妊娠中の嵌頓痔核について
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痛みに弱い院長の佐々木巌です。
私は自分でも痛みに弱いと知っています。
患者さんが痛いのも分かります。
(自分も痔瘻になったしね・苦笑)
今回はメール相談へのお返事ブログです。
タイトルの通り妊娠中に嵌頓痔核を発症してしまったという方からです。
メール本文の中で私が気になったところを強調していますが、後ほどお返事の中でこれに対するコメントを付けます。
本当に辛そうなメールです・・
患者さんからの相談メール
【現在の状況】
里帰り出産のため、東京から北海道に里帰り中。
出産前後問わず、出来るだけ早く手術希望です。
【症状】
かんとん痔核、血栓性外痔核。内痔核あり。
妊娠前から痔の自覚症状があり、
妊娠後、症状がひどくなり、
産科の先生にも相談し、
妊娠後期になって、排尿時に飛び出ることはなぜかなくなり、
先週から産休に入り、実家に里帰りしたのですが、
転院先の産科に時間外でかかったのですが、
昨日の朝イチで、実母に仕事を休んでもらい、
肛門科にかかったのですが、先生や看護師さんがお尻を見た途端「
診察によると、血栓性外痔核と、その周辺の腫れ(
腫れてる部分の一部がやや腐ってきているので、ガーゼを当てて、
その後、帰りの足で、痛み止めをもらいに、
その先生にも、「ひどいな。
外科の先生の戻し方が荒療治で……
それから、痛くて痛くて、じっとしていることもできず、
それから、強力ポステリザンと、局部麻酔ゼリー、
痛みは夜中まで続き、痛み止めも効かず、
翌朝、また病院にかかって、
が、一番恐れていたのは便通です。あれだけ苦労して戻したイボ、
そして今日。
朝一で便通があり、こわごわ出しましたが…
もはや血栓部分以外も触るだけで痛いので、
イボが中にある昨日もそうだったのですが、
締まるたびに、
また、まともに歩くことも座ることもできず、
食事も、立ったままでしかできません……
お腹に赤ちゃんがいるのに、生きてるのが辛いと思ってしまい、
どの病院でも、妊婦だと手術はしてもらえず、
痔はもともとあったので、治るなんて希望が持てません…!
今、パンパンに腫れた、
このお尻とおなかだと、今すぐ北海道から大阪まで伺うことも不可能です……
せめて、出産までに、座って食事したり、立って歩いたり、
こちらのブログは、お守りがわりに毎日読ませていただいてます。
産後、旦那に子供を預けて手術する意思が強くあります。(
卒乳を待たずに、なんらかの処置をうけられないでしょうか?
辛い痛みと、QOLの低下で、不安で地獄の日々です。
どうか、
なにとぞ、よろしくお願いします。
お返事
気になったところ・・だらけですが(苦笑)
ここからお返事を書きますね。
出産前後問わず、出来るだけ早く手術希望です。
→ 受診時の状態によります。
こちらから手術をお勧めすることはありませんが、不可能ではありません。
ただ一時断乳を要すると思いますので、お子さんのために産後1ヶ月位は手術を避けたいです。
妊娠前から痔の自覚症状があり、
→ なるほど、以前から症状はあったのですね。
事前に対処しておけば・・と後悔してしまいがち、後ろ向きになりがちですが、そこはぐっとこらえましょう!今さらそれを言っても始まりません!
妊娠後期になって、排尿時に飛び出ることはなぜかなくなり、その代わり、
排便時に大きく腫れたイボが出て、たまに出血もあり、傷も出来て激痛で、
戻すのに15分程かかるようになってしまいました。
→ 妊娠により肛門のうっ血がきつくなり、排便の時の負担も増大したのでしょう。
キズは単純な裂肛、随伴裂肛、両方の可能性があります。
排尿で脱出しなくなったわけは、推測ですが、排尿により腹圧が減少するようになった、と言うことかも知れません。
その先生にも、「ひどいな。どうしてこうなるまでほっといたんだ」と言われ、
→ そんなこと言われてもねぇ・・一番後悔してるのは本人なのにね。
外科の先生の戻し方が荒療治で……ものすごい勢いと強さで戦う事しばらく、
もはや感覚はなくなってしましたがなんとかぜんぶ中に戻されました。
→ 私は戻すのが辛い場合は中に戻さなくて良いと考えています。
痛みは夜中まで続き、痛み止めも効かず、母を起こして朝方まで体をさすってもらって、ようやく30分程度だけ眠れました。
→ 辛そうだ・・(涙)
朝一で便通があり、こわごわ出しましたが…やはりイボも全部出て、戻すことができなくなりました。もはや血栓部分以外も触るだけで痛いので、局部麻酔のゼリーも使うのが怖く、ポステリザンを塗ってガーゼを当てて保護しています。
→ 戻すのが辛ければ、戻さなくて良いと思います。
局部麻酔のゼリーをもらっているのなら、塗るべきです。
ゴシゴシ塗り込む必要はありません、そっと載せる感じです。
効果のある人は2分程度で痛みがマシになります。
ガーゼは勧めません、サンドペーパーのように擦れて却って痛い人が多いです。
