「切らない治療」という甘い言葉の罠

(2018年10月15日加筆修正)

最近、気持ちにカラダが付いて行かず困っている大阪肛門科診療所 肛門科女医で専門医・指導医の佐々木みのりです。

今日は、よくある患者さんの勘違いについてのお話しです。

手術件数を誇る医師や医療機関が多い一方で、患者さんサイドにとっては「手術を受けたい」わけではなく「痔を治したい」だけなので、それが手術せずして叶うのであれば、出来れば手術なんて受けたくないというのが本音のようです。

そういう患者さんの心理を巧みに利用したキャッチフレーズがあちこちで見られます。

それが今日のブログのタイトル「切らない痔治療」という言葉です。

この「切らない」という言葉の意味が、医療サイドと患者サイドで全く違うようで、他院で「切らない治療」を受けられた患者さんが私の外来に来られて

「宣伝に騙された!」

「切らないっていう説明だったのに傷があるんです!」

「切らないって言ってたのに痛いのはどういうこと?!」

と苦情(悲鳴?)に似たことを言われるので、これはちゃんと説明しなければならないと思い立ち、記事にすることにしました。

私が患者さんから言われて調べた結果、「切らない治療」には以下の4つがありました。

1.ALTA療法(ジオン注射・注射療法)
2.ゴム輪結紮
3.分離結紮
4.シートン法

この中で大阪肛門科診療所でやっているのは分離結紮とシートン法、ごくまれに入院手術でゴム輪結紮を併用することがあるくらいなので、実体験に基づいたことをALTA療法(ジオン注射・注射療法)については書けませんが、ジオン注射後の肛門のトラブルで悩んでいる患者さんだけは大勢診ているので、そのことに関してはお伝えできそうです。

1.ALTA療法(ジオン注射・内痔核注射療法)

ジオン注射は内痔核治療法です。

何度もブログでお伝えしてきましたが、外痔核や切れ痔(裂肛)、切れ痔(裂肛)に伴う見張りイボや肛門ポリープ、痔瘻には適応がありませんし、これらの疾患はジオン注射では治りません。

だからちゃんと「診断名」を確かめてくださいね。(そこが間違ってるとどうしようもないのですが・・・😑)

私の外来には他院でジオン注射を勧められた患者さんがセカンドオピニオンで受診されることが結構あるのですが、診察してみると「痔核(いぼ痔・脱肛)」ではなく「見張りイボ」「肛門ポリープ」であることが多いんです😣

これはALTA療法(ジオン注射)の適応ではありません。
やっても治りません。

実際に切れ痔(裂肛)なのに「ジオン注射を受けたけど治らない😫」という患者さんも来られるのですが、見張りイボ肛門ポリープ「切れ痔(裂肛)」の炎症によってできたものですから、切れ痔(裂肛)の治療をしなければなりません。

また困ったことに、「中に大きな内痔核があるからALTA療法したほうがいい。放置すると大変なことになる。」と強くジオン注射を勧められた患者さんを診察してみたら、全く何も無いキレイな正常肛門の人もおられました😟

うーん。。。
どこに注射するんだろう・・・
どうするつもりなんだろう?

と逆にその先生に聞きたくなりました💦

だからちゃんと「診断」ができていて「適応」があるかどうか、ここが最も大切な部分ですが、悲しいことに専門外の先生がジオン注射をやっていることが多いためなのか、ALTA療法(ジオン注射)後のトラブルも多いです。

過去に記事をいくつか書きましたので参考に読んでみて下さい↓

痔の早期手術の危険性 〜手術は痔の予防にはならない〜

必要のない手術を受けた人の後遺症

ジオン注射の後遺症

私が注射療法をやらないワケ

講習さえ受ければ誰でも使える注射療法

ちょっと待って!その注射、本当に必要ですか?

うちの患者さんではありませんが、こんな記事にリンクが貼られていました↓

内痔核ジオン注射(ALTA療法)手術を受けてわかった本当の痛み

私たちはジオン注射をやらないので、詳しい解説は割愛しますが、注射の内容物は「硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸」です。

簡単に言うと、これを痔核に注射して固めてしまおうっていう治療です。

実際に注射を打った部分は組織学的にケロイドのようになり、その変化は不可逆だと言われています。

ジオン注射を受けた人の肛門を診察すると、注射した部分を「しこり」のように硬く触れます。

それを「違和感」「痛み」「つっぱり」として訴える患者さんが多いです。

肛門が硬くなるので「つっぱって伸びにくい」「便が出しにくい」というケースもたくさん診てきました。

このようなケースのほぼ全例が非専門医によるものでしたからALTA療法(ジオン注射)こそ専門の先生に受けることをオススメしたいです。

専門の先生で、ちゃんと知識や経験のある先生だと、このようなことは起こりにくいと考えています。

実際に、私の外来に来られる患者さんで、専門の先生に受けられた人は肛門もやわらかくて自然です。

仕上がりに著しい差があるのは手術よりもむしろALTA療法(ジオン注射)の方かもしれません。

注射療法ですが「手術に準ずる治療」「手術相応の効果」ということですので、手術と同じように慎重に決めて下さいね。

痛くない
簡単!
入院もいらない

と言われて気軽にその場で受けたけど

死ぬほど痛かったー!!😭

と言われる人も多く、事前の説明と違う!騙された!と憤慨している患者さんもおられましたが、治療後も、ずっと、何年たっても肛門の痛みが続くケースは本当に人生に暗い影を落とします。

確かに、文字通り、メスもハサミを使わない、何も切除しないので「切らない治療」かもしれませんが、「トラブルが起こったときには切る手術以上に大変である」と私は経験上、感じています。

これならまだ切った方がマシじゃないの?

