内痔核ゴム輪結紮術の適応は広くない

(2019年5月13日加筆修正)

医者になりたての頃は、標準治療で全ての患者さんを救えると信じていた院長の佐々木巌です。

それから二十数年経った現在では少し標準から外れた治療が中心になりました。

幸か不幸か当院は健康保険の効かない自由診療です。

標準的な治療をしている施設(=保険診療)を渡り歩いてから受診される患者さんも多く経験します。

そんな患者さんのことを、100%は無理かも知れないけれど、でももうちょっとだけ理解できないか、そんな努力を続けていたら、いつの間にか標準治療ではカバーできない患者さんが当院の守備範囲だと思うようになりました。

それでも私は今でも標準治療が基本で、最初に試すべきは標準治療と思っています。

でも、当院のような変わった考えを持った医療機関を必要とする患者さんがいるんじゃないか、そう思って診療しています。

今日の記事では、海外在住で当院に受診中の患者さんからいただいたゴム輪結紮に関するご質問にお答えします。

ご質問:ゴム輪結紮では治療できない、その訳は?

先日はどうもありがとうございました。

毎日座薬を使うことで、本来の排便感覚が少しずつですが掴めているような気がします。

一回で出し切ることは全然出来ていませんが、頑張って続けます!

本当にみのり先生に診て頂いてよかったな〜と感謝でいっぱいです。

すみません、もし可能でしたら1点だけ質問させて頂きたいのですが。。

今後、座薬や便秘を治すことで脱肛がよくなり、必要がなくなることを願いますが、外国の病院で勧められた内核痔のゴム輪結紮施術は出来ないとおっしゃった理由は、私の痔のサイズが適応外の大きさだからですか?

それともそちらではやらないのは、お勧め出来ない治療だからでしょうか?

日本でもネットでみると痔瘻だけではなく内核痔にやっておられる専門医の方もいらっしゃるようですが、みのり先生がやらない理由を参考までにしっかり聞いてみたいと思いました。

入院などの時間や費用も切る手術よりも少ないようなので、自分の状況としては助かる施術ではあるのですが。。

ゴム輪結紮術について

ゴム輪結紮術というのは一種の腐食療法で、専用の結紮器に装着した小さな輪ゴム内痔核を縛る方法です。

現在はマックギブニー氏のゴム輪結紮器が使用されることが多く、通称マックギブニーと言われることも多いです。

結紮器はこんなのです。

でも、他にも結紮器は存在します。

で、ゴムはこんなのです・・

小さいですね。
こんなので縛られたら、血も行きません。

縛った先の痔核には血液が通わなくなり、いずれ腐食して落ち、落ちた部分は傷となり、その傷が治癒して内痔核の治療が完成します。

当然ゴムの小ささ故の制限もありまして、この治療法は比較的小さな痔核にしか使えません

大きな痔核は結紮器に入りきらないから、です。

なぜゴム輪結紮術は痛くないのか?

ゴム輪結紮術は内痔核に対して行われる治療ですが、痛くないという理由で広まった治療法です。

ここで言う内痔核とは、いわゆる厳密な定義通りの内痔核歯状線より口側(奥側)にのみ存在する痔核です。

歯状線より奥には痛みの神経が来ていませんから、一般に定義通りの内痔核には痛みがありません。

ないはず・・です(後述)

そしてゴム輪結紮術は内痔核に対して行い、外痔核には行いません。

痛くないところにしかやらない、だから痛くないのです。

当たり前ですね(笑)

ゴム輪結紮とALTA療法

少し話がそれますが、痛くない、として近年有名になった治療にALTA療法(=ジオン®注射)があります。

一般の方から見ると、もしかしたら両者は似た治療法に見えるかも知れませんが、全く異なる治療法なのでその点を解説しておきます。

ALTAが痛くない理由は、痛くない部分に注射するからです。

痛い場所に打てば、痛いのです。

ゴム輪結紮が痛くない理由と同じですね(笑)

