便秘を治療したら過敏性腸症候群が治った患者さん
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(2019年5月6日加筆修正)
滅多なことではお腹を下さない院長の佐々木巌です。
先日来られた患者さんがおっしゃいました。
「出残り便秘の治療だけで、過敏性腸症候群の症状は全く出ていません。快適です。
朝のうちに完全に排便をしてしまえば、以前のように日中に辛い思いをすることは皆無です。」
この方が初めて来られたのは今から数年前のことでした。
出残り便秘・鈍感便秘の診断で治療を開始し、現在もそのまま治療を継続しておられます。
ちなみに当時は、出残り便秘・鈍感便秘のことを直腸性便秘と呼んでいました。
出残り便秘の治療をしたら、過敏性腸症候群の症状がなくなってしまったのです。
実は当院ではそういう方をたくさん経験しています。
典型的な状況を、架空の患者さんAさんとして以下に描いてみたいと思います。
過敏性腸症候群ではなく出残り便秘だった、典型的な一例
Aさんは50代の男性。
数日前に突如肛門にでっぱりと痛みが出現しました。
肛門科受診ははじめてなので、ネットで病院をさがしたところ、ブログに「手術を避ける技術を大切にしている」を書いてあるのを見て、自由診療で高額と知りつつ大阪肛門科診療所に受診を決めました。
診察の結果、腫れているモノは血栓性外痔核で、手術しなくても治ることが分かりまずはひと安心。
血栓性外痔核についてはこちら
「手術しなくても治る痔、消えて無くなる痔、おしりの血豆「血栓性外痔核」
「じゃあ痔の薬で治療するのかな?」と思いましたが、大阪肛門科診療所の提案は痔の薬ではありませんでした。
「肛門の便秘(=出残り便秘)があるから、そっちを治療する方が血栓の治りは良いと思います。」
そんな風にして、出残り便秘の治療をすることになりました。
実はAさんは以前から過敏性腸症候群の診断をよその病院で受けていて、薬を飲んでいました。
症状は朝に排便があるにもかかわらず、日中にも頻回に排便があり、そのたびにひどい腹痛が起きる、というものでした。
じゃあ下痢なのかというとそうとも言い切れない軟便くらいの便で、しかも時々便秘もするという状況でした。
前の病院で出されていた薬は緩下剤でした。
飲んではいましたが効果はあまり感じられず、しかし便秘も怖いので止めずに続けていました。
Aさんは今回起きた痔の症状が、腹痛と関係があるとは思っていませんでした。
大阪肛門科診療所で診察を受けてから排便指導に従って毎朝、ただ排便するだけでなく「出し切る」ようにして2週間過ごしてみました。
前から飲んでいた緩下剤はそのまま継続しました。
指導に従って出し切るようにしてみると、朝の排便が終わったら、以前のような腹痛・排便で悩まされることがなくなってしまったのです。
ところが、たまには指導通りにできない日もあり、そんな日は以前と同様の排便になります。
つまり便が完全に出し切れずに残った状態になったわけですが、そんなときにはきっちりやっぱり以前と同じ症状、つまり日中に何回かの腹痛と排便がありました。
毎朝の排便は、水っぽいとまではいかないまでもかなりの軟便になりましたので、前の病院で出ていた緩下剤は飲まなくなりました。
しかし不便はありませんでした。
2週間後の受診のとき、血栓性外痔核は予想されたとおりにずっとマシになっていました。
それはそれで良かったのですが、Aさんは自分自身にとってもっと重要なことを尋ねてみました。
「・・この排便指導は、過敏性腸症候群に効くのですか?」
「いいえ、おそらくは本来は肛門の便秘(=出残り便秘)なのに、それを誤って過敏性腸症候群と診断されただけだと思います。」
「でもネットで調べても私と同じような症状の人はみんな過敏性腸症候群ってことになってますよね?」
「ええ、そうですね。みんな肛門の便秘なんて知らないんじゃないですかね。」
「知らないって・・そんなこと、あるんですか?」
「ありますよー。だって標準治療じゃないですから。」
・・・
出残り便秘についてはこちら
便秘と下痢を繰り返している・・・というケースの背景には一定の割合で出残り便秘があるのかもしれませんね。
要するに「腸の問題」ではなく「出口(肛門)の問題」なのに、腸に効く薬を飲むから効かないですし、かえって症状が悪化するケースもあるのです。
補足
こんな風に、出残り便秘の治療をすると、過敏性腸症候群の診断を受けていた人の症状が軽くなってしまうことがあります。
全く症状がなくなってしまう人もいます。
冒頭の患者さんも、症状が完全になくなったわけです。
この患者さんは
「世の中の過敏性腸症候群の人は、この治療で全員治るんじゃないですか?」
とほめてくださいました。
それくらい衝撃だったようです(笑)
しかし、もちろん、出残り便秘の治療が無効の人もいます。
そんな人は、本当の過敏性腸症候群ということなのでしょう。
さいごに
過敏性腸症候群を診断治療している先生達が出残り便秘の考え方を理解してくださると、救われる患者さんがもっと増えるんじゃないかなあ、と思っています。
でも出残り便秘の考え方は主流ではありません。
どちらかというと(むしろ、明らかに?笑)異端、と言って差し支えないのかも知れません。
そんな本当かどうか分からない見聞きしただけの話を、自分で咀嚼して実践して観察するヒマは今のお医者さんたちにはないですよ、忙しすぎて。
結果として医者が現場で実践出来るのは、教科書に書いていることくらいです。
そして、残念なことに教科書に載ることって、絶対確実なこととか、有力者の意見くらいなのです。
以前にも書きましたが、保険診療の施設は標準治療を行うのが仕事なので、こういう治療は難しいかも知れません・・
あと、先ほど書いたように、人によっては全然効かない人もいます。
当院では出残り便秘を併発している過敏性腸症候群の方には治療を試みていますが、本当の過敏性腸症候群患者さんの中には、出残り便秘の治療によって、却って腹痛が酷くなる人もいるかも知れません。
誰でも彼でも試せるわけではないと思います。
大阪肛門科診療所 院長。 平成7年大阪医科大学卒業。大学5年生の在学中に先代の院長であった父が急逝(当時の名称は大阪肛門病院)。大学卒業後は肛門科に特化した研修を受けるため、当時の標準コースであった医局には入局せず、社会保険中央総合病院(現 東京山手メディカルセンター)大腸肛門病センターに勤務。隅越幸男先生、岩垂純一先生、佐原力三郎先生の下で3年間勤務、研修。平成10年、院長不在の大阪肛門病院を任されていた亡父親友の田井陽先生が体調不良となったため社会保険中央総合病院を退職し、大阪肛門病院を継承。平成14年より増田芳夫先生に師事。平成19年組織変更により大阪肛門科診療所と改称し、現在に至る。