と思うようなケースも多く、手術よりも、手術以上に慎重に受けて欲しい治療法の一つです。

そして受けるなら専門の先生にしてもらってくださいね。

専門医の資格の有無でも、「肛門科」というクリニックの看板でもなく、医師の中身と経歴で判断して欲しいです。

こちらの記事を参考に肛門科の医師選びをしてみてください↓

日本の肛門科の歴史と現状〜専門の医師を見分ける〜

2.ゴム輪結紮

簡単に説明すると「痔核(イボ痔)」の根元を小さな輪ゴムで縛って、イボに血を行かない状態にして腐らせて落とすという治療方法です。

マックギブニーというこんな機械で

痔核(イボ痔)を筒の中に引っ張り込んで

パチンとゴム輪をはめ込む方法です。

 

日帰りで
外来で
麻酔もせずに

簡便に行える手術

として一時期ブームになったこともありましたが、これ、「内痔核」のみに適応があります。

痛みを感じる神経が存在しない部分をゴム輪で結紮しても痛みがないのですが、少しでも痛みを感じる神経が走っている部分を巻き込んで縛ってしまうと・・・痛いです😫

しかもむっちゃ痛いみたいで、歩けないくらいひどい痛みで悲鳴をあげながらかけ込んで来られた患者さんのゴム輪を外したこともあります。

だから適応手技が大切。

簡単そうに見える手術なんですが、この方法がピッタリ合う痔核というのはそんなに多くないという印象です。

そもそも奥の方にある痔核に適応なので、痔核が小さければ患者さんはその存在に気付いてないし、無症状だったりするので、手術を希望されない、勧める意味がないと思いますので、私たちはこの手術を単独で行うことはないですね。

普通の結紮切除術に併用して行うことがまれにあるくらいです。

この方法も確かにメスもハサミも使っていません。

ただゴム輪で縛っただけです。

でもね、よーく考えてみて下さい。

くくられた痔核(イボ)は壊死して脱落します。

メスやハサミで切ってないだけで、ゴム輪で じっくりじわじわ ちぎっていってるんですよ😓

切る「手段」が違うだけで切ってるんです。

壊死した痔核(イボ)が脱落するときに出血することもありますし、脱落した後には当然、傷が出来ます。

その傷が治るのにしばらくかかります。

だから「切らない治療」ではなく「メスやハサミを使わずにゆっくり切る治療」なんです。

正しく表現するならば「メスやハサミで切らない治療」でしょうか😓

そこの部分を全く分からずに、何の説明も受けずに手術を受けている患者さんが多いです。

そして専門外の先生が簡単に出来るからという理由で取り入れていることが多く、トラブルも多いです。

そもそも切除する必要なんて無い小さな、あるいは正常なクッション部分をゴム輪でくくると、ゴム輪が外れてしまっているケースも多く、やりすぎると肛門狭窄を来してしまっているケースが多いのも実は手術よりもゴム輪結紮なんです。

それは専門外の先生が簡単に手を出してしまう術式という側面ゆえ、仕方がないのかもしれませんが、専門の先生にかかってほしいと強く思うトラブルが多いのもゴム輪結紮です。

3.分離結紮

この術式は私たちの師匠である増田芳夫先生が40年以上前からされていた方法で、当時はほとんど知られておらず、誰もやっている先生が居なかったと思います。

学会発表をしてから認知されるようになり、今では古典療法として色々な先生がされているようですが、どうもその手術方法が私たちのやっているやり方と随分違うようで、ここでは増田先生の原法の分離結紮について述べたいと思います。

