痔瘻手術を受けた肛門科医(2)麻酔と手術中のこと
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(2019年8月11日加筆修正)
実は痔で手術を受ける人の気持ちが良く分かる院長の佐々木巌です(笑)。
「なんで分かるんだ?」と思ったアナタ。
そりゃ、経験者だからですよ。
私が痔瘻で手術を受けたから(笑)
手術を受ける患者さんによく言われます。
「院長先生も痔の手術を受けたって知って、すごく嬉しかったです」
気持ちは少々微妙ですが、まあそれはこの際、置いておきます(笑)。
で、そういう方に
「手術のことを教えて欲しい」
とよく言われます。
「・・なるほど。そりゃあ、いいですね。」
幸いなことに、いぼ痔(痔核)、裂肛(切れ痔)の手術は今のところ(?!)受けずに済んでいますが、痔瘻の手術(特に切開開放術について)と治療については語ることができます。
ということで書いてみましょうか。
手術はうつぶせ
私の手術までの経緯は前回の記事をご確認ください。
痔瘻手術を受けた肛門科医(1) 肛門科医が自分自身の痔瘻手術を決心したときのこと(http://osakakoumon.com/column/525/)
で、手術ですが、術者はみのり先生でした。
体位はうつぶせ。
正確にはジャックナイフ位と言います。
肛門科でおこなう手術には主に3種類の体位があります。
仰向け(産婦人科の姿勢)でやるスタイル
横向きでやるスタイル
当院のようにうつぶせでやるスタイル
などがあります。
当院は、手術は基本的にうつぶせです。
私が最初の施設でそう教わったからそうしているのですが、このスタイルの好きなところはふたつ。
ひとつは、患者さんの恥ずかしさが少ないと思うから。
もうひとつは、「慣れ」です。
慣れていてやりやすいのです。
うつぶせのスタイルではそのままの状態だと肛門は両側の臀部に隠れてしまって良く見えません。
そこで臀部にガムテープを貼り付けて左右に引っ張るやり方が一般的で、当院もそのようにしています。
その上から手術部分だけが見えるようにそれ以外の部分を隠すような布(「穴あき覆布」と呼ばれる)をかけて手術の体制のできあがりです。
麻酔のこと
当たり前ですが麻酔をしてから手術をします。
麻酔がないと手術が痛いです。
痛いとオシリが緊張で締まりますから手術になりません。
というわけで、基本的に手術には麻酔が必須です。
痛くないように、手術する場所が十分見えるように、ということをそれぞれ「疼痛の緩和」と「術野の確保」なんて言い方をします。
肛門科の手術では主に腰椎麻酔か局所麻酔が選択されます。
他に仙骨麻酔を選択する先生もいますが、当院では現在行っていません。
腰椎麻酔は、その名の通り腰に注射をする麻酔で、麻酔範囲が広く、筋力の強い男性でも術野の確保がしやすいのが特長ですが、術後は歩けませんから入院が必要です。
一方、局所麻酔は歯医者さんでおなじみの麻酔で、皮膚に注射をして麻酔する方法です。
手術が終わったらすぐ歩けますし、安全性が高い麻酔です。
病院から歩いて帰ることができますから、日帰り手術ではこの麻酔を選択します。
現在、当院ではほとんどのケースで局所麻酔を選択します。
私自身は腰椎麻酔が得意なのですが、最近は安全性を優先し局所麻酔を選択する機会が多くなりました。
みのり先生は元々、局所麻酔のみ行っています。
みのり先生が一人で執刀を担当する手術、つまり私が入室を拒否されたケース(苦笑)では、患者さんは女性と決まっています。
女性の場合男性ほど筋力がなく術野の確保が容易なので、みのり先生は腰椎麻酔を行う必要性が低かったのですね。
さて、男性の手術はできるだけ腰椎麻酔を使って手術します。
しかし私の手術は、執刀医がみのり先生ですから必然的に局所麻酔でした。
スケジュール上、日帰りしないといけませんでしたから、それで良かったのです。
みのり先生は局所麻酔が上手ですから安心してやってもらいました。
術前の検査を受けてから、麻酔が始まります。
はじめは皮膚にチクン、チクンとした表面麻酔の痛みがあります。
約2-3分くらいかな・・
表面麻酔が終わったら、深いところ(筋肉)にも麻酔します。
こっちはちょっとドスンとした重い痛み方で約1分。
痛くないと言えばウソですが、大騒ぎするほど強い痛みじゃないです。
局所麻酔の痛みは針を刺す痛みと、麻酔薬を注入する痛みに分かれます。
針を刺す痛みは針を細くすることと、麻酔の軟膏を塗ることで軽減を試みています。
そして、麻酔薬を注入する痛みは注入スピードをゆっくりすることで軽減を試みています。
ちなみに、私は麻酔の軟膏は使いませんでした。
麻酔が効いてしまうと、普通は痛みはありません。
