で分かる範囲は自分の指が届く範囲と肛門鏡で見える範囲だけです。
だからせいぜい肛門から5〜6センチ奥まで。
もちろん指の太さや長さは医師によって随分違いますから、個人差もあると思います。
ちなみに私は小柄(150センチ)なので指は短くて細いです。
院長の方が私よりも1.5センチ人差し指が長いので、院長の方がより奥まで届きます。
そんな小柄で指が短いというハンデをもってしても、見落とさない覚悟と工夫で診察すれば肛門近くに出来た直腸癌を触ることが出来ます。
主人が東京の社会保険中央総合病院 大腸肛門病センター(現在は東京山手メディカルセンターに改名)で故 隅越幸男先生に肛門診療を教わったときに最初にこう言われたそうです。
「肛門診療で一番大切な事はね、奥にある癌を見落とさないこと。痔であればいいんだよ。別に放置しても死なないから。でも癌だけは絶対に見落としちゃダメ。それだけ気を付けて診察すれば、あとは大丈夫だから。」
その言葉を忘れないように、私たちは指診をしています。
奥に癌、ないよな?
本当に大丈夫やんな?
と何度も自分に問いかけながら指を入れています。
だから私たちの診察は長いです。
しっかり指の根元まで肛門に挿入して、指をグリグリと動かして、しつこく診てるのは癌を見落とさないためなんです。
私たちの診察を受けられた患者さんは分かりますよね?
ズボッと入れてスッと抜いて終わりじゃないんです。
セカンドオピニオンの患者さんだと「前の先生の診察はもっと短時間で一瞬で終わった」とよく言われますが、私たちは指一本で様々な情報を得るようにしているので、指を入れている時間が長いです。
そしてほぼ全員の患者さんに便を確認できるので、便を出す坐薬を入れて肛門や直腸に溜まった便を出してきてもらいます。
「便出し」に何度も何度もトイレに行ってもらう場合もあります。
患者さんにしたら結構しんどくてキツイと思うのですが、ここは譲れないのです。
なぜなら排便後に診察したら奥の腸が降りてきて癌を触ることがあるからです。
便にまみれていたら分からないのです。
特に便がコロコロしていたらポリープなのか、癌なのか、便なのか、手触りで分からないことも多く、実際、「これ、癌かな?」と思っていたものが便だったり、「これは便だ」と思ったものが癌だったりするので、全部出してスッカラカンにしてからちゃんと診察したいのです。
肛門が便まみれだと肛門鏡を入れても見えないし、ちゃんと全部出してから、もう一度診察し直すんですよ。
そして癌が私の指が届く範囲に無くても、奥からとろーっとした出血があったりすると必ず大腸内視鏡検査を受けに行ってもらいます。
診察した指に付いてくるものも、注意深く観察すると、癌性の血液かどうか分かることも多いので、引き抜いた指も必ず見ます。
こうやってしつこく診察しているから直腸癌を発見できるのだと思います。
専門外の先生で、混んでいる外来だと正直、一人一人の患者さんに時間をかけて診察することも出来ないし、指を入れるのは初回のみで全く肛門の診察をしない先生もおられるようなので、ある意味、仕方がないのかもしれません。
だから肛門から出血している人には大腸内視鏡検査を受けて欲しい。
指で癌を見つけられなくても内視鏡だと分かるから。
なのに大腸内視鏡検査すら受けていない人が多すぎる・・・。
何度もブログで書いていますが40歳を過ぎたら何も症状がなくても2〜3年に1回は大腸内視鏡検査を受けて下さいね。
40歳以上の人でまだ一度も大腸内視鏡検査を受けたことがないのであれば受けに行きましょう。
検便だけでは分かりませんよ。
便潜血が陰性だからって安心せず、大腸内視鏡検査を受けて下さいね。
直腸癌が見つかった人のその後
直腸癌がどれくらい進行しているかによって予後が違ってきます。
癌が大きくても遠隔転移もなく今でも元気にされている患者さんもいますし、小さくても転移があって若くして亡くなられた患者さんもいます。
だから最後まで決めつけずに希望を捨てないことです。
そして癌を機会に今までの生活習慣や生き方を見直す人が多いです。
特に腸は食べたモノの通り道なので、何かしら自分が口に入れるモノが影響していると私は考えていますので、食事に気を付けるようお話ししています。
私がしている癌の人の食事指導は
小麦と乳製品と白砂糖を完全に抜く
炭水化物は摂るなら少量にする
添加物や化学調味料は避ける
です。
普段の便通管理と同じですね。
そして免疫を上げる乳酸菌FK23とオーソモレキュラー栄養療法のドクターズサプリを、希望される患者さんに処方しています。
総合ビタミン剤、ビタミンD、ビタミンC、がん抑制遺伝子を発動させる物質「メチル化レスベラトロール(プテロスチルベン)」の摂取をしてもらっています。
特に化学療法や放射線治療を受けられる患者さんは治療に負けない身体作りが大切なので、一般的な西洋医学の癌治療だけでなく栄養療法も受けて欲しいと願います。
私は専門家ではないのですが、実際に自分の患者さんで栄養療法をやっていて、その差は歴然としているため、癌治療の最前線で栄養療法が当たり前のように取り入れられたらいいのに・・・と願います。
栄養療法をしている人としていない人とでは抗がん剤治療による副作用が大きく違います。
これは患者さん自身が体感されて、わざわざ治療途中でサプリメントを取りに来られるくらい差がハッキリ出ています。
栄養療法をしている施設は全国でも増えてきているので、是非、お近くの施設を探して受けて欲しいものです。
早期発見のためには大腸内視鏡検査を
大腸癌は他の癌と違って根治しやすいです。
転移さえなければ、早期発見出来れば、切除して終わり!となるケースも多く、内視鏡で切除出来ることもあります。
だから大腸癌で死ぬなんて勿体ないって思うのです。
早く見つけて治療すれば確実に助かる可能性があるからです。
そのためには検便ではなく大腸内視鏡検査を受けて下さい。
一度も受けたことがない人は一度受けられると良いでしょう。
私の患者さんのように20代でも癌が見つかることもあるので、年齢問わず、心配なことがあれば受けて下さい。
40歳を過ぎて、まだ一度も受けたことがない人は早く受けに行きましょう。
肛門科を受診するのが恥ずかしいのであれば、大腸内視鏡検査だけでも受けて欲しいです。
どうか痔だと決めつけず、痔があっても痔に安心せず、大腸内視鏡検査を受けて下さいね。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。