ゴム輪結紮との最大の違いは内痔核も外痔核もすべて結紮するという点です。

痛みを感じる部分も結紮するので当然痛いです。

その痛み対策のために「持続麻酔」を用いています。

「持続麻酔」がなければ分離結紮は出来ません。
やってはいけません。

それくらい持続麻酔は重要・必須で、痛みについては覚悟が必要です。

私たちは日帰り手術分離結紮で、入院手術結紮切除術(LE)でやっていますが、「入院手術に比べると日帰り手術は痛いよ」と必ず説明しています。

決して「痛くない」「日帰りで簡単に出来る」「手軽にパッと受けられる」「サクッと痔を治せる」なんて言いません。

ところが「切らないから痛くない」と説明をしている先生が多いようで、「切る方が痛くない。糸で縛る方が痛い。」と私たちが説明をするとビックリされます。

両方やっている施設がほぼ無いからでしょうか。

他の術式との比較が出来ないからか、何と比べて「痛くない」と言っているのか、どれくらい「痛くない」のか、具体的に何も分かりません。

実際に他院で分離結紮を受けた患者さんが

「死ぬほど痛かった。」

「痛くないって説明受けたのに『痛い』って先生に言ったら『そんなはずない!』って怒られた」

「手術後は歩いて帰れなかった。」

「1か月くらいは椅子に座れなかった」

などと言われていましたが、手術手技によるものなのか、持続麻酔をちゃんと効かせられていないのか、原因は分かりませんが、痛いですよ😓

うちの患者さん達も痛がってます😓

痛み止めは必須(当たり前か?)
排便の時は地獄(大げさ?)
排便後もしばらく痛い(個人差がある)

そう説明しています。

でもね

どんなに痛くても
どんなにつらくても

2週間たてば痛み止めも必要なくなります。

だから

2週間だけ頑張って!

って励ましています😓

そして2週間後には

「先生が言ってたとおり、本当に2週間たつと全然違いますね・・・」と感心されることもしばしば。

糸で縛った痔核(イボ)が腐って落ちると楽になるんですよ。

それが大体2週間くらい。

もちろん、イボが落ちた後には傷が出来ます。

その傷の痛みがつらい・・・という人もたまにいますが、痛みの種類が今までと違って「切り傷の痛み」なので、耐えられることが多いです。

この方法もゴム輪結紮と同じです。

糸でゆっくり痔核(イボ)を引きちぎってるんで、イボを切ってます。

だから正しく表現するならば「メスやハサミを使って切らない痔治療」ですが「糸で痔核(イボ)を切る治療」です。

しかもメスやハサミで麻酔が効いている間にスパッと切るわけじゃなく、麻酔が切れた後も2週間くらいかけて、じわじわ引きちぎられていってるので、その間、ずっと痛いんですよ😫

だから切る方法の方が痛くないんです。

どっちの方法で手術を受けようか迷っている患者さんにはそのように説明するのですが、すごく分かりやすいと言ってくれます。

しかも結紮切除術(LE)は痔核(イボ)を切ったあと縫い合わせてるので傷口が小さく、治りも早いです。

大阪肛門科診療所では結紮切除術(LE)だと1か月くらい分離結紮術だと2か月くらいで完治します。

治療期間も随分違うので、メリット・デメリット両方説明して、どちらを選択するのかは患者さんに任せています。

というわけで、「切らない痔治療」の方が痛いというオチがあるので、十分理解した上で受けて下さいね。

4.シートン法

今までの方法は痔核(イボ痔)の治療法でしたが、これは「痔瘻」の治療法です。

痔瘻の瘻管にゴムを通し、少しずつゴムを締めてゆっくりじわじわ瘻管を切っていく方法です。

これもメスを使っていないだけでゴムで切ってます。

だから正確には切らない治療ではありません。

切る手段が違うだけで瘻管は開放されるため根治術となるわけです。

ゆっくりじわじわ切らないと肛門括約筋をバッサリと切断してしまうことになるので、時間をかけてゴムを締めていくわけですが、締め方がキツイと痛みが強くなります。

シートン法で治療後、肛門の変形便漏れで困っている患者さんが受診されることがたまにありますが、短期で治療終了しているケースに多いです。

キツク、速く締めすぎなんだと思います。
ちなみにこのようなケースは全例、非専門医による治療でした。

だから手術は肛門を専門にしている先生に受けて下さい。
専門医の資格の有無でも、クリニックの看板でもなく、医師の経歴を見て専門性を確かめましょう。

こちらに肛門専門施設を列挙していますので参考になさってください↓

日本の肛門科の歴史と現状〜専門の医師を見分ける〜

巷では「シートン法は痛い」と言われているようですが、うちの診療所では痛がる患者さんは少ないです。

ゴムを締めたあと3日間くらいはじわ〜っと痛いけど、それを過ぎたら全然痛みが無いと言われることが多いです。

ゴムをキツク締めないからかもしれません。

だからその分、治療期間は長いです。

瘻管の長さによりますが、最低でも3か月はかけて締めていきます。

だいたい半年くらいかかるケースが多いです。

もちろん日帰りが可能なので入院出来ない人にとっては便利だと思いますが、治療期間が長いため、私は痔瘻に関しては入院手術をオススメすることが多いです。

5泊6日入院が必要ですが、単純痔瘻の場合、術式にもよりますが、退院後は週に1回の通院4〜5回で終了になることが多いですし、深い痔瘻でも3〜4か月で完治終了することが多いからです。

シートン法に比べると圧倒的に治療期間が短いです。

メスで切るか、ゴムで切るかの手段の違いだけで、シートン法も切っています。

切らない治療という甘い言葉に惑わされず、治療内容をしっかりと確かめ、ちゃんとメリット・デメリット説明をしてもらってから選択して下さいね。


診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
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