触っているのが少し分かる人もいます。
また、人によっては肛門の奥の感覚までは無感覚にはできないことがあります。
例えば、肛門の中に指や、器具を入れると圧迫感を感じる人が時々おられます。
女性では生理痛みたいな腹痛とおっしゃる方もおられますが、男の私には理解できません😓
しかし、こう言う感覚は「辛い」ほどに強くはありません。
もしも辛ければ術者に伝えて麻酔を追加してもらわなくてはいけません。
私の場合は、手術開始時点で触っているのも感じず、肛門の中も何も感じませんでした。
・・こんな風にして、麻酔が完了します。
手術がはじまったら、ヒマだった(笑)
さて、局所麻酔が終わったら手術です。
私の痔瘻の手術は切開解放術でした。
局所麻酔が十分効いていたので、私の場合は触っているのも分かりませんでした。
人によっては触っているのが分かる人もいるようです。
またやはり人によっては、肛門の奥の麻酔が効きにくい人もいます。
そうは言っても、奥の方で感じる痛みは鈍痛なので辛くはないレベルとみなさんおっしゃいます。
もしも痛ければ術者に伝えて局所麻酔を追加してもらわなければなりません。
ところで、麻酔は肛門の周囲だけに効いています。
肛門が分からないだけで、臀部(いわゆる「しりっぺた」の部分)の触覚は分かります。
また、意識もありますから、お話しができます。
で、お話ししながら手術が進行して行きます。
これがコワいと感じる方もおられるようです。
現在はセラピードッグのラブが緊張している患者さんをサポートしていますが当時は犬なんておりませんので😓
カチャカチャ音がする中、「今は何をやっているのかな~?」と想像を巡らせながら手術を受けておりました。
いやしかし、待つ身は長いと言いますが、ほんと長いです、手術時間。
受けてみると分かりますな。
「ああ、イヤだなあ。」
「早く終わらないかな。」
「でも、適当に終わられるのは、もっとイヤだな。」
「あとどれくらいだろう?訊きたいなあ。」
「でも、急かしちゃって、適当に終わられたらイヤだな・・」
・・・などと、考えつつ時は過ぎます。
要するに「ヒマ」なのです(笑)
することがないので、つい手術のことを考える。
今から考えたら、手術のことを考えなきゃ良かったのですが、そんなに意志は強くない(苦笑)
もうひとつ言うと、先のこと、例えば「術後の排便は痛いのかなあ・・」とかは、ヒマなくせに考えませんでした。
余裕がなかった気がします。
いえ、これはもしかすると、私が肛門科医で術後の排便の現実をよく知っていて、ウマいやり方を知っていたからだったのかも知れませんが・・
そうこうしているうちにオシリに重苦しい感覚が・・・
はじめは無感覚だったのにときどきズシンとした圧迫感を感じる・・
これって、もしや麻酔の効きがユルくなっているのだろうか?
「ねえ、ちょっとだけ痛いみたい・・」
と言ってみたら、みのり先生は麻酔を追加してくれました。
麻酔の注射は、最初の時みたいな痛みはないみたい?!
いや、注意するとちょっとだけ痛いかな?
それが終わってしまうと、やっぱり圧迫感がない!ラクだ!
なるほど、これが麻酔が切れてくるってヤツなんだ。
と納得しました。
ちなみに、アルコールに強い人(好きかどうかは別)は麻酔の切れるのが早い印象があります。
私も酒飲みなもので、ご多分に漏れずでしたね・・
ううむ。
麻酔を追加しながらですが、手術自体はつつがなく終了。
私はその間、ひたすら無益な思考を繰り替えしていたのでした(笑)。
続きはこちら
痔瘻手術を受けた肛門科医(3)手術翌日と治るまで(https://osakakoumon.com/column/571/)
このシリーズのまとめ記事はこちらです。
痔瘻手術を受けた肛門科医(5)痔瘻治療に取り組んだ話のまとめ(http://osakakoumon.com/column/606/)
大阪肛門科診療所 院長。 平成7年大阪医科大学卒業。大学5年生の在学中に先代の院長であった父が急逝(当時の名称は大阪肛門病院)。大学卒業後は肛門科に特化した研修を受けるため、当時の標準コースであった医局には入局せず、社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。隅越幸男先生、岩垂純一先生、佐原力三郎先生の下で3年間勤務、研修。平成10年、院長不在の大阪肛門病院を任されていた亡父親友の田井陽先生が体調不良となったため社会保険中央総合病院を退職し、大阪肛門病院を継承。平成14年より増田芳夫先生に師事。平成19年組織変更により大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。