便もれにジオン注射をしても治りませんよ
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(2019年7月8日加筆修正)
当院は自由診療・完全予約制。
なかなか敷居の高い肛門科ですから、お尻が調子悪いからちょっと受診してみようという人は殆どおられません😓
多くの人がセカンドオピニオンならぬサードオピニオン、いやいや、もっともっと色んな肛門科(を掲げる施設、しかも専門じゃない所が多い)を回ってから最後の砦だと思って来られる患者さんも多いです。
うちで10軒目という人もしばしば・・・。
肛門を専門にしている医師は非常に少ないですから、今までかかった医療機関は全部、専門外のところ・・・という患者さんも多いです。
そこで驚くべき衝撃の結果になることが多々あります。
患者さんもビックリかもしれませんが、診察をしている私たちの方がビックリです!
そんなビックリ症例をエピソード風に、ご本人が特定されないよう一部変更してご紹介します。
この記事の目次
下着に便が付くことに悩んでいた40代の「大肛もれ子」さん(仮名)
大肛もれ子さんは43歳の働くお母さん。
(以下「もれ子さん」と記載)
3人の子供のお母さんでもあり、働く主婦でもあります。
会社勤めは大学卒業以来、勤続20年。
家事に協力的で理解のあるご主人と円満で幸せな家庭を築いておられました。
結婚後も仕事を続け産休・育休を取りながらワーキングマザーを続けています。
40歳頃から排便後に時々下着に便が少量付いていることに気付きました。
あら?
拭き方が悪かった?
と思い、念入りに拭くようになりました。
だけど、何度拭いても便が付いてきて、キレイに拭き取れないのでウォシュレットでお尻を洗うようになりました。
洗うとスッキリして気持ちがいいです。
それに紙に便も付きません。
あー良かった!
これで大丈夫!😔
そう思って自宅にも温水便座を設置し、いつしか洗うことが習慣に・・・。
ところが・・・
きれいに洗ったはずなのに再び下着に便が付くようになりました。
しかも以前と違って下痢のような便で量も多いです。
会社でも周りの人にニオイで迷惑をかけていないか気になるようになり、排便以外でもトイレで何度もお尻を洗うようになりました。
排便してないのにトイレでお尻を拭くと紙に便が付きます。
だから外でもウォシュレットが付いているトイレを探して入ります。
でも・・・
何度洗っても下着に便が付くのでナプキンを当てて過ごすようになりました。
1日に10回くらいはウォシュレットで洗っていたでしょうか。
そのうち肛門に痛みを感じるようになりました。
ある日、いつものように排便をすませウォシュレットで肛門をキレイに洗って、さぁ出勤しよう!と思ったら・・・
便器の水が赤くなってる!!
え?
何これ?
出血してる!!!😱😱😱
もうこれはダメだ。
ちゃんと病院に行かなくちゃ・・・
そう思って近所のクリニックを受診しました。
内科・外科・胃腸科・肛門科と看板に書いてあったので、腸の問題かもしれないし肛門科も書いてあるし行ってみようと仕事が休みの日に家族に内緒での受診です。
そこで出産以来、人前でパンツをずらすというとても恥ずかしい経験を乗り越え、肛門の診察を受けました。
「イボ痔ですね。今なら注射で簡単に治せますよ。」
と先生から軽く言われました。
「え?私、痔なんですか?それでこんな不快な症状が起こってるんですか?」
と尋ねたら
「中にイボ痔があります。注射すれば治りますよ。」
と言われ、すぐに申し込みをするよう促されました。
診察室を出たら看護師さんが注射の説明をしてくれ、何が何だかよく分からないまま、日にちを決められてしまいました。
生まれて初めての肛門の診察と痔の診断に衝撃を受け、しばし頭の中が真っ白になり、家に帰ってから冷静になると不安と迷いでどうしようもなくなり、ひどく落ち込みました。
勇気を出して家族に打ち明けたところ、ご主人が「医者も色々だから、セカンドオピニオンで他のクリニックも受診してみたら?」と言ってくれたので、ネットで痔や注射療法のことを調べ、病院選びを始めました。
イボ痔についても随分調べて勉強しました。
かなり専門的な知識もついたのですが、自分の症状と全く当てはまりません。
自分が困っている症状は「下着に便が付くこと」「下着が便で汚れること」「何度拭いてもキレイに拭き取れないこと」で、いぼ痔(痔核・脱肛)に特有の「腫れ」や「でっぱり」「脱出」と言った症状は何もありません。
出血だって、先日が初めてのことで、しかも1回きりです。
おかしいなぁ
これって痔のせい?
痔の手術をしたら下着に便が付かなくなるの?
疑問を持ってネットで調べていくうちに当院のブログに行き着いたそうです。
ブログに書かれている内容はまさに自分の症状とピッタリ当てはまる!
