痔瘻手術を受けた肛門科医(4)自分自身の術後にケアをどうやったか
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(2019年8月11日加筆修正)
手術後ケアは手術と同じくらい大切と信じている、院長の佐々木巌です。
これまで私自身が痔瘻になり、手術を決意し、切開開放術という手術を受けた話、術後の話を書いてきました。
が、なぜか術後ケアの話が抜けていました(笑)。
術後ケアは術後治療の中心です。
病院で医者がやることよりも患者さんにやっていただくことの方が重要なのです。
今日は抜けた部分を中心にお話ししたいと思います。
ところどころ重複する部分もあるかも知れませんがお付き合いください。
ここまでの関連記事はこちらからどうぞ。
痔瘻手術を受けた肛門科医(1) 肛門科医が自分自身の痔瘻手術を決心したときのこと(http://osakakoumon.com/column/525/)
痔瘻手術を受けた肛門科医(2) 麻酔と手術中のこと(http://osakakoumon.com/column/553/)
痔瘻手術を受けた肛門科医(3) 麻酔と手術中のこと(http://osakakoumon.com/column/571/)
検査について
いきなり術後ケアではなく術前の話で恐縮です(笑)。
術前検査について、書いていませんでしたので書きます。
私の場合、診断当日に手術だったので、手術の直前に術前検査をやりました。
検査の内容は、血液、心電図、尿検査、血圧など。
血液検査は外注なので当然手術開始には間に合いませんが、私の場合は普段の健康診断の時に自分の健康管理のための検査も追加していた関係で、状態がほぼ把握出来ており問題なく手術に臨めました。
患者さんの手術だったら、こんな風に急いで手術するのは避けたいというのがホンネです。
あと、痔瘻の診断のために検査をするかどうか、ですが、当院の場合はほぼやりません。
症状と触診でほとんどのことを診断しています。
複雑痔瘻など、深部で瘻管と括約筋がどうなっているのか情報ほしいときには他の医療機関にMRIを外注することはありますが、私は単純痔瘻でしたから、そういった検査は行いませんでした。
手術直後から帰宅まで
手術が終わったら、オシリにガーゼを当てて固定してもらいます。
局所麻酔ですから自分で立ち上がり、着衣をします。
洋服を着たら診察室まで移動して休憩です。
タオルを腰に巻いてとかじゃなく、完全に洋服を着ます。
当院の場合オシリにガーゼを当てるのは、圧迫して出血を止めるのが目的です。
皆さん、清潔を保つためにガーゼを当てるのだろうと考えるようですが、そうではありません。
そして汚れを受ける目的には女性用の生理用品を使います。ナプキンです。
着衣の際に下着に当てます。
手術後1ヶ月間くらいは分泌が多くガーゼだけでは染み通ってしまいズボンが汚れてしまうのです。
分泌は初めのうちは赤く、数日から2週間くらいかけて段々赤みは薄くなり代わりに黄色〜褐色の薄い液体になり、さらに1ヶ月近く経つとドロッとした膿に近い感じの濃い分泌物になって、最終的に止まります。
分泌が止まったら完全に治ったかな・・という時期ですから、ここまで1〜2ヶ月かかります。
ナプキンを当ててズボンをはいたら歩いて診察室のベッドに移動します。
たまに緊張しすぎてふらふらになる人がいて、そういう人だけは車いすに乗って移動します。
もちろん私は、すたすた歩いて移動しました。
そして、ごろ寝して、約15分〜30分したら、術後の止血チェックをします。
止血が十分ならガーゼをはずして再度ナプキンを当てて帰宅です。
私もそのパターンで帰宅しました。
「麻酔が切れるとものすごい痛みがあるんじゃないんですか?」
と尋ねられることが多いのですが、私たちの患者さんには酷く痛む方ってほとんどおられないです。
もちろん私自身の場合も、無痛ではないのですが、ひどい痛みはありませんでした。
あと、麻酔薬の作用時間には個人差がありますが、私の場合、術後は帰宅まで苦痛を感じませんでした。
人によっては早く切れてしまって、駅で一休みする人もいるようです。
そういう意味では手術当日のご家族の付き添いは心強いですね。
生理用品(ナプキン)のお話
「なんでアンタがナプキンの解説するのさ?」
って言われそうですが、敢えて手術経験者の男性の立場でナプキンに関する説明を少々させていただきます。
理由は、女性からしたら生理用品は日常で常識でも、男はナプキンに関して全くの無知だからです(苦笑)。
しかもそういう話は家族内であっても聞きづらい「タブー領域」なので。
お見苦しいでしょうが、お付き合いください(笑)。
で、男性の皆さん。
「ナプキンって、かぶれるんですよ。」
ご存じでした?
