痔の手術について
手術を避けることが難しいケースのみ、手術を検討します
大阪肛門科診療所は手術を避ける技術を大切にする肛門科です。
特にいぼ痔、切れ痔に関して当院では「最初から手術ありき」という診療は行っておりません。
しかし、病状によっては手術でなければ辛い状態から抜け出せない方もおられます。
そんなときには、もちろん手術を行っています。
また痔瘻の方にとっては手術が唯一の治療法であることもしばしばあります。
ふたつの手術スタイル、入院手術と日帰り手術
当院の手術スタイルには2つの流れがあります。
ひとつはオーソドックスな入院手術スタイル、もうひとつは古典療法と言われる日帰り手術スタイルです。この2つは完全に異なる術式で、それぞれに長所短所があります。
両方のスタイル・術式を並行して、同じ熱意・熟練度で行おうとする専門の肛門科はまれだと自負しています。
入院手術は、なぜ入院が必要なのか?
術後大量出血の予防が目的です。当院の場合は5泊6日のご入院となります。
標準的なスタイルである入院手術の術式では、手術後2週間以内に、1%以下の確率で大量出血がおきるとされています。このため、一般的には2週間の入院が原則とされています。当院で以前行った入院期間短縮の試みの結果、短期入院で大量出血が増えることを経験したため、5泊6日の入院が安全と判断しています。
日帰り手術ではこういった大量出血が極めて起こりにくいため、入院は不要と考えています。
入院手術スタイルについて
私たちが当院を引き継いでから20数年になりますが、前半の15年以上の期間は概ね年間200〜300件の手術を扱ってきました。
最も力を入れたのは痛みの少ない手術を心がけることでした。
患者さんに多くの事を教えていただきながら、私たちなりの手術スタイルを確立できたと考えています。
その結果「痛みが少ない」と喜んでいただくケースが多くなり、自信を持って手術ができるようになりましたした。
近年、手術を避ける技術(=便通の管理)を大切にするようになり手術件数は減少しましたが、当時からの手術スタイル、痛みが少ない手術を目指す姿勢は変わりません。
いぼ痔の入院手術
結紮切除術(半閉鎖式)を中心に行います。痔核を縦方向に長く切除する方法で、当院では肛門の内部だけを縫合する半閉鎖式を行います。結紮切除術は日本の肛門科では最も標準的な術式である反面、多くの医師が独自の工夫を加えています。バリエーションが多く術者ごとに術式が違うと言っても過言でないほどです。
切れ痔の入院手術
切除ドレナージが基本術式です。切れ痔が治らなくなる理由はキズの形が悪いからなのですが、この手術は切れ痔自体を取り去って新しいキズにし、同時に治りの良い形に整えます。新しいキズはちゃんと排便を管理すれば自然に治るはず、その治り方が最も自然なはず、というのがこの術式を行う理由です。
必要な時には内括約筋切開術を行います。括約筋が炎症で硬化してしまうと肛門が狭くなり硬い便で簡単に切れるようになります。狭くなった括約筋を一部分だけ切開して肛門が広がるようにする術式です。
他には、肛門皮膚の面積が不足している場合に行う皮膚移動術などを行うことがあります。
痔瘻の入院手術
可能であれば切開開放術を選択します。痔瘻の手術は切開開放術にはじまり切開開放術に終わる、というほどの基本術式です。痔瘻の管が隠れている皮膚や括約筋を切開して管の隠れた部分をすべて露出します。術後の締まりに影響が出るため浅い痔瘻・単純な痔瘻に対してのみ行います。
括約筋保護術は文字通り括約筋を切断せず温存しようとする方法です。具体的には痔瘻の管をくり抜いたりします。深い痔瘻・複雑な痔瘻に対して行います。再発率が高いのが欠点で、再発したときには切開開放術しか選択肢がなくなる点は注意が必要です。
日帰り手術スタイルについて
古典療法は近年肛門科領域で注目されている、いわば「古くて新しい治療」です。江戸期の医学書に記載のある方法、またはそれを現代風に改良した方法を利用しています。一番の特長は術後大量出血が起こりにくいことで、その安全性おかげで日帰りが可能となっています。
日帰り手術についてよくある誤解が「本当は入院手術の方が優れていて理想的、日帰り手術は入院よりも劣る手術」というもの。当院で行う日帰り手術に関しては、根治性の点で入院手術に比べて遜色はありません。一長一短はありますが、むしろ日帰り手術スタイルの方が優れている点もありますので、検討に値する方法です。
当院では平成14年(2002年)の導入以来、15年以上継続して本法を実施しています。
いぼ痔の日帰り手術
分離結紮術を行います。いぼ痔の根元を糸で縛り血液が行かないようにすると通常2週間でいぼ痔は腐って縛った糸と一緒に落ちます。落ちた後はキズになりここに柔らかい皮膚が再生して治癒します。入院スタイルよりも美しく柔らかく治りますが、術後の痛みが強い傾向があります。
切れ痔の日帰り手術
振分結紮術という術式を使います。切れ痔とその副病変(肛門ポリープ・見張りイボ)を一緒に縛ってしまいます。2週間程度で縛った部分は腐って糸と一緒に落ち、そこにできたキズに柔らかい皮膚が再生して治ります。切れ痔は皮膚の柔らかければ再発しにくいので、とても良い方法です。術後の痛みは入院スタイルよりも強いです。
痔瘻の日帰り手術
シートン法により手術します。切開開放術ではメスを使って切開しますが、シートン法ではゴムでゆっくりと縛り切断し管を露出します。切開開放術との一番の違いはシートン法ではゆっくりと切断が進むということ。その結果、切開開放術よりも肛門が緩みにくいのが長所です。短所は痛みには個人差が激しいこと、そして治癒まで長期間かかることです。順調な経過でも通常の痔瘻で4ヵ月程度、深い痔瘻だと1年近くかかることもあります。
痔の種類と治療
痔の症状は大きく3つに分類されます。種類ごとに症状や治療法など詳しく説明します。