溜まっている膿を出さずに抗生物質を飲まないで
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本の執筆に忙しく作家になった気分の佐々木みのりです。
当院は自由診療です。
保険が効きません。
保険診療の肛門科に比べると診療費が高いです。
だから色々なクリニックを回ってから最後に受診される患者さんが多いです。
セカンドオピニオンならぬthird、forth、fifthオピニオンの人も多いです。
大部分の患者さんが肛門科専門の先生にかかっておられません。
専門外の先生にかかっている人がほとんどです。。。😰
中には婦人科や乳腺外科、内科など、肛門科ではない先生にかかっている人もしばしば・・・😟
専門外だから仕方ないのかもしれませんが、診断が間違っていたり、不適切な治療によってかえって病状を悪化させているケースにしばしば遭遇します。
その中で「これだけはやめて!😫」と思うのが「肛門周囲膿瘍」です。
肛門に膿が溜まって腫れ上がる病気で、痔瘻に移行することが多いため、痔瘻の前段階とも言える疾患です。
治療は切開排膿です。
切って溜まっている膿を出してあげる必要があります。
これだけは切った方がいいという疾患の代表ですね。
なのに・・・膿を出さずに抗生物質を出す専門外の先生が居ます。
パンパンに腫れ上がって座ることも出来ないのに・・・です。😣
しかも数週間にわたって処方し続けていることもしばしば・・・。
抗生物質を飲むと少し痛みや腫れがましになることもあるのですが、いずれまた腫れて来ます。
そして困ったことに抗生物質を飲むと膿が固まってしまって「しこり」のようになってしまうケースが多いです。
患者さんもそれに気付いておられるので
「飲んだら痛みと腫れはマシになったけど、膿の部分が硬いしこりになって残ってしまって、抗生物質をやめると、そのしこりを取り巻くようにまた膿が溜まるんです。😣」
と言われます。
そして受診するとまた抗生物質を出される。
飲むとマシになるけど、しこりは大きくなる。
また腫れる→抗生物質を飲む→しこりが大きくなる・・・を繰り返してどんどん大きくなってきて、座るとしこりが当たって痛いから真っ直ぐ座れず、大きくなる「しこり」に恐怖を感じて受診・・・という典型的なパターンの人がしばしば来られます。
肛門科の先生ではないので、肛門周囲膿瘍や痔瘻のことをご存じないのでしょう。
仕方ないのですが、分からなければ近隣の肛門科専門医に紹介するなど、自分で手に負えない症例は患者さんのためにも専門医に回してあげて欲しいものです。
ガチガチのしこりになってしまうと、その段階で切開しても膿が出ず、しこりが残ってしまうこともあります。
膿が溜まっているピークで切開すると、ドバーッと膿が出て(コップ1杯分くらい出ることも多いです)、痛みも腫れも劇的に改善、あるいは無くなります。
この記事の目次
膿を出さずに抗生物質を飲むことは、噴火しようとしている火山のマグマを無理矢理固めているようなもの
痔瘻は火山に例えられることが多いです。
膿は火山で言うとマグマ溜まり。
マグマが下から湧き出してきてマグマだまりを作った状態が肛門周囲膿瘍。
どんどん下からマグマが上がって来てマグマだまりが大きくなり、今にも噴火しようとしている時に、無理矢理、外からマグマを冷やして噴火を食い止めようとしても、その時は何とかなっても、またさらに下からマグマが上がって来て、もっと溜まるといずれ外からおさえきれなくなり噴火します。
噴火することによってマグマだまりは小さくなります。
噴火しないとどんどんマグマだまりは大きくなります。
あらぬ方向に広がって別の所から噴火したりすることもあるかもしれません。
溜まっている膿(マグマ)を出さずに抗生物質で無理矢理固めると、かえって膿の溜まりを大きくし広げてしまうことになります。
肛門周囲膿瘍の段階で適切な切開排膿をすれば、キレイに治りますし、その後に痔瘻になったときにも治療がしやすくなります。
結局、しこりが残ると、しこりごと切除しなければならないので、傷が大きく深くなってしまいます😭
固めたせいで痔瘻が深くなったり、複雑痔瘻にしてしまうこともあります。
だから適切な時期に切開排膿をすることは、今後のためにも大切なのです。
膿瘍を切開しないのは専門外の証拠?
