痔の早期手術の危険性 〜手術は痔の予防にはならない〜
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なんにでもすぐに熱くなってしまう佐々木みのりです。
先月、超大手の週刊誌から広告のお誘いが来ました。
この手のお誘い、うちの診療所だけじゃなく他の先生の所にも行っているようで、本当に多いんですよ。
(本当に肛門専門でやってる先生の多くは広告出してませんけどね・・・)
いつもならスルーしてゴミ箱行きなのですが、私の眼が釘付けになりました。
そのタイトルが「痔の早期手術の重要性」だったんです。
これは危険!
こんな報道、やめてほしい
危機感を持ちました。
ネットで蔓延る陰謀論は私もにわかには信じられないのですが、今回ばかりは誰の陰謀だ?って思いましたよ(苦笑)
この記事で誰が利益を得るのか?
ということまで考えてしまいましたね。
とてもじゃないですが、真面目に肛門科をやっている医師は何も得しません。
なぜなら痔で手術が必要な症例って本当に少ないですから。
何度も言っていますが、痔の多くは手術をせずに治ります。
こんな記事が出たら必要の無い手術を受ける患者さんが続出してしまう。
そして手術の後遺症で悩む人がまた増えてしまう。
これではいかん!
と思い、院長に鼻息荒く相談しました。
ブログで情報発信しようよ
どっちが記事を書く?
出版を控えている私の多忙を察し、院長が書くと言ってくれたので任せました。
その週刊誌が発売される頃に記事をぶつけようと計画して書いてもらいました。
その記事がコチラ↓
週刊誌を読んで、そこに広告を出しているクリニックを受診してしまった患者さんを救うことは出来ないけれど、多くの人がネットで検索して調べるはず。
そう信じてタイトルも考えました。
どうか一人でも多くの患者さんの目にとまりますように・・・。
そして私からも伝えたいので今回の記事を書きました。
この記事の目次
痔の早期手術は後遺症を作ることがある
そもそも痔にも色々な種類があるので、いぼ痔(痔核・脱肛)なのか、切れ痔(裂肛)なのか、痔瘻なのかで、話が違ってくるのですが、私が特に問題視しているのはいぼ痔(痔核・脱肛)の早期手術です。
なぜならいぼ痔(痔核・脱肛)は元々は正常な組織だからです。
それが過剰に大きくなって出血するようになったり、腫れて痛くなったり、脱肛するようになり不便を感じたり、何か症状があるのであればいいですが、無症状のいぼ痔(痔核・脱肛)は早期手術は危険です。
正常なクッション部分を切除することによって、かえって肛門のしまりがゆるくなって漏れるような感覚になったり、取り過ぎたために肛門が狭くなって便が出しにくくなることがあるからです。
悲惨な痔の手術の後遺症を診てきた私としては、ここは声を大にして言いたい。
早期手術は受けないで!
切りすぎた肛門は元に戻せません。
後悔したって遅いんです。
排泄で一生使う大切な場所です。
どうかよく考えてから手術を受けるかどうか決めて欲しい。
実は「みのり先生の診察室」というAmebaブログでも警鐘を鳴らすために「必要のない手術を受けた人の後遺症」という記事を書きました。
この記事は「バズった」記事で、記事単独で1日3万アクセスを超えました。
最も読んで欲しかった記事だったので嬉しかったですね。
いぼ痔(痔核・脱肛)の早期手術による後遺症とは
多分、最も早期手術しやすいのがいぼ痔(痔核・脱肛)だと思います。
患者さんは肛門の中は自分で見ることが出来ませんから、医者から「中にイボがありますよ。今は症状がなくても放っておくとえらいことになりますよ。早めに切っておくと安心して過ごせますよ。」と説明されたら、誰でもビックリしますよね。
中には小さいうちに見つけてくれた医者に感謝している人もいるかもしれません。
ひどくなる前に・・・
安心して出産に臨めるように
と思って受けたいぼ痔(痔核・脱肛)の早期手術。
何も影響が無ければいいんです。
手術前と何も変わってなければいいんです。
でも・・・
手術後から以下のような症状が出て来て苦しんでいる人が私の外来にたくさん来られています。
それを知って下さい。
知った上で決めて下さい。
負の情報を何も知らされずに受けてしまっては後悔しか生みませんから。
