洗い過ぎると肛門が狭くなる理由
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(2019年5月12日加筆修正)
アメブロに戻ってから書くことが楽しい佐々木みのりです。
今日の記事は肛門の症例写真を提示しています。
閲覧注意です😓(見たくない方は読まないで下さい)
学会発表や講演で症例写真を使うのを快く承諾して下さった患者さんの写真データを、誰のものか分からないようにファイルに保存し、その中からセレクトして使わせて頂いております。
不適切画像として認定されないのか不安だったのですが、皮膚症状を伝えるには実際の症例写真を見て頂くしかないと判断し、初めてブログで掲載することにしました。
皮膚科医から肛門科医に転身して21年。
20年前と比べて肛門が狭い人が本当に増えています。
私の指が太くなったんだろう?
違いますよ😓
だって使っている肛門鏡は同じですから。
その肛門鏡が入りにくい、つっぱって開きにくい肛門の人が本当に増えました。
肛門括約筋の硬化による狭窄ではなく、肛門上皮や肛門周囲の皮膚が硬化したために伸縮性の悪い肛門になっているのです。
温水便座の普及と共にどんどん増えてきています。
このままでは日本人の肛門がどんどん狭くなってしまうのではないかと危惧しています。
温水便座症候群という疾患名が提唱されてから20年近くたっていますが、洗い過ぎによる皮膚障害は増加の一途をたどっています。
清潔にするために
痔に良かれと思って
肛門を洗浄している人も多いです。
まさかそのせいで肛門が狭くなってしまうなんて誰が想像したでしょう。
今日は洗い過ぎるとなぜ肛門が狭くなるのかについて皮膚科学的見地を踏まえながら説明したいと思います。
肛門の皮膚に限った話ではなく、顔も体も同じ事ですので、スキンケアの参考にして頂くと良いでしょう。
「皮脂膜」が洗い流されることから始まる
なぜ洗い過ぎると肛門が狭くなるのか?
その鍵は皮脂膜にあります。
皮膚の表面を覆っている天然の脂「皮脂膜」は皮膚の最も外側にある一次バリア。
これがあるから皮膚の水分が蒸発せずにすんでいたり、外部から異物が侵入するのを防いでくれています。
表皮に水分があるから皮膚は伸縮性を保てるのです。
肘や膝、指を曲げても皮膚が裂けないのは表皮に水分が含まれているに他なりません。
バリアー機能が正常な皮膚は、皮脂膜が表面をしっかりと覆っているので水分が蒸発しませんが、洗い過ぎによって皮脂膜が剥がされると、表皮内の水分が蒸発して皮膚が砂漠状態になります。
この表皮内の水分が失われると皮膚のしなやかさと弾力性が低下し、皮膚がつっぱって動きが制限されたり、動かすと皮膚が裂けるようになります。
このように表皮から水分がどんどん蒸発すると↓
皮膚表面が割れるようになります↓
その代表的なものが「あかぎれ」です。
このあかぎれと同じようなことが肛門の皮膚でも起こります。
炎症を起こした皮膚は硬くなります。
つっぱって伸びない皮膚、伸縮性の低下した皮膚になり、開きにくい肛門になってしまうのです。
硬い便で「切れる」のではなく、便を出す時に肛門が広がると「裂ける」ようになるため、悪化するとオナラを出す時にも裂けてしまいます。
お尻の割れ目に沿って「あかぎれ」のようにパックリと皮膚が裂けたり、肛門の中ではなく、肛門の縁(ふち)が裂けて傷が出来るようになるのが特徴です。
しゃがむと痛い、スクワットが出来ないなど、動作にも制限が出てくるため厄介です。
乾燥しているのにベタベタする
お尻がベタベタする
肛門がしめっぽい
お尻がジメジメする
肛門がペタペタする
などと洗い過ぎの患者さんが表現されることがよくある皮膚症状。
でも洗い過ぎて皮膚は乾燥しています。
なぜ乾燥しているのにベタベタするのでしょう?
その理由も皮脂膜にあります。
皮脂膜が無くなると、体は頑張って皮脂を分泌しようとするのです。
皮膚内部は乾燥状態ですので水分の蒸発を防ぐため、皮脂が過剰に分泌されてしまうわけです。
だから乾燥しているのにベタベタするという状態になります。
皮脂膜を落とす過剰衛生は他にもある
皮脂膜は皮膚の一番外側で体を守っている大切な天然のクリームのようなもの。
ある意味、皮膚免疫の要です。
これを落としてしまうのは温水便座に限ったことではありません。
拭きすぎ、こすりすぎによっても剥がれてしまいます。
トイレットペーパーでゴシゴシこすって拭く、お風呂でお尻を石鹸で洗う、ボディタオルやスポンジなどで洗う、おしりふき等で拭くなど、温水便座以外でも間違ったスキンケアで皮脂膜を落としてしまっている人も多いです。
温水便座を全く使ったことがないのに、皮脂膜が無くなり、皮膚障害が生じているケースもたくさんあります。
だから温水便座だけが悪いわけではないのです。
洗い過ぎること
拭きすぎること
こすること
によって皮脂膜が剥がされることがいけないのです。
温水便座に限らず洗い過ぎると肛門狭窄は生じます。
肛門周囲の皮膚は目の周りの皮膚と同じくらい薄くてデリケート。
そんな部分をゴシゴシこすったり、シャワー直撃して洗うとどうなるのかは容易に想像できるでしょう。
肛門は顔と違って毎日鏡で見ない場所なだけに、変化に気付きにくいことも悪化させる要因となっています。
過剰衛生習慣がないかどうか、今一度チェックしてみて下さいね。
診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
犬も洗い過ぎると良くないようです💦
ラブの病気の治療で言われたことも
「洗うの禁止」でした😓
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。