・・理屈ではそういうことになります。

でも本当はALTAを痛くないはずの場所だけに打っているのに、それでも痛みを感じるケースはあるようです。

痛みの程度は一定ではありませんが・・

当院はALTA療法を行っておりませんので、この話は自分で注射した患者さんから聞いた訳では
ありません、他院の患者さんです。

ま、この話はご参考までに。

ゴム輪結紮術とALTA療法の共通点は対象となる病気です。

定義通りの内痔核にのみ使用できるという点です。

両者の違いは、根本的な考え方です。

ゴム輪結紮術は痔核を切除しますが、ALTA療法では痔核は切除されず残ります

と言うわけで専門医から見ると両者は全く異なる治療方法なのです。

ゴム輪結紮術の欠点

話を戻しまして、ゴム輪結紮術の欠点についてですが、ここでは2点挙げておきます。

まず確実性・安全性の問題、次に痛みの問題です。

確実性、安全性について

ゴム輪結紮は大きな内痔核に対して行うことができません。

ゴムが通らないからです。

小さめの内痔核に対して行うということは、ゴムが滑ってはずれやすい、と言うことでもあります。

組織が完全に腐る前にゴムが外れてしまうと、痔核が治療できないままで残ってしまったり、まだ生きている組織からまれに大量に出血するといった事例が報告されています。

ゴム輪結紮術の痛みについて

実際の臨床では、厳密な定義通りの内痔核に遭遇することはまれです。

世の中の内痔核と診断された患者さんの大半が厳密には痔核なのだろうと思います。

つまり、痔核が歯状線よりも外まで存在しているのです。

歯状線よりも外というのは、痛みの神経がある場所です。

つねると痛い場所なのですから、ゴムで縛れば非常に痛いのです。

さらに私は自分の診療経験から「歯状線は痛みの境界線とは限らない」と思っています。

先に述べたとおり、歯状線は痛みの境界線で、それよりも奥に存在する内痔核には痛みは無い、と言うことになっています。

ネットでもそういう情報があると思います。

教科書的には神経が来ていない「はず」なのです。

しかし、実際には痛い内痔核もあります

そういった患者さんを多数経験しました。

教科書通りにはならない人もいるわけです。

私が経験した(経験させた?)痛いゴム輪結紮術

実は私も若い頃、ゴム輪結紮術を積極的にやろうとしていた時期がありました。

でも、既に述べたとおりでホンモノの内痔核なんてそうそうお目にかかりません。

やっと出会ったホンモノの内痔核、しかも手術が必要な患者さんに「ラクをしてもらえる」と喜んでゴム輪結紮術をしたところ・・

やっぱり痛くない人が多かったです(嬉)

でも少数ですが、ゴムをかけた瞬間から「痛い!」とおっしゃる方もおられました(涙)

そんな方は、即座にゴムをはずしました。

そんなわけで、患者さんを痛がらせたことがあるから、分かります。

ホンモノの内痔核でも痛い人は、います。

あなたの痔核はゴム輪結紮だと痛いと思います

そろそろ、ご質問にお答えしようと思います。

この患者さんの痔核は、内外痔核のタイプだったのでゴム輪結紮しても痛いはず、つまり、この方法でやるメリットは何もないと判断したので、できないとお返事したわけです。

ゴム輪結紮術に対する当院の評価、まとめ

まとめると、当院でのゴム輪結紮術に対する評価は以下のようになります。

ゴム輪結紮術単独でも治療可能な小さな痔核が当院で手術治療の対象になることが、まずほとんどありません。

仮にそうなったとしても、効果の安定性や安全性を考えるとゴム輪結紮術を単独で行うメリットはありません

もっと効果に安定性があり、かつ安全性の高い分離結紮術を持っているからです。

その結果、ゴム輪結紮術は他の術式に併用する形で、しかも他の方法では代用できない場合のみ用います

実際、近年当院ではほとんど出番のない方法です。

ちなみに、当院では「分離結紮法は痛みがある、痛みがあって普通の術式」と説明していますが、上述の痛くない場所にのみ行えば、痛みはありません。

実際、手術自体も麻酔なしで行い、術中も術後も無痛だったケースを経験しています。

でも、そんなケースは少ないんですよね・・

今回は、内痔核に対するゴム輪結紮術の適応範囲は決して広くないというお話でした。

1 いいね 9 件のいいね
Loading...
  • このエントリーをはてなブックマークに追加