1.肛門狭窄
必要の無い手術を受けると過剰に肛門を切り取ることになるので、その後遺症で肛門が狭くなることが多いです。
狭くなると以下のような症状が出て来ます。(以下、すべて受診された患者さんの生の声です)
・便が出しにくい、出にくい
・便が細くなった、細い便しか出ない
・ちょっとしたことで肛門が切れやすくなった
・便を出す時に痛い、血が出る
・そこまで便が来てるのに、いきんでもなかなか出にくい
・下剤を飲んで便を柔らかくしないと出せない
・普通便でも切れる
・肛門にツッパリ感がある
・ヤンキー座りをすると肛門が裂ける
2.粘膜脱
これは手術直後ではなく手術を受けてから数年、あるいは数十年経ってから出てくることもある病態です。
だから手術の後遺症だと気付いていない患者さんもおられるのですが、私たちが診察したら一目瞭然で分かる後遺症の一つです。
肛門は外側は皮膚、奥は粘膜という二つの全く違う世界をつなぐ微妙な組織を持った部位です。
入口と出口は非常に似ていて、肛門を入口で例えるならば「唇(くちびる)」のようなものです。
口の中は粘膜ですが外には皮膚がありますよね。
でも唇って皮膚と粘膜の境目で、唇のない口って考えられないでしょう?
肛門もそれと同じ。
全部切り取ってしまうと「唇のない口」のようなお尻になってしまうんです。
肛門の中を肛門管というのですが、この「筒」、とっても大切。
奥の直腸粘膜が外に飛び出さないようにしてくれているんですよ。
これをいぼ痔(痔核・脱肛)の手術で全部切り取ってしまうと・・・どうなるか想像つきますよね?
そう。
奥の粘膜が出てくるんです。
「赤い粘膜が出てくる」
「赤い肉の塊のようなものが出て来る」
と患者さんがよく表現する粘膜脱。
症状が軽いうちはトイレでいきんだ時だけ出てくるのですが、ひどくなってくると常に飛び出している状態になります。
出ているものは粘膜なので当然、粘液でベタベタしたり、擦れて出血したりするんです。
こうなると粘膜脱を手術するしか治療方法がなく、痔の早期手術をしたせいで将来、本当に手術が必要な状態を作ってしまったという皮肉な結果となります。
早期手術で予防のはずが、早期手術のせいで手術が必要なお尻を作ってしまったんです。
3,便漏れ・便失禁
滅多にないことですが、全くの専門外の医師に手術を受けたケースで、未だに見ることがあります。
肛門括約筋をバッサリと切ってしまって、肛門のしまりがゆるくなっていたり無くなってしまっているケース。
括約筋が切断されることによって肛門の変形も見られることも多く、最近でも「鍵穴変形」の患者さんを数人経験しています。
どうしたらこんな風になるのか、専門の医師なら頭をかしげることでしょう。
なぜなら「いぼ痔(痔核・脱肛)」の手術は「いぼ痔(痔核・脱肛)」という「デキモノ(物体)」を切除するだけで、筋肉まで深くえぐるような手術ではありません。
筋肉は切らずにすむはずの手術です。
肛門の解剖を分かってない、或いは全く痔の手術経験がない医師によるものとしか思えませんでしたが、中には専門医かどうか調べて名簿に名前が掲載されていたから受診したという患者さんもおられました。
もちろん私たちから見れば肛門科のドクターではないことは一目瞭然なのですが、患者さんには分かりにくい学会の専門医表記に問題があるのも事実。
日本大腸肛門病学会が認定する「大腸肛門病専門医」には内科、外科、肛門科の3種類のドクターがいて、どの専門領域かは患者さんからは分かりません。
学会に分かるように表記してはどうかと提言した肛門科のドクターもおられるのですが、学会からは断られたそうです。
開業するときに全部診られるので便利だという理由だそうですが・・・。
このような肛門括約筋をバッサリ切ってしまうケースは肛門を専門にしている医師では絶対にあり得ないと断言してもいいくらいです。
実際に専門の先生の術後で括約筋をバッサリ切っているケースは20年間で一例も診たことがありません。
だから痔は専門にかかって!と声を大にして言いたい。
よく調べれば分かりますから・・・。
ジオン注射(ALTA療法)後のトラブル
ジオン注射は痔核(いぼ痔)に対する注射療法です。
痔を切らずに注射で簡単に治せます!