素材とか、当ててる時間、湿度、体質など関連する要素は色々あるようですが、多くの場合ナプキンを当て続けることによって皮膚に細かいキズがつくのです。
人によって製品に対して合う合わないがあって、合わない製品を使うと、皮膚が真っ赤にただれて、酷くなると「びらん」と呼ばれる状態になる人もいます。
ですから、世の中はナプキンの宣伝がこんなにたくさん流れているのですよ。
日常使用する女性にとっては切実な問題ですからね。
当院では以前から男性にも術後はナプキンを当ててもらっています。
以前は私もナプキンかぶれに対する知識がなくて(あたりまえか?)、ごく普通に市販されている、どこででも手に入るようなナプキンを使ってもらっていました。
そうすると知識のない無防備な男性諸氏に、肛門周囲皮膚が真っ赤っか状態になる人が続出し、これはイカンとナプキン探しがはじまりました(笑)。
そうして、現在採用している製品に落ち着いています。
まあ、私が探すわけにはいきませんから、家族の協力を仰いで、ですが。
私が手術を受けた頃は、まだ、今の製品は使っていなかったですね。
現在使っているのは「ナチュラムーン」という製品です。
ご希望の方にはお分けしています。
もちろん女性にもお分けしています。
ご相談ください。
以上、オトコによるオトコのための肛門術後管理におけるナプキンの解説でした。
・・あー、緊張した(笑)。
帰宅してから
患者さんには「家に帰ったらダラダラ休んでね」といつも言っています。
私もその通りに、家にたどり着いたら、早速ごろ寝しました。
子どもがタックルしてきても
「今日はダメだあ、やめてくれえ」
と、白旗、降参しました。
当日の夜は、へとへとに疲れていました。
手術を受けるのって、すごく体力を消耗するんだと思います。
身体の他の部分も緊張しますし、何より手術部位の修復にエネルギーが必要なのでしょう。
で、食事もそこそこに、早々と寝室に行き就寝しました。
入浴はしませんでした。
入院して手術を受ける患者さんと同じように行動してみました。
翌日からは入浴OKなんです(笑)。
私が受けた術式は、当院の標準手順にしたがえば入院で行うべき術式だったのですが、私が日帰りしたのは、言わば役得です(笑)。
というか主治医が家族なので、家の方が安全だったのですが・・
排便のこと
排便は手術を受ける患者さん皆さんの恐怖の的です。
「初回の排便は地獄の苦しみ」と聞かされている方もおられます。
私自身はどうだったか、と言うと「まあ、痛いのは痛かったですよ」という感じでしょうか。
自分が手術した患者さんの反応とよく似た印象です。
これは私の病気が痔瘻だったこと、手術のやり方が切開開放術だったことと関係があると考えています。
切開開放術の術後の痛みは、私の経験では個人差が少ないように思います。
無痛の人もいないけれど、どエラく痛む人もいない、そんなイメージです。
一方、いぼ痔(痔核)や切れ痔(裂肛)の術後は、もうちょっと個人差があるようです。
無痛の方もいるんですが、結構いたがる人もいるような気がします。
さて、排便が怖い方に良く申し上げているアドバイスが、「ちびちび出すと余計痛いから、思いきって『えい!やあ!ドン!』で出しちゃって下さい」というものです。
簡単に言うな!と思うかも知れませんが、結局この方が楽だと思っています。
肛門の中に便が残ると、排便のあと長時間痛みが持続する原因にもなりますので、ちゃんと出すこと、出残った便までちゃんと出すコトが大切です。
そんなわけで、当院が主張している出口の便秘・出残り便秘®の治療を事前に始めておくことが重要になる訳ですね。
出口の便秘と出残り便秘®について(https://osakakoumon.com/ji/benpi/)
