食べたらすぐに便が出るのは残便のせいかもしれない
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(2019年5月7日加筆修正)
実は若い頃、食べる度に便が出ていたのに便秘によるイレウス(腸重積)で入院した経験がある佐々木みのりです。
皮膚科医から肛門科医に転身して20年。
肛門科で痔や肛門のトラブルを抱えた患者さんをたくさん診てきましたが、肛門科医になりたての頃は、「痔というのは、何日も便が出ないひどい便秘の人がなる病気」って思っていました。
その考えは今となっては完全に覆されたわけですが、日にち毎日、診察に来られる患者さんを診ていて、痔なのに毎日便が出てる人が多いのに驚きを隠せませんでした。
毎日出てるのに、どうしてこの人は痔になったんだろう?
やっぱり体質とか家系とかあるのかな・・・
お母さんもひどい痔で大変だったって言ってるし・・・
と、もともと生まれ持った体質や痔になりやすい家系があるのだと私も思い込んでいました。
でも、たくさんの患者さんを診ていて、その法則が当てはまらない症例もたくさんあること、痔になっていない人は毎日便が出ていなくてもスッキリ出せているから診察しても肛門や直腸に便が全く無いことに気付きました。
そして便をスッキリ出してもらったら「まるで別人?!」って思うくらいおしりが変わることが多いのです。
出てたイボ(痔核)が中にキレイに入っていたり
肛門周囲の皮膚がキレイになったり
トイレに行く前と後とで「えっ?!さっきの患者さんだよね?」と目を疑うくらい別尻になっているのです。
この記事の目次
毎日何度も便が出るのに、どうして痔になったの?
「1日に何度も便が出る」
という人が多いことに驚きました。
患者さん自身も便秘という意識はゼロ、むしろ「快便」だと思っておられます。
「便秘もしてないのにどうして痔になったんだろう?」
と患者さんも不思議がっておられますし、親や兄弟が痔だと「家系なんだ」と思い込んでおられることも多いです。
私自身、「毎日出てて便秘なんてしたことないのに、どうして痔になったんでしょう?」という患者さんの疑問に明確な答えを持っていませんでした。
やっぱり肛門にも強い、弱いがあるんだろうなぁ・・・
と考えていました。
実際に、体力に差があるように肛門だって強い弱いがあると、今でも思ってますが😓
また便を出す回数が多いということは、それだけ肛門を使う回数が多いということにもなるので、負担も倍増なんだろうなぁと考えていました。
1日1回しか便が出ない人に比べると、1日に2〜3回便が出るということは、2〜3倍の負担がかかっているとも言えますからね。
今でもその考えには賛成です。
でも・・・1日に何度も便が出ていても痔が無い人もいるんです。
何が違うんだろう?
と思って検証したところ、痔が無い人は1回1回、スッキリ排泄出来ていることが分かりました。
それに反して痔になっている人はスッキリ出てないんです。
便が残っているんです。
残った便があとからチョロチョロ出てるだけ・・・という状態だったんです。
患者さんの排便を検証した結果、1日に何度も便が出るという便通には、次の2種類あることが分かりました。
- スッキリ出ずに残った便があとからチョロチョロ出てるタイプ
- 腸がよく動いて何度も便が下りてきていて、1回1回、スッキリ排泄出来ているタイプ
②の人は痔になっていません。
①の人が痔になっています。
要するに、何度も便が出ることが悪いのではなく、肛門に便が残ったり溜まったりすることが悪いんじゃないか?と考えるようになりました。
そして②の人の中でも、残便の多い人の方が痔がひどいことが分かりました。
もちろん残便の量は日によって、体調によって、1回1回違います。
でも、少量だろうと大量だろうと、常に肛門に便があるという状態を作ると、肛門に悪いようです。
正しく排泄すれば通常、肛門は空っぽになります。
そこを空っぽにせずに便を溜めて生きてきたから、肛門に負担がかかって痔になったのだと私たちは考えています。
出始めの便だけが硬いのは残便の証拠
毎日便が出てるのに、出始めの便だけが硬くて切れ痔を繰り返してしまう
という悩みも多いです。
毎日便が出てるから便秘という意識もないですし、下剤を飲むわけにもいかず、何をどう治療したら良いのか分からないから困り果てている患者さんも多いです。
市販薬を使っても治らないし、一旦治ってもまた切れるし、下剤を飲むと下痢になるのに、出始めの便だけは硬い・・・と繰り返す切れ痔に絶望的になっている人も本当に多いですね😢
手術宣告なんて受けると、ついに来たか・・・と、この世の終わりかと思うくらい落ち込んで受診される患者さんも多いです。
中には手術を何度も受けているのに、切れ痔を繰り返している人もおられます。
手術しても切れ痔を繰り返すことだけは変わらない😭
何のための手術だったのか?
一生、酸化マグネシウムを飲み続け、柔らかい便を出し続けないといけないのか?
