肛門狭窄症の治療 〜過剰手術にならないように〜
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(2019年5月12日加筆修正)
今年も学会発表よりも講演の方が多い佐々木みのりです。
先日学会で発表した肛門狭窄について、今日は治療の話をしたいと思います。
痔と同じく、保存治療と手術治療に大別されます。
保存治療で治らなかった場合に手術治療を選択することになりますが、その基準は医師によって随分異なります。
保存治療
1.薬物療法
切れ痔(裂肛)によって狭くなっている場合は痔疾薬(ボラザGや強力ポステリザン軟膏など)を使って治療することが多いでしょう。
ステロイド入りのものは長期使用によって副作用が出るため、2〜3週間の使用を限度に中止することも大切です。
また便通のコントロールも大切です。
ですが、ここで酸化マグネシウムなどの軟便剤によって軟便ばかり出していると狭窄はどんどんひどくなっていってしまうため、形のあるしっかりとした便を出すことが大切です。
ここ、よく間違えるポイントなので気を付けてくださいね。
楽だからって柔らかい便ばっかり出していると肛門がどんどん狭くなっていきます。
傷の痛みで排便がつらい場合は麻酔のゼリーやクリームを排便の15分前くらいに塗ってトイレに行くと良いでしょう。
そして排便後に便が残っている場合は出し切らないと残った便が傷を汚染し、傷の治りを妨げるだけでなく、傷が炎症を起こしますます狭くなっていきます。
当院では「出残り便秘」として治療をしています。
https://osakakoumon.com/column/1018
2.フィンガーブジー
指で狭くなった肛門を広げることです。
私は患者さんに「肛門マッサージ」「肛門ストレッチ」と言いかえて説明しています。
どの指をどれくらい挿入して、どのようにやるのか?具体的な方法は患者さんによって異なり、またブログを読んで誤った方法で必用の無い人がやってしまうと肛門がゆるくなる可能性があるため、ここでは書けません。
肛門狭窄症の診断の記事にも書きましたが、一番大切な事は肛門が狭いかどうかの診断です。
狭くもないのに治療すると弊害をもたらすことがありますので注意してください。
診断についての記事はコチラ↓
https://osakakoumon.com/column/4018
ブログの読者の方から質問を頂き、私のAmebaブログ「みのり先生の診察室」に答えを記載しています↓
肛門マッサージのやり方?!
3.洗うのをやめる 〜過剰衛生習慣の排除〜
皮膚が硬くなってつっぱる上皮性の狭窄はウォシュレットの使用を中止しなければ治りません。
ウォシュレットだけじゃありません。
拭きすぎ、こすりすぎ、お尻ケア用品の使用、消毒などの過剰衛生習慣をやめなければ皮膚障害は治らず、肛門はどんどん狭くなっていきます。
突っ張って伸びない皮膚、開きにくい伸縮性のない肛門になるため、一刻も早く間違った習慣をやめる必用があります。
薬物療法よりも大切かもしれません😓
手術治療
手術方法は主に3種類。
どの術式を選ぶのかは狭窄の原因が上皮性か筋性かによって異なります。
皮膚がつっぱって伸びない、皮膚が縮んでいる場合はSSG(皮膚弁移動術)
筋肉が硬化してカチカチになっている場合はLSIS(側方皮下内括約筋切開術)
上皮性と筋性と両方の原因がある場合は上記の術式を併用します。
またどちらにも適応できる用手拡張術もあります。
大切なことは、どの術式が良いのか?ではなく、狭窄の原因を突き止め、それを解除するのに最適な術式を選択することなんです。
○○法がいい
という問題ではないんです。
皮膚がつっぱっているだけで筋肉は硬化していないのに、筋肉を切開しても肛門は広がらないどころか、しまりがゆるくなってしまうかもしれません。
また逆に筋肉が硬化してガチガチなのに皮膚を伸ばしても肛門は全く広がりません。
狭窄の原因に応じた手術方法を選択しなければ狭窄は治らないのです。
だから肛門狭窄に関しては診断に始まり診断で終わる、診断に尽きる!のです。
大して狭くもないのに手術を提案されていたり、的外れな術式で手術を受けて全く狭窄が改善してないケースも多いです。
過剰手術になりがちな疾患なだけに患者さんサイドも慎重さが大切。
肛門の治療だけは専門の先生に受けて!って言いたい。
専門の先生の探し方はこの記事を参考にしてください↓↓
専門医の資格の有無よりも専門施設での勤務経験の方が大切です。
そこでしか学べないことがたくさんありますから。
https://osakakoumon.com/column/643
肛門専門施設はコチラ↓
https://osakakoumon.com/column/2103
手術と言われてもその場でスグに決めずにセカンドオピニオンを。
そもそも治療が必要なのか?
手や足の大きさが違うように肛門の穴の大きさも個人差があります。
みんな同じサイズではありません。
また多少狭くても無症状で何も困ったことがないのであれば治療は必要ない、少なくとも手術は必要ないと私は考えています。
排便に何も困ったことがなければ、わざわざ治療は必要ないと思うのですが、このまま放置するといずれ症状が出てくるだろうという場合は私はフィンガーブジーで対応しています。
それだけで随分広がって便が出しやすくなる、あるいはスッキリ出やすくなったという患者さんが多いです。
時々セカンドオピニオンの患者さんで「何も症状ないんですけど肛門が狭いって言われました。手術しないとダメですか?」と相談を受けることがあるのですが、肛門狭窄の予防で手術をすることは過剰手術で、ガス漏れ、便漏れなどの症状を引き起こす可能性があるため私は反対です。
たとえ肛門の穴が人よりも小さくても、あなたが何も困ってなくて普通に排便出来ているのであれば手術は必要ないと思いますよ。
どうか安易に気軽に手術を受けないで下さいね。
治療のゴールは苦痛なく排便出来るようになること
肛門狭窄症の治療のゴールは立派な便が出るようになることではなく、苦痛なくスムーズに排便出来るようになることです。
便の太さを気にする人がいますが、やわらかい便は肛門の穴を大きく開かなくても出るため細くなりますし、硬めの便は太くなります。
つまり便性によって太さは違うのです。
日によって便の太さは違って当然。
毎日便を眺めて一喜一憂する必用もありません。
あなたが排便に困らなくなること、これが治療のゴール。
決して客観的に物理的に医学的にある一定の広さの肛門を作ることではありません。
診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
ドッグランでは思いっきり走ります🐕
ここでは犬に戻ります😅
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。