当てるなら脱脂綿をお勧めします。
イボが中にある昨日もそうだったのですが、お尻が締まるたびに痛くて痛くて泣きそうです。
→ 肛門が締まると痛い、は嵌頓痔核の典型的な症状ですね・・
辛いんですよ、これ。
締まるたびに、余計イボへの血流が悪くなってさらに腫れて、症状が一生治らないんじゃと思うと、つらいです。
→ いいえ、少なくとも痛みはいつか治るはずです(笑)。
あと、肛門が締まって血流が悪くなり嵌頓痔核が発症する、という意見には私は反対です。
肛門は痛くて締まるのであって、締まりが強いことは発症にも悪化にもほとんど関係がないと考えてます。
でも、締まれば痛いですよね、これは仕方ないですが。
また、まともに歩くことも座ることもできず、横になっていることしかできません。
食事も、立ったままでしかできません……
→ おっしゃる通りですね。
今はキツいですが、痛みは治るはず。
どの病院でも、妊婦だと手術はしてもらえず、
→ 妊娠中は手術しない方が良い!と思います。普通の対応です。
よくあることだからと内診もしてもらえず、
→ 多分痛がらせたら可愛そうと思う、医者の仏心だと思います。
出産すれば治るよと言われて、まともに取り合ってくれてるのかなと不安になっています。
→ まともに取り合おうにも、経過観察以外に有効な手立てを知らない、というのが本当のところです。
私も妊娠中は「やれることをやって、待つ」が基本だと思います。
その「やれること」の引き出しが多いのが専門家の強みだと思います。
痔はもともとあったので、治るなんて希望が持てません…!死なない病気とはわかっていますが、生きる希望が持てません。
→ 戻さなくて良ければ耐えられる・・と思ってもらえたら嬉しいのですがいかがでしょう?
もちろん、戻さない方がラクならば、という話ですが。
ちなみに、治るといっても元々あった痔がなくなるわけではありませんよね。
これはご理解頂いていると思います。
今、パンパンに腫れた、親指大のイボ三つと血栓を出したままでもっと悪化しないか、
→ 出したままでも、普通は治ります。
時間の経過でピークが過ぎればマシになることが多いです。
無理やりに戻すべきなのか、
→ 戻す行為が無理やり、になるのであれば、無理やりには戻さない方が良いと思います。
戻さなくて良い、ではなく、戻さない方が良いことも多いです。
中に戻した状態と戻さない状態を比べてみて、中に戻している方が辛いようなら、戻さないのが基本だと思います。
痛いまま座ったり歩いたり薬を塗ったりして大丈夫なのか、
→ 長時間同じ姿勢は止めましょう。
痛ければ姿勢を変える、でお願いします。
歩くのはかまわないと思います。
薬の塗り方は前述したとおりです。
特に痛み止めゼリーを塗った方が良いと思います。
ゼリーには嵌頓痔核を治す効果はありませんが、ピークが過ぎるまでの時間稼ぎになります。
今すぐ北海道から大阪まで伺うことも不可能です……
→ そうですよね、難しいと思います。
診察できれば何らかの治療は可能かも知れませんが・・
せめて、出産までに、座って食事したり、立って歩いたり、お尻の痛みだけを気にしないで、もっと赤ちゃんのことを考えてあげる時間を持ちたいんです。
→ お気持ち分かります。
通常痛みにはピークがあり、ピークを過ぎればマシになることが予想されます。
信じて待ちましょう。
産後、旦那に子供を預けて手術する意思が強くあります。(苦しんでる私を見てるので、旦那は今すぐにでも手術を望んでいます)
卒乳を待たずに、なんらかの処置をうけられないでしょうか?
→ 最初に申し上げたとおり、お勧めしたくはありません。
私は、大人の不始末で子供に迷惑かけたらアカン、と思っています。
しかし受診時にも症状が辛く、改善の見込がないのであれば手術も考慮せざるを得ないと思います。
本当に受診される機会があれば、その時に相談しましょう。
過去にも嵌頓痔核に関する記事を書いています
以前にも嵌頓痔核の記事を書いていますので紹介しておきます。
最後になりましたが・・
痛みが早くよくなるよう、祈ります。
この記事が何かの参考になれば幸いです。
どうぞおだいじに。
大阪肛門科診療所 院長。 平成7年大阪医科大学卒業。大学5年生の在学中に先代の院長であった父が急逝(当時の名称は大阪肛門病院)。大学卒業後は肛門科に特化した研修を受けるため、当時の標準コースであった医局には入局せず、社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。隅越幸男先生、岩垂純一先生、佐原力三郎先生の下で3年間勤務、研修。平成10年、院長不在の大阪肛門病院を任されていた亡父親友の田井陽先生が体調不良となったため社会保険中央総合病院を退職し、大阪肛門病院を継承。平成14年より増田芳夫先生に師事。平成19年組織変更により大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。