肛門周囲膿瘍の切開排膿は肛門科医にとっては常識で、ちゃんと麻酔をかけて肛門の中を確認し、膿の溜まりを指で触知しながら、確実に原因である溜まりにメスを入れます。
だからちゃんと膿も出ますし、出た後、ウソのように楽になります。
私は元皮膚科医なのですが、皮膚科で行う膿瘍切開と180度違うことに最初はカルチャーショックを受けました。😱
指で押しちゃダメなんですよね💦
最初に指導医に注意されたことを今でも昨日のことのように鮮明に覚えています。
押すと、出ようとしている膿を奥に押し込んでしまい、かえって痔瘻を悪化させることがあるからです。
膿を引っ張り出すようにして出すのがコツです。
だけど専門外の先生は知りません。
産婦人科や泌尿器科、乳腺外科、皮膚科の先生はまだ外科系なのでメスを握った経験があるので、切開排膿をされることもあるようですが、肛門科の切開排膿とやり方が違うからか、ちゃんと膿の溜まりまで到達していないこともしばしばあります。
「切開してもらったけど全然楽にならない。どんどん腫れてきた😣😢」
と言ってセカンドオピニオンで来られる患者さんも多いです。
内科の先生になるとメスを握った経験がないですから、切開排膿は出来ません。していません。
だからずーっと抗生物質の飲み薬を出し続けています。
肛門周囲膿瘍だけは肛門科を専門にしている先生にかかって!と声を大にして言いたい。
ちゃんと切開してくれますから。
楽になりますから。
肛門科を専門にしている先生がどこにいるか分からないという人のために、この記事を書きました。
是非これを読んで探してみて下さい。
専門医の資格を持っているかどうかよりも、医師の経歴が大切。
ちゃんと肛門専門施設で研修や勤務経験がある医師を選びましょう。(見学ではダメです)
1ヶ月間抗生物質を飲み続けてMRSAになっていた人もいる
抗生物質は細菌を殺す薬です。
だから細菌が死んで炎症がおさまったら服用は終わりです。
何週間もダラダラ飲み続けていると効かなくなったり耐性菌が出てきたりします。
そうなると色々な抗生物質を飲んでも効かなくなり大変なことになります。
実際にそんな患者さんを経験しました。
15年くらい前のことです。
膿が溜まる度に近所の内科・肛門科のクリニックを受診して抗生物質を処方されて飲んでいた患者さん。
飲めば腫れと痛みが楽になるからずーっと繰り返し受診していました。
最初の頃は3日くらい飲めばおさまっていたのに、回数を重ねる度に飲む日数が伸びていきました。
効き目が悪いと別の種類の抗生物質を出されたりして、気付けば1か月ずーっと抗生物質を飲んでいました。
いつもなら飲めばだんだん楽になっていくのに、今回だけはおさまりません。
どんどん腫れがひどくなっていくし、熱まで出て来て耐えられなくなり当院に来られました。
しこりの周りを取り囲むように膿が溜まっていて、麻酔をかけて切開したらドロ〜っとした悪臭の強い膿が出ました。
普通の膿瘍とニオイや膿の性状が違うので、細菌培養検査に出して調べたらMRSAが出ました。
MRSAというのはメチシリンという抗生物質に薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌のことで、抗生物質の乱用により出現、増殖すると言われています。
1か月以上にわたり抗生物質をあれこれ飲み続けた結果、耐性菌が生じたのでしょう。
通常の肛門周囲膿瘍と違い、治るのにすごく時間がかかり大変でした。。。
患者さんも「早く専門の肛門科にかかって膿をだしてもらったら良かった。こんなに楽になるのであれば切ってもらった方が良かった・・・。」と後悔されていました。
そんなことにならないためにも、どうか肛門科を専門にしている先生を探して受診して下さいね。
溜まっている膿を出さずに抗生物質を飲み続けても根本治療になりません。
肛門科を専門にしている先生なら、ちゃんと膿を出してくれると思います。
看板に「肛門科」と書いてあっても専門とは限らない
専門外の先生にかかっていた患者さんのほとんどがクリニックの看板を見て受診されていました。
日本は自由標榜制。
つまり医師免許さえ持っていれば何科を掲げてもいいのです。
医師免許さえあれば誰でも肛門科の看板を掲げられる。
それが患者さんの医師選び・病院選びを混乱させる原因でもあります。
クリニックのホームページなどで調べて受診したけど専門じゃなかったというケースも多いのですが、ちゃんと知識を持って調べれば分かります。
何度も繰り返し書いていますが、専門医資格を持っているかどうかよりも医師の経歴が大切です。
厚労省の調査によると肛門科を専業とする医師は全国で250名程度。
非常に少ないです。
昔からこの数は変わってないんですね。
ある意味、世襲の仕事と言えるかもしれません。
都道府県によっては1人も専門の医師が居ない県もあります。
それでも困ったら近隣県の専門の医師を探して受診して欲しい。
セカンドオピニオンで大阪肛門科診療所に来られる患者さんを診ていても、専門の先生にかかっている人と、そうでない人とでは全く結果が違います。
だからクリニックの看板だけで肛門科を選ばずに、そこの先生が肛門専門施設で研修・勤務しているかどうかを調べてくださいね。
皆さんがそれぞれの地域の本当の肛門専門医に出会えることを心から願っています。
診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
耳を触られても
シッポを引っ張られても
ラブは怒らないです🐶
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。