痔を放置すると癌になるのか?

 

(2019年5月10日加筆修正)

当院は自由診療です。
保険が効きません。

だからまずは保険の効く近所の肛門科(決して専門とは限らない)を受診して、何か疑問に感じたら、治らなければ受診しよう・・・と、セカンドオピニオンで、あるいは何軒も受診してから最後の砦だと思って来られる患者さんが多いです。

特に遠方の患者さんほどそうです。

最近、新規患者さんの遠方率が5割を超えてきました。

最近来られる遠方の患者さんは地元で、ちゃんと専門の先生にかかっておられるケースも多く、ある意味、安心して診察出来ることが多いのですが、むしろ専門外の先生にかかっているのは関西圏の患者さんに多いです😓

大阪のあるクリニックからセカンドオピニオンで受診される患者さんを診察して驚いたことがあります。

それは

痔を放置すると癌になるから早く治療した方がいいと、注射療法や手術を勧められていたことでした。

痔瘻は長年放置すると、まれに痔瘻癌になることがあるのですが、いぼ痔(痔核・脱肛)切れ痔(裂肛)は、どこまでいっても痔です。

癌になる、癌に変わることはありません。

(本当にごくごく稀に、痔から癌が発生することはあるかもしれませんが、切れ痔(裂肛)やいぼ痔(痔核・脱肛)が癌に変化することは報告がないです💦)

専門外の先生だから仕方ないのかも知れませんが、「肛門科」と書いてあっても、大腸肛門病専門医であっても、本当の意味での肛門専門でないこともあるので、ちゃんと調べて受診して下さいね。

詳しくはこの記事を読んで下さい↓

日本の肛門科の歴史と現状〜専門の医師を見分ける〜

「癌」という言葉で不安を煽るような内容には注意!

患者さんに見せてもらった資料には以下のように書かれていました。

そのまま放っておくと・・・

出血・痛み・かゆみ・腫れ・違和感・不快感・便秘・下痢・・・・

恥ずかしくて我慢して放っておくと、慢性的な痛みや出血してしまう恐れがあり、あらゆる疾患を引き起こしてしまう可能性があります。

我慢して放置してしまうと、癌(がん)の可能性があり大変危険です。

痔の症状が現れたらすぐに適切な治療が必要です。

痔瘻についての説明ではなく、痔の一般的な説明で「癌の可能性がある」と記載されているので、患者さんが読めば、いぼ痔(痔核・脱肛)を放置したら癌になる切れ痔(裂肛)が悪化すると癌化する、と勘違いしてしまうのも無理ないと思いました。

専門的な立場から、この表現を読み解くと、まず痔の種類が何であるのかで出てくる症状も違いますし、痔を放置したから「あらゆる疾患」を引き起こすわけでもなく、(そもそも「あらゆる疾患」って何?)なぜそこから「癌の可能性がある」という表現になるのか、全くもって医学的な根拠が示されていません。

これは医療機関ウエブサイトの広告規制にも抵触する内容だと思います。

医療機関ホームページガイドラインによると

科学的な根拠が乏しい情報であるにもかかわらず、国民・患者の不安を過度にあおるなどして不当に誘引することは、厳に慎むべき行為であり、そうした内容については、ホームページに掲載すべきでないこと。

(例)「こんな症状が出ていれば命に関わりますので、今すぐ受診ください」

と例文付きで記載されています。

100歩譲って「癌を心配して受診する」のは良いでしょう。

でも「癌を懸念して手術する、注射療法を受ける」のは肛門科的に間違っています。

どうか不安に煽られてその場で注射療法や手術を決めず、一旦家に持ち帰って冷静になって考えて下さいね。

癌という言葉で心配になり、夜も眠れず、私の外来に来られるまで不安で死にそうだったと涙を流された患者さんも多いです。

どうか誤ったあいまいな情報に振り回されず、一人の医師だけで決めず、何軒か受診して比べて下さいね。

癌を心配しなければならない痔は「痔瘻」だけ

痔は一つの疾患ではありません。
痔には主に3種類あるのはご存知ですね?

