肛門のかゆみについて
重要なかゆみの原因
・肛門そう痒症
・真菌症(カンジダ症・白癬症)
・痔
・ガン
が挙げられます。
このうち当院の診療経験では圧倒的多数を占めるのが肛門そう痒症によるかゆみです。教科書的には真菌症が最多とする記述が主流ですが、この点は教科書の記述と異なります。ここでは肛門そう痒症を中心に、肛門のかゆみについて説明します。
肛門そう痒症
肛門そう痒症とは、自分で掻いたり、こすったり、洗ったりして人工的に作りあげた湿疹です。湿疹というとアトピー性皮膚炎や蕁麻疹のように体の内側にある病気のせいでできるイメージがありますが、肛門そう痒症は違います。肛門そう痒症の湿疹は、皮膚病のせいではなく、人間が自分自身の行動で作った皮疹です。これは治療上重要なポイントであることを強調しておきます。
病態
肛門そう痒症の本質は掻くこと、こすること、洗うことによる皮膚トラブルです。
・掻くことによって、皮膚には小さな傷ができます。この傷はかゆみ、または痛がゆさの原因になります。
・こするのも掻くのと同様で、皮膚に小さな傷ができ、かゆみの原因になります。
・洗うことによって、皮脂を落としてしまいます。皮脂の脱落は皮膚のかゆみの原因になります。
最近の皮膚科的な基礎研究によって皮脂が減少し皮膚バリアが破壊された状態ではかゆみを感じる神経が異常に活性化することが明らかになっています。(2019年、岡田峰陽、髙橋苑子、天谷雅行、久保亮治ら)。
そして、肛門そう痒症が悪化するときのパターンとして重要なのは、「かゆいから掻く、掻くからさらにかゆみは強くなる・・」という悪循環です。
-
なぜ、掻くのか?
これは単純に「かゆいから」です。すでに述べた「かゆいから掻く、掻くからさらにかゆみは強くなる・・」という悪循環は、かゆみの悪化を招く一番の元凶です。
なぜそんなにペーパーでこするのか?お風呂や温水洗浄便座で洗うのか?
こう尋ねると、ほとんどの方が「そうしないと肛門に付着した便がキレイにできないから」と言います。俗に言う「便のキレが悪い」状態ですが、ご本人にしてみればやむなくやっていることなのです。
かゆみ
最初は肛門のムズムズ、モゾモゾ感から始まります。排便後と夜間、入浴後などに感じることが多いです。悪化に伴って、痛がゆい感じやヒリヒリ感となり、日中もかゆみを感じるようになります。かゆみのせいで睡眠中に目覚めたり眠れなくなることもあります。
皮膚の変化(皮疹)
初期には、掻いた部分に赤み、むくみ・腫れ、掻き傷やびらんとなり、慢性的になると皮膚の色が白っぽく変化したり(色素脱失)、逆に黒っぽく変化することもあります(色素沈着)。しかし、中には皮膚の変化がほとんど認められない場合もあります。
ステロイド外用剤漸減療法
湿疹がある場合はステロイド外用剤で治療します。ステロイド剤には副作用がありますから、通常は3週間で完全に止められるように使用法を細かく指定しています。ステロイド外用剤のあとは、薬品の入らない軟膏を使用して皮膚を保護します。 (2005年佐々木みのり、佐々木巌、増田芳夫:肛門〓痒症に対するステロイド外用剤漸減療法の試み)
正しいおしりの手入れ
厳密にこれを実践するためには、後で述べる便通の治療を同時にやらないと難しいので、そちらも参照してください。
・洗浄の禁止
皮脂温存のために、肛門を洗うことは禁止です。温水洗浄便座、入浴時の石鹸、シャワーで肛門を直撃する、手でこすって洗う、という行為はすべてやめましょう。入浴前の「掛かり湯」や、湯船に漬かる、といった勢いのない静かなお湯は比較的安全です。
・3回以上拭かない
温水洗浄便座が禁止ですから、排便後は紙で拭くしかありません。ペーパーの使い方ですが、理想は優しくポンポンと押さえ拭きするというもの。そして3回以内に便が付かなくなる。そんな排便が実現できれば、正しいおしりの手入れが完全に実践出来るでしょう。3回目に便が付いていたら、まだ便が肛門の中に残っている証拠。その場合は便通を正さないと、再発する可能性が高いので注意が必要です。
・おしりふきやウェットティッシュなどを使わない