と不安を抱えて受診されます。
何度もブログで書いていますが、手術をしても「切れない肛門」「切れ痔にならない肛門」を作ることは出来ません。
痔の原因となった便通を治さなければ何度でも切れ痔を繰り返します。
その便通とは「出口の便秘」です。
毎日便が出ていてもスッキリ出ずに中に残っていたら便秘です。
残った便は時間が経てば経つほど古くなって固まっていきます。
そして次に出るときには出始めの便が硬くなります。
出始めの便は出残り便なんです。
そのあとから出てくる便が新しい便なんです。
だから毎日便が出てるのに切れ痔を繰り返していたんです。
食べたらすぐに便が出るのは、出口(肛門)に便があるから
胃に食べ物が入ると胃結腸反射が起こり腸が動きます。
だから食後は排便のゴールデンタイム♪
ここで便意を感じたらすぐにトイレに行くとスッキリ出やすいですよ。
ここで肛門が空っぽの人は切迫した便意が来たり、便が漏れそうになったり、実際に漏れたりしないのですが、残便がある人は、出口のすぐそこに便がありますから、ちょっとしたことで出やすいのです。
場合によればオナラと一緒に出そうになったり、便意を感じたらすぐにトイレにかけ込まないと間に合わなかったり、ひどいケースだと待ったなしという状況も・・・💦
会食などで食事中、トイレに立つことが出来ないから・・・という理由で人付き合いを制限されていたり、食べたらすぐにトイレにかけ込まないと間に合わないことがあるから外食が出来なかったり、お友だちとのランチを断ったり、便のせいで人生まで暗くなっている人もおられます😭
ここまでくると「快便だ」と喜んでいられない。
何とか便の回数を減らしたいと悩んで色々調べたりするけど、便秘の治療薬は山ほどあるのに、便の回数を減らす薬はない。
内科を受診して「過敏性腸症候群」と診断されて投薬治療をしてもダメ。
一体自分の腸はどうなってるんだろう・・・?
と途方に暮れて私の外来に来られる患者さんもたくさんおられます。
多くの人が「おなか(腸)」に原因があると思って、薬を飲んだり、内科を受診したりされているのですが、原因は出口(肛門)にあるんですよ。
出口に働きかけることをせずに、上から(口から)入るものばかり試してるから何も効果がないんです。
それどころか、薬を飲むと余計に何度も便が出て症状がひどくなる人もいます。
出始めの便が硬いのを何とか柔らかくしようとして、酸化マグネシウム系の薬を飲んでいる人に多いですね。
腸はちゃんと動いて良い便を作って肛門まで送り届けてくれているのに、必要の無い薬を飲むから下痢になるんです。
びちびちドロドロの軟便・下痢便が頻回に出て困っている患者さんに、薬を飲むのをやめてもらっただけで症状が無くなった・・・なんていうこともたくさん経験しています。
送り届けられた便を排出する過程で躓いているのに、下剤や整腸剤を飲んでも何も変わりません。
おなか(腸)に問題があるのか、
出口(肛門)に問題があるのか、
どっちなのか?
あるいは両方なのか?
ということを見極めて治療を考える必要があります。
毎日出てても便秘?!
痔や肛門のトラブルを抱えて受診される患者さんを診察すると、肛門や直腸に便があります。
ついさっき出してきたのに・・・です💦
今日は既に2回も出たのに・・・です😓
診察室でのよくある会話↓
私「今日、便出ました〜?」
患者さん「はい!2回も出て快便です!」
私「スッキリしてますか?」
患者さん「はい!いつもスッキリですよ!」
私「まだ便、ここにありますけど・・・(苦笑)」
患者さん「えっ?!さっき出してきたのに?!」
私「そのスッキリ感、当てになりませんね〜(笑)」
患者さん「マジですか?!」
私「これ、便秘ですよ(笑)世間じゃ、便秘って言わないけどね〜。」
毎日出てても便秘?!😱
と多くの患者さんが、その診断に衝撃を受けます。
今まで便秘で悩んだことがなかったので、肛門の便秘があると言うのを初めて知り、びっくりされます。
便通は良いのに何かすっきりせず、どうしてだろうと疑問に思っている方が多いですね。
痔になっているのに便秘で悩んだことがない・・・という人、本当に多いです。
つまり便秘に気付いてないんです。
肛門のトラブルを発症して初めて便秘に気付くという顛末。
痔になってから便秘に気付く人も多いです。
便秘もしてないのに痔になったり肛門がかゆくなったりしません😓
また何度手術を受けても便通を直さなければ何度でも痔を繰り返します。
定期的に歯のお手入れをするように、毎日歯磨きをするように、出口(肛門)のことも手入れして欲しいものですね😅
ちゃんと排泄すること
出したあとは空っぽになっていること
ここが大切です。
「毎日出てるか」よりも「スッキリ出てるか」が大切
便秘の基準が毎日出てるかどうかで、毎日出てたら便秘ではない、自分は快便だと自信満々の人が多いのですが、毎日出ててもスッキリ出ずに中に便が残ってたら便秘です。
私たちはそれを「出残り便秘」と呼んでいます。
当院を訪れる患者さんのほとんどに認められる出残り便秘。
私たちは痔の原因はこれじゃないかと考えています。
便が残ってるのにスッキリ感がある人は肛門の感覚が鈍ってきている証拠。
残った便に気付いてないんです。
便感知センサーまで鈍って、肛門が便に慣れて、ちょっとくらいの便があっても平気になっていきます。
そのうち肛門に溜められる便の量がどんどん増えていきます。
1日分の便で反応しなくなると、やがて毎日出なくなります。
たまに便が出ない日がでてきて、そのうち1日おきの排便になり、気付くと3日に1回になっていて・・・という経過をたどっている人も多く、おしりがどんどん鈍感になっていっているのが良く分かります。
そうなると肛門に便が溜まっても分からない、反応しない、便意もなかなか来ない「鈍感便秘」となります。
だからスッキリ排泄することは本当に大切!
「毎日出てるか」よりも「スッキリ出てるか」を意識してみてください。
出口の便秘に関する記事はコチラ↓
診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
右側がラブです🐶
犬にも出残り便秘がありますね💩
だから犬も痔になるのかも😓
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。