いぼ痔(痔核・脱肛)
切れ痔(裂肛)
痔瘻

の3つです。

この中で放置すると癌になる可能性があるのは痔瘻だけです。

それも何年以上放置したら癌になるのか、正確な基準はありません。

だから痔瘻を手術せずに放置する場合は必ず1年に1回は肛門を専門にしている医師にチェックしてもらいましょう。

炎症を繰り返した組織から癌細胞が発生しやすいので、痔瘻でも、全く膿も出ない、腫れない、触ると少し分かる・・・という落ち着いた状態の痔瘻の人は長年外来でフォローしていますが、10年以上経っても癌になっていません。

ご本人も何も肛門に困った症状がないため手術の必要性を感じず、手術をせずに年に1回、お尻検診に来られていますが、そこは自己責任で様子をみてもらっています。

治療するのか
治療するとしたらいつするのか
どんな治療をするのか

それも全て患者さんに考えて選んでもらっています。

自分のお尻のことなので自分でちゃんと責任を持って欲しいからです。

痔に限らずですが、医学の専門的なことが分からないから「全部先生にお任せ」という人がいますが、当院では全部患者さんに決めてもらっています。

たとえ医学的に手術が必要であったとしても。

それが自分のカラダに責任を持つということであり、その方が治療がうまくいくからです。

私たちは治療のお手伝いをするだけ。
治療をするのは患者さん自身。

そういう考え方で患者さんと共同作業をやっています。

だから患者さんが行動に移してくれなければ治療は成り立たないのです。

行動に移すかどうかも患者さんが選ぶこと。
私たちが強制することは出来ません。

だから覚悟を決めた人だけに来て欲しいと思っています。

「癌」でも手術しない人がいるのに良性疾患の「痔」で手術?

最近、癌の治療中の患者さんも時々来られます。

癌の種類は色々です。

女性だと乳癌が多いですね。

昔は癌というと手術治療を受けるのが当たり前でした。

ですが最近は手術を受けるかどうかも患者さんが選択することが増えているようですね。

そして手術をしないという選択をして癌とうまく付き合っている患者さんに出会うことも増えてきました。

癌治療も多様性の時代みたいです。

なのに・・・良性疾患であるはずの「痔」だけは相も変わらず「手術」や「注射療法」が当たり前という状況に私は時代遅れを感じざるを得ません😓

痔は放置しても死にません。
癌以上に、うまく付き合うことが出来るはずなのに、手術率・注射率の高さに驚きを禁じ得ません。

そして悲しいことに、手術しても、ALTA療法を受けても、痔の原因となった便通や排泄を直さなければ痔は繰り返されるため、何度も痔になっている患者さんが多いです。

そういうケースが増えると「痔は手術しても治らない」という誤った巷情報が流布してしまうことにもなりかねず、医学的・科学的根拠の乏しい高額な民間療法に走る患者さんを生み出してしまうのでしょう。

実際に民間療法に何百万、何千万円とつぎ込んできたけど、10年たっても20年たっても痔は無くならず、それどころかどんどん増大してきた・・・と言われて私の外来に来られる患者さんも後を絶ちません。

中には痔ではなく肛門癌皮膚癌だったという悲しいケースもあり、悔やんでも悔やみきれません。

手術や注射療法メインの肛門医療が便通改善を中心とした保存治療にシフトする時代が来ればいいのにと心の底から願っています。

もしそれが保険診療で実現して、適切な排泄管理と痔治療が出来るようになったら、私たちの仕事は無くなります。

わざわざ私たちの所に来なくても他のクリニックでも治療出来るようになるからです。

当院の使命も無くなるか変わってくることでしょう。

それでいいと思っています。

医療は患者さんの役に立ってなんぼ患者さんの困っていることを解決することが目的なので、それが日本全国どこの肛門科に行っても保険で実現出来るようになったら、私たちの施設の役割は終わります。

潔く100年以上続いた歴史に幕を下ろそうと思っています。

その時に当院でしか提供出来ないことがあり、患者さんから必要とされるのであればこの先100年続くでしょう。

 

子供が2人とも医学部に入学しました。

親としての私たちの役割は半分終わりました。

2人が何を学び、どんなことに興味を持ち、何をやりたいと思うかは本人達次第です。

「病院を継げ」なんて一言も言いません。

大切なことは診療所を残すことではなく、私たちの肛門病学を後世に残すことなので、それが広く日本の肛門科において叶うのであれば、個人的にこの施設を残す意味はありません。

私たちが築いてきた肛門診療と師匠から受け継いだ技術を伝える仕事をそろそろ始めたいと思います。

それが出来ない場合には、もしも子供のどちらかが継ぐと言ってくれるのであれば、この施設を残して伝えていこうと思います。

そして痔や肛門のトラブルで悩める人に排泄を直す大切さを伝えたいです。


診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
手前の右側がラブです🐶
他のワンコにちょっかいかけられても
ちゃんと指示に従います✌

 

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