苦痛もなく日帰りで!
ひどくなる前に注射で予防
などと派手に宣伝され、まるで最先端の優れた痔核治療のような表現の仕方をしているのをよく見かけます。
でもその裏側で、注射後の肛門のトラブルや不定愁訴で困っている患者さんもおられます。
ジオン注射は簡単に言うと痔核を固めてケロイドのようにしてしまうものです。
注射を打つ部位や量によっても効果の現れ方が違って、専門の先生は、そこの「さじ加減」がとても上手です。
だから注射後のトラブルで私の外来に来られている患者さんは、ほぼ全員が専門外の医師による治療を受けた人です。
くれぐれもジオン注射そのものが完全に悪いとか、それをやっている先生全員が悪いわけではないことを念頭に置いた上で読んで下さいね。
私が経験した注射後の不定愁訴には次のようなものがありました。
・排便困難
ジオン注射を受けてから便が出しにくくなった、出にくくなったという人が多いです。
中には排便困難で、排便に8時間かかると涙ながらに受診された患者さんもおられました。
そして大切なことは、注射前は一切、何もそのような症状が無かったという点です。
このようなケースは肛門に指を入れて診察をすると、肛門全体が硬い筒のようになっているケースが多く、中には直腸にまでそれが及んでいる重症例もありました。
肛門の伸縮性が失われると便を排出しにくくなります。
トイレに時間がかかるようになると生活が一変します。
そして人生まで暗くなってしまいます。
だから「たかが排泄。されど排泄。」なんです。
・肛門痛
どれくらいの頻度で肛門痛が出現しているのか、私はジオン注射をやっていないので統計的なことは分かりませんが、ジオン注射後の肛門痛は結構多いという印象です。
そして大切なことは、ジオン注射を受ける前は肛門に痛みを感じることなど、全くなかった・・・という点です。
その痛みも排便時ではなく、排便に関係なく起こることも多く、そうなると1日中肛門の痛みを感じながら、人によってはこらえながら生活することになります。
中にはロキソニンやボルタレンなど痛み止めを飲みながら生活している患者さんもおられます。
痛みを感じるケースは指で診察するとジオン注射を打った部位に硬結(しこり)を触れることが多く、触診でそこを触ると痛いと言われます。
コリッとした硬いしこりです。
それは「痔核(いぼ痔)を固めてケロイド状にする」という注射療法が狙った結果なので、ある意味、ちゃんと効果が得られている証拠なのかもしれません。
でもそのせいで痛みが生じて生活が苦痛になるくらいなら、いぼ痔のままのほうが良かった・・・と後悔されている患者さんもどれだけ多いことか。。。
特に注射療法は早期発見・早期治療という流れになりやすいだけに、後遺症を生みやすいとも言えます。
そもそも「内痔核」なのか「無い痔核」なのか、いぼ痔(痔核・脱肛)はグレーゾーンが多い疾患ですからね(苦笑)。
・便漏れ
意外と知られていない後遺症かもしれません。
重症のケースになると思います。
ジオン注射で硬くなって伸び縮みしない筒のようになってしまった肛門は便のこらえも効きにくくなります。
行きたくなったら待ったなし
いつもちょっと漏れてしまう
と言われることが多いですが、本当に酷いケースは「垂れ流し」でした。。。
肛門のパッキンとして働いている正常なクッション部分を注射で固めてしまうと、肛門括約筋を切断したわけでもないのに、肛門の穴はゆるくないのに便が漏れちゃうんですね。。。
・直腸膣瘻
難しい病名ですが「ちょくちょうちつろう」と読みます。
簡単に言うと直腸と膣が繋がってしまって、腟のほうからオナラや便が出てくるようになってしまうんです。
男性に膣はありませんので女性のみに見られる症状です。
痔核(いぼ痔)に注入された注射液が直腸にまで広がり、直腸に深い潰瘍を形成したケースに見られました。
軽症例だと自然に治りますが、重症になると手術が必要です。
私が経験したのは3例なので、頻度としてはそんなに高くないと思います。
でも患者さんの苦痛は想像を絶するものがありました。
いぼ痔に打った注射のせいで、こんなことになるなんて・・・
