同じ考えで治療する医師の紹介について
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かつて「標準治療以外は悪」と信じていたことがある(笑)院長の佐々木巌です。
最近このブログでは、メール相談の話題が多くなっていますが、今回もまたメールで頂いた相談に対する私の考えを書きたいと思います。
ご相談の内容はタイトルの通りで
「同じ考えで治療している先生を紹介してください」
というものです。
こういったご要望に対する返答はいつも
「部分的に似た考えの先生はひょっとするといるかも知れませんが、
私たちと同じ診療をしている先生はいないと思います。」
というものです。
この返答を聞いたら、私が
自分の利益を守るためにそう言っている
と思う方も多いことでしょう。
・・ま、それも否定しませんが(ええっ?! 苦笑)
でも、もちろんそれだけではありません。
今回はこのことを解説したいと思います。
この記事の目次
医師は紹介先にも責任があります
私が過去に実際に経験した話です。
当院は健康保険の効かない自由診療です。
保険診療よりも高額です。(と言っても当時は現在よりも安かったのですが)
診察を受けられて手術が必要と診断したものの、経済的な理由で当院では手術ができないとおっしゃる方もおられます。
そんな方から「お勧めの保険診療の肛門科を紹介してください」と言われることがありました。
当時の私は善意のつもりで言われるまま、患者さんの便利の良い施設を選んで紹介していました。
ところが、、、
そんなふうに紹介して他所に行ったはず患者さんの中に、もう一度当院を受診してクレームを言う方がいました。
「先生が勧めるから行ったのに、ひどい目にあった。何も説明がない、あんなところにはもう行けない。ほかのもっとちゃんと説明してくれるところを紹介してくれ。」
とおっしゃるのです。
困った私はそれ以後、こんなふうにお返事するようになりました。
「標準的な治療をしている先生なら紹介できますが、私と同じスタイルで診療をしている先生を私は知りません。説明に時間をかけることは保険診療では難しいのです。また、ご希望に合った先生はおられるかも知れませんが、私は知りません。そういう先生はあなたがご自身で探し出してもらわないといけません。」
この方は、おそらく私の診療が、何かのマニュアルを元にしているか、誰かを真似たのだと思ったのでしょう。
同じ師匠に教わった同じグループの医者なら診療だって同じことをしているだろうと・・
私だって若い頃は師匠について勉強しましたし、コピーのようにその師匠を真似ていた時期もあります。
しかし、後に書くように自由診療という特殊な環境の影響で、その時にはすでに個性的な診療を行うようになっていたのだと思います。
ま、そんな経験を何度かして、医者は紹介先にも責任を持たなければいけないのだと知りました。
あるいは、紹介先を無条件に「お勧め」するのは無責任だということを知りました。
当院の診療スタイルは自由診療と深く関係があります
さて、当院は健康保険の効かない自由診療です。
初診料は3万〜4万円、再診料は約1万円頂いています。
なぜいきなりこんな話をするのかと言うと、私は自由診療であった影響で現在の診療ポリシーを得たと思っているからです。
個人のポリシーはその人が置かれている環境からの影響なしには語れないと思っています。
少なくとも私は影響を受けています。
当院は標準治療とは異なる方針で診療しています
冒頭に申しあげたとおりで、若い頃の私は「標準治療以外は悪」くらいに考えていましたが、現在の当院は標準治療とは異なる診療方針になっています。
くどいようですが、これは当院が自由診療だったことが影響していると私は思っています。
保険診療は公共事業ですから、提供するのは標準治療、それがルールです。
施設ごとに診療に個性はありますが、その個性は標準治療の範囲内に限られます。
飛び抜けて個性的なポリシーは育ちにくい環境です。
一方、自由診療は標準治療の制限を受けません。
公共事業でもありません。
「自由」とは価格設定だけでなく、医療の内容も自由という意味でもあります。
法を踏み外さない範囲で標準治療以外の治療方針で診療することができます。
やろうと思えばかなり個性的な事もできます。
しかしいくら個性的でも、ニーズがなかったり、信用を失うような診療では、いずれ倒産です。
逆にそこの見極めこそ自由診療の個性というものなのかも知れません。
では当院はどんなふうに標準治療とは違うことをやっているのか?