寝るときのこと
手術当日、寝るときの姿勢ですが、当院では以前からずっとお勧めしている方法があります。
以下にポイントを記します。
- 全身の力を脱力する
- 仰向けよりも横向きがラクな人が多い
- 横向きなら枕は高いモノ、仰向けなら低めの枕か枕なしがラクな人が多い
ひとつずつ解説してゆきます。
まず、これらのことは「肛門から完全に脱力するため」に行います。
そう、脱力がポイントなのです。
脱力している人は痛みがあったとしても、最小限で済みます。
「肛門がぽかーんと開くまで力を抜いてくださいね、ムリやけど・・(笑)」
といつも説明します。
その為には肛門から脱力しようとするだけでは不十分です。
全身から脱力しないと肛門の力は抜けません。
逆に肛門に力が入ると、キズがこすれて痛みは強くなります。
痛い⇒力が入る⇒さらに痛い⇒さらに力が入る⇒・・・
の無限ループに入ると、脂汗をかきながら我慢することになります。
ちなみに術後、麻酔が切れた後に患者さんと楽しくお話ししていると
「・・先生(笑)、笑わさんといて・・オシリ痛い(泣笑)」
と言われることが良くあります(苦笑)。
二つ目のポイント、仰向けか横向きか、についてです。
仰向けは単純に、肛門に圧迫がかかるために、人によっては痛みがあるようです。
しかし、人によっては仰向けでも横向きでも変わらないようです。
横向き、しかもちょっと膝をずらして、ややうつぶせに近い横向きがラクな人が多いです。
この姿勢は脱力するにも良いようです。
私の場合は、仰向けだとわずかに痛みがありましたので、寝入ったときは横向きで、でも朝起きたら仰向けになってました(笑)。
最後のポイントです。
・・枕でどう違うのかって?
枕の高さで肛門の締まり加減が変わるんです(笑)
寝ているときの首の角度を、その人にとって一番自然な角度にすると肛門も緩むのです。
自分で手術を受けるずっと以前から患者さんにはこのことをお伝えしていたのですが、自分で手術を受けてみてとうとう実験の機会を得ました。
自説の正しさを確信しました(笑)
私は手術当日の晩は、上記のことをきちんと守り、ちゃんと寝ました。
無痛ではありませんでしたが、睡眠を取ることができました。
寝返りを打つときに目が覚めることはありましたが、そのせいで睡眠時間が短くなるようなことはありませんでした。
本当のことを言うと、翌朝目覚めたときに「オレ、ちゃんと寝てた?」と家族に尋ねました(笑)。
だって自分ではちゃんと寝たつもりでも、本当のところ自分の寝ている間の様子はよく分かりませんからね。
本当はうなされていたんじゃないのか?みたいなことです。
家族によると
「ぐうぐうイビキかいて寝てた!」
ということです(笑)。
このシリーズのまとめ記事はこちらです。
痔瘻手術を受けた肛門科医(5)痔瘻治療に取り組んだ話のまとめ(http://osakakoumon.com/column/606/)
大阪肛門科診療所 院長。 平成7年大阪医科大学卒業。大学5年生の在学中に先代の院長であった父が急逝(当時の名称は大阪肛門病院)。大学卒業後は肛門科に特化した研修を受けるため、当時の標準コースであった医局には入局せず、社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。隅越幸男先生、岩垂純一先生、佐原力三郎先生の下で3年間勤務、研修。平成10年、院長不在の大阪肛門病院を任されていた亡父親友の田井陽先生が体調不良となったため社会保険中央総合病院を退職し、大阪肛門病院を継承。平成14年より増田芳夫先生に師事。平成19年組織変更により大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。