と涙を流されていた患者さんのことを今でも忘れたことはありません。
・違和感
よく見られる比較的軽い症状です。
「なんか、おしりが気持ち悪い」
と漠然とした違和感を訴える患者さんもいれば、
「右側のこの部分が気持ち悪いんです」
と具体的な部位を自覚されている患者さんもおられます。
触ると違和感を感じている部位にジオン注射による硬結が見られます。
その硬結の大きさは関係がないようです。
小さな硬結(しこり)なのに強い違和感を訴える患者さんもおられますし、大きな硬結があるのに無症状という患者さんもいます。
違和感くらいなら・・・と思う方もおられるかもしれませんが、その違和感が四六時中続くと、おしりのことが1日中気になり、肛門ノイローゼになってしまうこともあり、生活の質を落とし、人生に暗い影を落としてしまいます。
生活の質をあげるために受けたはずだったジオン注射。
その注射のせいで逆の結果になってしまうと本末転倒です。
ヘタすると手術のトラブルよりもひどいので手術よりも安全だから・・・と安易に注射を受けない慎重な姿勢も必要です。
その一因は専門外の医師が行うことが多いということにあると私は考えています。
なぜなら、ちゃんと専門にしている医師による重篤なトラブルは診たことがないからです。
2日間の講習さえ受ければ誰でも使える注射。
最近では肛門の診察なんて普段やっていない婦人科や乳腺外科、内科の先生がジオン注射を始めるケースも目立っています。
注射だから・・・と軽い気持ちで受けずに、ちゃんと先生を選んで受けて欲しいものです。
後遺症の治療は?
昔は手術で治すことが多かったですが、最近ではもっぱら便通管理です。
便通を治すだけで症状が改善するケースも多いです。
ただし肛門括約筋を切断されて、しまりがなくなってしまった肛門は元に戻すことは出来ません。。。
肛門の変形もしかりです。
本当にひどいケースでは肛門形成術をすることもありますが、完全に元に戻すことは不可能です。
無いものはどうしようもできないです(涙)。
手術のせいで手術が必要
というと本当におかしな話なんですが、「やり直しの手術」でしか救えない肛門もありますし、その手術は非常に難しく高度な技術と経験が必要となります。
一番私たちが困るのがジオン注射後のトラブルです。
今まで無かった新しい治療法なので、私たちにも経験がありません。
硬くなったケロイド部分を取り除いてしまうと肛門が無くなってしまいますから、それも出来ない。
幸い、便通を治せば症状が改善するケースが多いので、まだ救われていますが、救いようのない症例もありました(涙)。
痔の早期治療は便通を治すこと
ブログで何度も書いていますが、痔の根本治療は痔の原因となった便通を直すことです。
手術も注射療法も痔の薬も、全て対症療法だと思っています。
痔をどんな方法で治したって、痔を作った原因である排泄を直さなければ何度でも同じ結果が生まれます。
痔は排泄の結果です。
肛門に負担をかけている間違った排泄や生活を根本的に変えなければ、何度でも肛門は故障しますよね。
いくら修理しても使い方が悪ければまた故障するんです。
手術しなければならないくらい痔がひどくなる前に早期治療するなら、手術ではなく便通を直すことから始めてみませんか?
ちゃんと便を出したら肛門は見違えるくらい変化します。
そこをせずして本当の完治はありえない、私たちはそう考えて、痔がひどい人も、痔が軽い人も関係なく、まずは便通管理から入ります。
それだけで痔が良くなってしまうことを本当にたくさん経験しています。
早期手術を受けないで便通を直してみて下さい。
それがおしりにとっても、おしりの持ち主にとっても一番やさしいやり方ではないでしょうか。
診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
先生の指示に従って待つトレーニング中♪
1分以上待てます✌🏻
セラピー犬は肛門診療に非常に役立っています。
大切なスタッフです。
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。