色々ありますが、その中で分かりやすいのは
- 手術を避ける技術を大切にしていること、言葉を換えると、手術が少ないことに誇りを持っていること
- 手術を避ける方針なのに、大腸の診療もしていないこと
- 便通の管理を全ての基本と考え、大切にしていること
かと思います。
保険診療の肛門科でこの要素を全て満たす診療をすればたちまち経営的に立ちゆかなくなると思います。
大阪肛門科診療所は手術を避ける技術を大切にしています
私は当院に赴任して以来、約20年間自由診療で診療してきました。
現在当院の診療の特長は「手術を避ける技術を大切にすること」です。
避けられる手術を避けること、
これは極めて当たり前ですが、では手術を避けるための技術を磨いた結果どうなったかというと、手術件数は一番多い頃の1/10程度にまで減少しました。
手術件数の減少は保険診療の肛門科では死活問題です。
なぜなら、肛門科の診療報酬は国が決めていて、手術をしないと経営できないような配分になっているからです。
大阪肛門科診療所は大腸の診療はしていません
前提として、一般的に肛門科+大腸科の方が合理的です。これは間違いありません。
現在の標準治療では、肛門診療には大腸の診療が欠かせません。
それが医学的にも経済的にも正解です。
ただ、大腸診療は肛門診療とは別のトレーニングが必要です。
保険診療の施設では大腸診療のトレーニングを怠らず、技術を磨いておられます。
そういった努力の結果、多くの施設で大腸の検査を行うことができるわけです。これは患者さんにとって大きなメリットです。
経済的な観点から言うと、保険診療で大腸の診療を行わずに肛門科だけで経営を成立させるのは並大抵の努力ではないと思います。
まれにそういう施設もあるのかも知れませんが、大腸診療の収入がない分だけ手術に依存した経営になるのではないかと思います。
そんなわけで、保険診療では手術だけではまかないきれない台所事情を大腸の診療で補っている施設が多いと思います。
一方、大阪肛門科診療所は肛門科専門の医療機関です。
当院は大腸肛門科ではありません。
ただの肛門科で、大腸の診療をやっていないのです。
大腸の検査もできません。(検査専門のプロフェッショナルな先生を紹介しています。)
逆に、限られたエネルギーをすべて肛門診療に注ぐことができるというのが当院の強みの一つです。
便通の治療
当院の特長のひとつが、便通の管理だと思います。
出残り便秘、鈍感便秘という考え方と、これを解消する管理を行うことで、手術件数が激減しました。
手術件数が激減するので、これを導入すると減収は確実です。
当院はこの減収した分を値上げで切り抜けました。
私も経営者の端くれですから、この治療は保険診療の肛門科にお勧めするつもりはありません。
自由診療である私たちの仕事だと思っています。
ちなみに出残り便秘・鈍感便秘という言葉は医学用語ではありません。
患者さんへの説明のために当院で考えた造語です。
他の医療機関で出残り便秘や鈍感便秘という言葉を言っても、ご存じの先生はおられませんので、ご注意ください。
出残り便秘・鈍感便秘について、詳細はこちらをご参照ください。
すべてが絡み合って一つのポリシーを作る
大阪肛門科診療所は、こんな風に色々と特徴のある施設です。(本当は他にもたくさん特長はありますが)
そしてこれらのポリシーの一つ一つがお互いに影響し合って当院の診療を作っています。
一つが欠けても、診療は全く別のものになるでしょう。
例えば、「手術が少ないことは恥だ」と考える肛門科では同じ道具(=便通の管理)を持っていても当院とは使い方が異なるはずです。
「持っている知識が同じだから診療の内容が似ている」と想像するのはちょっと違うと思います。
当院の診療は標準治療があって初めて有意義です
大阪肛門科診療所の診療は個性的ですが、それはあくまでも標準治療に比較してのこと、保険診療=標準治療がなければ当院の個性もありません。
むしろ私たちは医療の中での、いわゆる「隙間産業」なのです。
標準治療あり方を見て、標準治療では快適に過ごせない患者さんのために自分達の治療を変えてきたのです。
ですから、私達の行っている治療が標準治療よりも優れているとか、全ての人に行われるべきだとか、そういう主張をするつもりはありません。
でも、こんな一風変わった治療を必要とする患者さんが、きっと、まだほかにもおられると信じて診療しています。
すべての肛門科が当院と同じになるのは、こんどは保険診療の方が空洞になってしまい、肛門科の医療は全体として、むしろ良くない方向に行くのだろうと思います。
ですから、迷っている患者さんには標準的な治療をうけることも検討してほしいと思います。
標準治療は保険診療の医療機関で提供しておられます。
もしもそれで良くなってくれるのなら、経済的にも距離・時間の観点からもその方が合理的です。
同じ考えで診療する先生を知りません。
そんなわけで保険診療では当院の診療方針は難しいと思います。
自由診療でなければできないと思います。
じゃあ、他にも自由診療の肛門科はありますが、そちらはどうなのか?
そういった施設は、それぞれに当院とは異なる個性を持っています。
いずれの先生方も私たちよりもずっと先輩で、ずっと実績がある方々です。
私たちのような隙間産業ではなく、王道の肛門科診療をなさっていると思います。
王道というのは、高品質の標準治療だったり、新しい治療だったり、という意味です。もちろん、それがその先生方の個性なのです。
・・要は、私と同じような診療をしている先生を私は知りません。
というか、私は人と違ったことを意識的にやって参りましたのでそれで当たり前なのですが(笑)
だから、同じ考えで治療する先生を紹介することはできません。
もちろん、同じ診療ではないけれど標準的な良い診療をしている(と思われる)先生なら
紹介しますので、ご安心ください(笑)。
ただし、その時も「お勧め」はしません。
あくまでも受診したうえで、患者さんご自身が、その先生を信頼するかどうか判断してください。
私はそんな立場です。
大阪肛門科診療所 院長。 平成7年大阪医科大学卒業。大学5年生の在学中に先代の院長であった父が急逝(当時の名称は大阪肛門病院)。大学卒業後は肛門科に特化した研修を受けるため、当時の標準コースであった医局には入局せず、社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。隅越幸男先生、岩垂純一先生、佐原力三郎先生の下で3年間勤務、研修。平成10年、院長不在の大阪肛門病院を任されていた亡父親友の田井陽先生が体調不良となったため社会保険中央総合病院を退職し、大阪肛門病院を継承。平成14年より増田芳夫先生に師事。平成19年組織変更により大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。