市販のおしりふき、ウェットティッシュ、清浄綿、肛門専用のスプレー剤などは、皮脂を過剰に落とすだけでなく、かぶれの原因にもなります。
・消毒しない
マキロンやオキシドール、アルコールなどの消毒は、ばい菌と一緒に皮膚の善玉菌まで殺してしまいます。長期的に見ると、消毒は有害なことがほとんどです。便通を直す
当院ではかゆみの根本原因は「便をスッキリ完全に出せていないこと」だと考えています。私たちはこのタイプの便秘を出残り便秘®と呼んでいます。ご注意いただきたいのは、ご自身では快便のつもりなのに、出残り便秘®と診断されるケースが多いということ。そこで参考にしたいのが、「ペーパーで肛門を拭いて、3回以内にキレイになるかどうか」です。3回以内にキレイにならない方は便が残っている可能性が高いと考えます。かゆみそのものはステロイド外用剤と正しいおしりの手入れによって治療できますが、繰り返す肛門のかゆみに対して予防を考えるなら、便通の治療を行う事は必須だと考えます。
いぼ痔(痔核・脱肛)
内痔核が大きくなり肛門から飛び出す状態を脱肛と呼びますが、慢性的な脱肛の中には粘液を多量に分泌するケースがあり、皮膚への刺激によってかゆみを引き起こす場合があります。
切れ痔(裂肛)
裂肛のキズは通常は痛いものですが、キズが軽度の場合や、治りかけのキズ、または傷口からの分泌物のせいでかゆみを引き起こすケースがあります。
痔ろう(あな痔)
痔ろうは肛門が化膿する病気です。膿が出るのは痔ろうの主な症状のひとつです。膿の量が多ければべたつきとして膿を感じるのですが、膿が非常に少ない場合は刺激でかゆいだけという場合もあります。
根本原因
肛門そう痒症は掻くこと・こすること・洗うことが原因で、これを中止できれば治るはずです。では、なぜ人はこういった行動を取ってしまうのでしょうか?
ここでは当院の考える肛門そう痒症の根本原因について述べますが、教科書的な見解とは異なっていることを、あらかじめ申し添えます。結論から述べますと、当院では、肛門そう痒症の根本原因は、多くの場合「便をスッキリ完全に排出できないから」だと考えています。そう考える理由を以下に述べます。
では便のキレが悪いのはなぜでしょう?当院ではその原因は「便をスッキリ完全に排出できていない」ことにあると考えています。
つまり、便がスッキリ出せずに残る=便を肛門の力でちぎって排便を終了している状態、そのため便が肛門にはさまった状態になり、拭いても拭いてもキレイにできない。だから一生懸命洗う・・という生活習慣につながっていると考えているわけです。
以上、一般的な見解ではないかもしれませんが、当院の考える肛門そう痒症の根本原因について述べました。「便をスッキリ完全に出せない」という状態については以下のリンクで詳しく述べていますので、興味のある方はご覧ください。
症状
治療
当院で実践している治療は
・ステロイド外用剤漸減療法
・正しいおしりの手入れ
・便通を直す
の3つです。
真菌症(カンジダ症・白癬症)
真菌とは水虫やカンジダの仲間です。真菌が肛門の皮膚に感染してかゆみの原因になることがあります。教科書的には「肛門のかゆみ=真菌症」であるかのように記載されていますが、当院の経験では、肛門の真菌症によるかゆみは少数で、ほとんどは肛門そう痒症によるかゆみです。当院では真菌症特有の外観から診断をつけるケースが大半です。真菌症が疑われる場合は抗真菌剤の軟膏で治療します。なお、肛門そう痒症で使用するステロイド剤は抗真菌剤と一緒に使用すると効果を弱め合う性質があるため、同時使用は避けます。
痔によるかゆみ
三大痔疾患と呼ばれる、いぼ痔(痔核・脱肛)、切れ痔(裂肛)、痔ろう(あな痔)は、いずれもかゆみの原因となることがあります。
ガンによるかゆみ
肛門そう痒症だと思っていたら、皮膚のガンだったというケースがあります。肛門の「かゆみ」「ただれ」が、どんな治療をしても改善しない場合には皮膚科で検査する必要があります。治療はガンの治療を行っている施設で行います。
痔の種類と治療
痔の症状は大きく3つに分類されます。種類ごとに症状や治療法など詳しく説明します。