痔は手術しないと治らないのか?(手術しても治らないかも?!)
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(2019年7月5日加筆修正)
昨日のブログで「痔は一つの病気ではなく3種類ある」という話を書きました。
読んでいない方は是非そちらの記事を読んでからこの記事を読んで下さい。
さて今日は痔の治療の話です。
これもよくある勘違いなのですが「痔=手術」と思い込んでいる患者さんが本当に多いです。
いや、患者さんだけでなく、もしかして医者もそうなのかもしれません。
当院は自由診療です。
保険が効きません。
だから・・・というワケではないのでしょうがセカンドオピニオンの患者さんが多いです。
その中でも多いのが手術に関する相談。
「痔で手術が必要と言われたんですけど・・・」
というもの。
そのような患者さんには診察前に必ず尋ねます。
「で、あなたはどうしたいんですか?手術を受けたいの?それとも受けたくないの?」
ほとんどの患者さんが
「出来れば受けたくないんです・・・」
と答えます。
そりゃそうです。
手術受けたかったら、当院へ来られないですよね(苦笑)
前の先生の所で受けてるはずです。
この記事の目次
痔の種類によって手術適応が異なる
痔には主に3種類あります。
いぼ痔(痔核・脱肛)、切れ痔(裂肛)、痔瘻(穴痔)の3種類です。
いぼ痔(痔核・脱肛)の場合
いぼ痔(痔核・脱肛)は簡単に言うと「肛門に出来た静脈瘤のようなもの」なので、残念ながら一度出来てしまったモノは無くなりません。
いぼ(痔核)が外に飛び出す状態を「脱肛」と言うのですが、医学的に次の4段階に分類されています。
1度:脱出しない
2度:脱出するが自然に戻る
3度:脱出した痔核は指で押し込まないと入らない
4度:脱出したままで押し込んでも中に入らない
医学的には3度以上の脱肛が手術適応です。
つまり1度や2度であれば医学的にも手術は必要ありません。
なのに手術をすすめられている患者さんが多いです。
専門外の先生だと適切な診断もできないからなのでしょうか・・・
脱出しない痔核は手術の必要はないんです。
何も出てこないのに、何も症状が無いのに手術を受けないで下さいね。
必要のない手術を受けると、肛門が狭くなったりして肛門に支障を来すケースが多いです
受けた手術を後悔して涙を流される患者さんをたくさん診てきたので、どうか受ける前に十分検討し、セカンドオピニオンで他の先生の意見を聞くなど、その場ですぐに決めないで欲しいです。
出来てしまった物体(いぼ痔)を無くしてしまいたい!
という希望があるなら「手術で取り除きましょう」ということになりますが、別に何も困った症状がないのであれば切除せずに持っていてもいいのです。
いぼ痔のせいで死んだりしませんし、いぼ痔のせいで便が出にくいわけでもありません。
ひどくなってから手術を受けても手遅れになりません。
痔はどこまでいっても「良性疾患」なので、緊急性のある手術というのは稀です。
切れ痔(裂肛)の場合
切れ痔(裂肛)は肛門のケガです。
傷が治れば手術は必要ありません。
治らない傷になってしまった場合に手術を考えるのですが、そのようなケースは非常に少ないです。
ケガの手当を早く適切にしてあげれば切れ痔(裂肛)のほとんどは手術なんてしなくても治ってしまいます。
だから切れ痔(裂肛)に関しては早めに受診して治療をしてほしいです。
治療というのは痔の薬ではありません。
切れ痔の原因となった便通を直さなければ、いくら通院して坐薬や注入軟膏をもらっても何度でも繰り返します。
ちゃんと便通を直して下さいね。
切れ痔(裂肛)で手術まで受けたのに、何度も切れ痔(裂肛)を繰り返している患者さんが本当に多いです。