この記事だったそうです↓
大阪まで遠いけど行ってみよう
そう思って遠方からわざわざ来られました。
出残り便秘と洗い過ぎ
遠方から来られる患者さんは相当の覚悟と勇気をもって受診されます。
お金も時間もかかるわけです。
そう簡単に気軽に受診できません。
だから本当に思い詰めて人生まで暗くなっている人が多いです。
もれ子さんもそうでした。
下着に付いた便のせいでニオイが気になり、職場を休みがちになり、退職を考えておられました。
仕事だけでなく友人も多いもれ子さんは仕事の合間に友人や職場の人とランチしたり飲みに行ったりと、社交的で明るい性格だったそうですが、便のことが気になって、付き合いも断るようになり、それとともにどんどん引きこもっていったそうです。
見かねたご主人が「大阪まで行っておいで。家のことと子供のことは僕が何とかするから!大変だから1泊しておいでよ。気分転換にもなるよ。」とやさしく背中を押してくれたそうです。
診察しようとしたら、ご本人の申告通り下着に当てているナプキンに水様便が付いています。
肛門に指を入れると・・・肛門と直腸に便が充満していました。。。
ついさっき出してきたのに・・・です。
しかもウォシュレットで念入りに洗ってきたのに・・・です。
いやいや。
洗ってるから便が付くんですけどね。。。
しかも付いてるのは便だけじゃなくて、肛門周囲に紙もいっぱい・・・。
そして肛門周囲の皮膚はボロボロ。
色まで変わってるし。。。
皮膚はブヨブヨ、シワに沿って亀裂まで入ってるし、そこからジワ〜っと血もにじんでます。。。
うーん
これじゃあ出血もあるだろうなぁ
肛門のしまりは正常
そして肛門の中も診察しましたが痔は何もありませんでした!
「痔じゃないですね。ただの出口の便秘ですわ。」
と私が言うと、お尻を出したまま泣き崩れるもれ子さん。
あー。。。
それほどつらかったのね。。。
お尻にバスタオルをかけて落ち着くまで看護婦さんが背中をさすります。
「落ち着いたら声かけて下さいねー。それよりも何よりも、肛門の中が便まみれなんで、ちゃんとトイレで出してきて下さいね〜。これじゃあキレイに拭けないし、洗ってもキレイにならないよね。穴にウンコはさんでるわけだから、パンツが汚れて当然やんねー。」
と説明すると
「えっ?本当ですか??」
と笑顔に変わり、今度は笑い出しました。
泣き笑いです。
「私、痔じゃないんですか?痔のせいで便がもれてるんじゃないんですね?」
ともれ子さん。
「はい。痔も何もない正常な肛門です。しまりも悪くないし、どこも悪くないです。ただ便秘なだけですよ(笑)」
と私が説明すると診察室の中が笑いの渦に・・・。
「あ〜良かった!手術とか注射とか受けなくて良かった!やっぱり痔じゃなかったんだ!!」
もれ子さんは喜んでトイレへ。
排泄が終わってからもう一度診察です。
「いっぱい出ました。ビックリです。だって今朝、たくさん出たんですよ。私、便秘なんてしたことなくて、必ず毎朝決まった時間に便が出るので、快便だと思ってました。」
はいはい。
そういう人、むっちゃ多いですよ😓
「先生が言ったとおり、拭いても紙に便が付かなかったです!!便が付いてない紙を見るのは本当に久しぶりで、昔の排便を思い出しました。これがスッキリ出るってことなんですね!お尻と頭と両方で納得出来ました。心まで明るくなりました。遠方から宿泊までして受診して本当に良かったです。送り出してくれた主人に感謝です。」
とまた涙。。。
「無い自覚」に「無い痔核」
このもれ子さんのケースのように痔じゃないのに、正常な肛門なのに、痔だと診断されて手術や注射療法を勧められている患者さんが本当に多いです。
もう悲しくなるくらい。。。
そしてそのような患者さんのほとんどが専門外の医師にかかっています。
肛門科と看板に書いてあっても専門とは限りません。
そもそも肛門を専門にする医師は全国でも非常に少ないので、確かな知識と鋭い目をもって探さなければ見つけられません。
専門医の資格を持っているかどうかではありません。
肛門専門施設での研修・勤務経験があるかどうか、これに尽きると思っています。
肛門専門施設は全国でも少ないです。
このブログに記載していますので参考に探してみて下さいね↓
ちゃんと肛門専門施設でトレーニングを受けた医師であれば、痔かどうかの診断は出来ます。
正常な肛門を痔だと診断して手術や注射をすすめることはないと思います。(そう信じてます)
専門医資格はあてにならないので、医師の紹介のページで経歴をちゃんと見て、肛門専門施設での研修・勤務経験があるかどうか確かめてくださいね。
もれ子さんの症状を整理してみましょう。
何に困っていたか?
下着に便が付くことです。
痔核(イボ痔)症状はあったのか?