ずっと通院しているにもかかわらず、切れ痔を繰り返すからという理由で手術をすすめられ、既に手術を受けてしまった患者さんもたくさん来られています。
手術をしても切れない肛門になるわけではありません。
出残り便があれば翌日には古くなって固まり、出始めの便が硬くなり、また切れます。
何度でも切れます。
便通を直さずに手術だけ受けても痔は治りません。
痔の根本治療は手術ではなく痔の原因となった便通を直すことなんです。
切れ痔の場合、肛門が狭くなったり巨大な肛門ポリープや見張りイボが出来ていなければ、手術しなくても治ります。
そうなる前に気付いて便通を直して下さいね。
痔瘻(じろう)の場合
痔瘻は肛門の中の小さなくぼみから便が入り込み、感染を起こし、化膿して膿が溜まり、膿の通り道(瘻管)が出来てしまった状態です。
一度出来てしまった道は無くなりません。
ずっと感染を起こして膿がだらだら出続けたり、頻繁に膿が溜まって腫れて痛くなるようであれば日常生活にも支障を来しますが、炎症がおさまって膿も出ない、腫れない、痛みも無い、何も困った事が無い、不便を感じないというのであれば、今スグ直ちに手術をしなければならないという緊急性はありません。
ただし膿がパンパンに溜まってしまって出ない場合だけは今スグ切った方がいいです。
切開排膿して、しっかり膿を出せば痛みも楽になりますし、膿がどんどん広がっていくのを防ぐことにもなります。
だから結論から言えば今スグ切った方が良い痔というのは膿が溜まっている時だけですね。
痔瘻は長期間放置すると、そこから癌が発生することが稀にあるため、痔瘻の治療は一般的に手術と言われています。
私もその意見に反対はありません。
でも手術をいつ受けるのかは患者さんのタイミングでいいと思っています。
無症状で何も困ったことがないなら慌てて今スグ受ける必要はありません。
仕事の休みの都合がついた時や、時間的に余裕があって治療が専念できる時期に受ければいいと思いますよ。
ただし、気付いたらもう何年も経ってた・・・
なんてことにならないよう、1年に1回は症状が無くても肛門を専門にしている先生にお尻チェックだけはしてもらって下さいね。
というわけでして。。。
痔と一言で言っても、色々な痔があって、痔の種類によって随分違うんですよ。
それぞれの痔の病気についての説明は後日、しっかりと書きたいと思っています。
私が書かなくてもネットで調べれば、たくさん痔の解説サイトがあるので必要ないかな・・・と思って書かなかったのですが、ちょっと解釈が違うこともあったり、どこからを痔と扱って、どこまでを正常だと判断するかは医師によって異なるため、いずれ大阪肛門科診療所的 痔の解説を書こうと思います。
それよりも治療のことや対処法のことで困っている人が多いようなので、アメブロの時と同じように、自分にしか出来ない情報発信をしていきたいと思います。
あなたにとって「治る」とはどういうこと?
痔を治したい
痔の治療を受けたい
痔の手術を受けることになっている
長年ずっと痔の薬を使って痔を治している
という人に尋ねたい。
あなたにとって痔が「治る」とはどういう状態になることですか?
そして薬によって手術によって本当に痔は治っていますか?
ここすごく大切なのでよく考えて欲しいのです。
ここをちゃんと明確にしないと、医師の提案する治療と「自分が得たい状態」がずれてしまうことがあるのです。
例えば、
大きないぼ痔(痔核・脱肛)はあるけど、痛みさえ無くなれば、いぼ痔はあっても構わない
という患者さんも実は本当に大勢おられます。
このような患者さんにとって「治る」とは「痛みが無くなる」ことですよね?