何もありません。
要するに自覚症状も無い、痔核も無い、無い無いづくしの診断となりました。。。
こういうこと、本当に本当に毎日のようにあるんです😭
私の外来に来る人は一握りだと思うので、もれ子さんのように痔の診断を受けて、そのまま何も考えず医師の言うままに手術や注射療法を受けてしまっている人が世の中にいーっぱい居るんだろうなぁと思います。
そんな人を一人でも減らしたい
必要のない手術を受けて後悔したり後遺症で悩む人を無くしたい
そんな思いで情報発信をしています。
一人でも多くの人に私たちのメッセージが届きますように。
手術と言われたら考えて欲しいこと
皆さんは医者の診断を信じますか?
提案された治療を受けますか?
当然イエスと答えて欲しいし、医療はそうあるべきだと思います。
思ってました。
自分が肛門科の仕事をするまでは・・・。
なぜなら
内痔核と言われたのに無い痔核
内痔瘻と言われたのに無い痔瘻
と、何もない正常な肛門を痔と診断している専門外の医師が本当にいる。
だから肛門科だけは専門の先生にかかってほしい。
強くそう願います。
肛門科は診断が一番難しいと思っています。
ここでつまづくから、そのあとの治療が的外れなものとなり、うまく行かないのだと思います。
手術が必要な痔は本当に少ないです。
痔の多くが手術をしなくても良くなったり治ったりします。
それにね
たとえ痔がひどくて手術が必要であったとしても、あなたが痔で困ってないのであれば手術をせずに痔を持っていていいんですよ。
痔はどこまでいっても良性疾患です。
癌ではないですし、放置してもいぼ痔(痔核・脱肛)や切れ痔(裂肛)が癌に変わったりすることはありません。
(痔瘻だけは別です。長期間放置すると、非常に少ないですが、まれに痔瘻癌になることがあります。)
だからイヤなら手術を断ってもいいんです。
手術をするかどうか決めるのは医者じゃない。
あなたなんです。
自分のお尻のことです。
人任せにせず自分で決めて下さいね。
手術をしても便通を治さなければ痔は繰り返す
痔は排泄の結果です。
自然に何の原因もなく痔にはなりません。
痔の原因となった便通や排泄を正さなければ、手術をしても何度でも痔になります。
だから究極、手術だって対症療法だと考えています。
出来てしまった痔を取り除くだけです。
使い勝手が悪くなった肛門を修理しても、使い方が悪いとまた壊れてしまいます。
だから本当の治療は正しい排泄をすること。
何が正しいのかは人によって違う面もありますが、ちゃんとスッキリ便を出し切ることが大切だと私たちは考えて便通の治療をしています。
年に1回お尻健診
もれ子さんには出残り便秘の治療をしました。
毎日残った便をスッキリ出すようにしてもらって2週間後にもう一度受診です。
2回目の受診の時には春休みということもあって、なんと、ご主人と3人のお子さんも一緒に旅行を兼ねて来られました!
初診の時と違って笑顔で颯爽と診察室に入って来られて私の顔を見るなりピースです♪
「先生の言われたとおり、本当に便で汚れなくなりました!こんなスッキリ感、久々!もうお尻も心もスッキリで人生明るくなりました!」
と満面の笑み。
「ずっと便失禁だと思って悩んでいたので、もっと早く来れば良かったです。この歳で肛門のしまりが悪いなんて恥ずかしくて誰にも相談できなかったけど、肛門のしまりも悪くないし、いぼ痔もないし、前のクリニックで手術を受けなくて本当に良かったです!」
そして多くの患者さんが2回目の診察で通院が終わります。
「また何か困った事があったら来て下さい。今日で終わりです。お元気でね〜♪」
とお別れしましたが、もれ子さんは1年に1回、必ず「お尻健診」に来られています。
いつも家族連れで😊
春休みや夏休みに家族旅行を兼ねて1年に1回お尻健診に来られる患者さんも多いです。
痔は治ったけど便秘は治ってないので、便通の管理だけは患者さんの生活の中で続けていく必要があります。
便通を整えていたらお尻の調子は悪くならないので1年に1回だけ便通を含め肛門チェックに来られる患者さんが増えてきました。
手術した方がいいよね・・・っていうくらいひどい脱肛の患者さんも、便通を治したら痔が良くなってしまい、普段何も困った症状がないので手術をせずに痔と上手く付き合っているという患者さんもたくさんおられます。
ひどい脱肛だったのに10年以上手術せずに快適に過ごしている患者さんも多いですよ。
痔を治療しなければならないと思っているのは医者だけなのかもしれません😓
患者さんは
痔を治したいのではなく
お尻にまつわる困り事を無くしたいだけ
なので、手術をせずに困り事が解決できれば痔そのものはあっても構わないという人も本当に多いです。
あなたはどうしたいのか?
どうなればいいのか?
それは手術しなければ得られないのか?
そこのところ、よーく考えて治療を受けて下さいね。
後悔のない治療を受けて皆さんがハッピーになりますように💖
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。