決して「いぼ痔(痔核)を取り除く(手術をする)」ということではないのです。
痛みが痔疾薬でおさまって、普段は何も困った事がないのであれば、手術せずに痔を持っていてもいいのです。
逆に、
全く症状が無いけど、いぼ痔を取り除いてキレイな肛門にしたい
という患者さんもおられます。
この場合は「治る」とは「いぼ痔(痔核・脱肛)が無くなること」なので、治療は手術ということになります。
同じ「いぼ痔(痔核・脱肛)」という痔でも、患者さんによって治療方針が違ってくるのです。
つまり患者さんによってゴールが違うんです。
ゴールが違えば当然、それに至る過程(治療)も違うわけで、患者さん一人一人のゴールを確認する必要があるんですよね。
今の肛門医療はゴールを確認せずに治療を医師が決めることが多いように感じます。
教科書的な手術適応で手術をすることは医学的には正解なのかもしれない。
でもその結果、患者さんが幸せなのか?というとそうでもないケースも多く、大阪肛門科診療所では必ず患者さんにゴールを確認してから手術を選択するようにしています。
手術によって患者さんが「なりたい状態」を実現出来るとは限らないからです。
せっかく手術を受けたのに、ちっとも痛みが無くならない
手術を受けたのに切れ痔(裂肛)を繰り返す
など、手術によって患者さんが自分の描くゴールにたどり着けていないケースも多いです。
だから当院では手術は慎重に決めます。
私たちも患者さんも。
手術と言われても別の医師の意見もきいてみる
当院には、たくさんの肛門科を回ってから受診される患者さんも多いです。
同じ肛門なのに医師や施設によって言われることが全く異なるので混乱されている患者さんも多いです。
ある先生からは「絶対に手術!すぐにした方がいい。」と言われたのに別の先生には「大したことないから大丈夫。」と言われるし、「どっちが本当?どっちを信じたらいいの?」という相談もよくあります。
痔の診断や手術かどうかの判断は医師によって本当に様々です。
手術は医師の話のもっていき方一つで増やせるので、正直、手術件数が多い肛門科には注意が必要です。
是非こちらの記事も参考に読んで下さい↓
医学的に痔が「治る」とは「治療が必要なくなること」
私たちが考える「痔が治る」こととは「治療が必要なくなること」です。
よく痔の薬を長年ずっと毎日使い続けている人を見かけますが、健康な肛門に痔の薬は必要ありません。
ただ何となく使っているのであれば中止することをオススメします。
副作用のない薬なんて存在しませんし、実際、様々な副作用を起こしているケースも診てきました。
もしも
薬を使わないとお尻の調子が悪い
痔の軟膏を使わないと痔が悪化する
というのであれば、痔は治ってませんよね?(笑)
ずーっと通院しては大量の痔疾薬をもらって帰っている患者さんも多く見かけますが、治ったら通院は必要ないんですよ。
なぜ通院してるんですか?
治ってないからですよね?
「治る」とは「通院が必要なくなる」ことです。
痔疾薬などの薬も要らない
お尻のことを忘れて生活出来る
そういう状態を私たちは痔が治ったと捉えています。
だから治ったら患者さんは通って来なくなるんです。
頻繁に通院しているのであれば、一度、なぜ?と自分に問いかけてみて下さい。
痔の根本治療は痔の原因となった便通を直すこと
何度も何度も伝えてきましたが痔は排泄の結果です。
その間違った排泄を直さなければ、いくら手術しても注射療法を受けても、高価な痔疾薬を使い続けても何度でも痔を繰り返します。
あなたの周りにも居ませんか?
何度も痔の手術を受けている人
痔の手術を受けたのに、まだ肛門の症状で悩んでいる人
痔が治ると信じ高価な通販の痔疾薬を使い続けている人
なぜ痔になったのか考えて欲しいのです。
何の原因もなく理由もなく肛門は悪くなりません。
痔はあなたが長年、肛門を使ってきた結果、できたものです。
使い方が間違ってませんか?
何が間違っていたのでしょう?
そこを根本的に解決しないと、出来てしまった痔に対する治療だけ行っても、何度でも痔を繰り返します。
私たちは薬も注射療法も手術も「対症療法」だと考えています。
医学書には「手術は根本治療」だと書いてありますが、私たちは手術ですら対症療法だと考えています。
ちょっと変わった肛門科医です(笑)
もしも一般的な治療に疑問を抱いたり、治療に行き詰まりを感じておられるのであれば私たちのブログを参考にしてみてください。
何かヒントが落ちているかもしれません。
大阪肛門科診療所 院長。 平成7年大阪医科大学卒業。大学5年生の在学中に先代の院長であった父が急逝(当時の名称は大阪肛門病院)。大学卒業後は肛門科に特化した研修を受けるため、当時の標準コースであった医局には入局せず、社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。隅越幸男先生、岩垂純一先生、佐原力三郎先生の下で3年間勤務、研修。平成10年、院長不在の大阪肛門病院を任されていた亡父親友の田井陽先生が体調不良となったため社会保険中央総合病院を退職し、大阪肛門病院を継承。平成14年より増田芳夫先生に師事。平成19年組織変更により大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。