患者さんが指摘した保険診療の問題点

洞察が苦手な大阪肛門科診療所 院長の佐々木巌です。

洞察って確かな知識に基づいていないとトンチンカンな思考になってしまいますよね。

自分では「こうなってるに違いない!」とか思っていたことが、フタを開けてみると全く的外れな思考だったり・・こんなことありませんか?

私は、よくあります(トホホ)。

今回ご紹介するのは、遠方から来られた痔瘻の患者さんでした。

はじめは地元の外科クリニックにかかったところ肛門周囲膿瘍(痔瘻)の診断で切開排膿。

以後1ヶ月にわたり毎日通院されましたが膿が止まらず、痛みも継続。

結局ご自身の判断で通院を中止。
市販薬などを試されましたが良くならないため、当院を受診されました。

できれば手術せずに治したいというご希望でしたが、診察の結果、複雑痔瘻で手術が必要と判断、ご希望はかないませんでした。

遠方でもあり地元の専門病院を受診するように手配させていただきました。

受診の時に手書きのご感想をいただき、さらにその後ご報告のメールを何通かいただきました。

この方は会計士というお仕事柄か、保険診療に関してとてもスルドイ指摘をなさいました。

専門領域なのか、それとも洞察するチカラが高いのか、こういうご感想を持つ方がおられるんですね~。

どうスルドかったのか・・ご覧ください。
(内容は一部編集しております、ご了承ください)

ここでは仮にお名前をAさんとしておきます。

メール 1  From Aさん To 佐々木巌

先日いわお先生に診ていただいたAです。

受診翌々日に早速、B病院に行きました。

クローン病の疑いがあるということで、大腸カメラ検査を受けることになりました。

どうなるか分かりませんが、先生のブログなどで、きちんと診てもらう勇気をいただけましたし、いわお先生に診ていただいたことで、さらにきちんと診てもらうことができました。

ありがとうございます。

ただ、3月に最初に行ったクリニック、切開排膿後、1ヶ月間、延々と消毒と抗生物質投与を続けただけで、なぜ、専門医受診を勧めてくれなかったのか、という思いがいたします。

開業医の役割の1つは、重大な疾病の疑いがあるときに、患者をより適切な医療機関に取り次ぐことだと思います。

それをしてくれなかった一因は、もしかしたら保険診療制度にあるような気もします

患者としては、保険診療医療機関が儲けるために、食い物にされているように感じました。

切開排膿後、ほぼ毎日、そのクリニックに通い、診察と消毒等の処置をされ、抗生物質も5日分程度の処方を1ヶ月に渡って繰り返されました。

再診料と処方料を稼ぐためと疑っています。

そして、糖尿病については、別の病院にて治療していたにも関わらず、あえて、血液検査や栄養指導をされました。

保険診療では、糖尿病の患者を診ると、初診から1ヶ月後に特定疾患療養管理料(225点)を加算でき、1ヶ月に2回まで加算できます。

私の場合も、初診から1ヶ月後に特定疾患療養管理料が加算され、翌日の診察でも加算されていました。

特定疾患の患者を1ヶ月に2回診察し、薬をこまめに処方すると、医療機関が儲かる仕組みになっていると思います。

メール 2  From Aさん To 佐々木巌

いわお先生。
こんにちは。

Aです。

3月に行ったクリニックについて、切開排膿後、1ヶ月に渡って消毒と抗生物質投与を続けられたとお伝えしました。

そのクリニックは、肛門科ではないから、専門医からみれば適切ではない点もあるかもしれません。

もしかしたら、そのクリニックの先生は、出血や排膿が続くことに戸惑っていたのかもしれません。

実は、そのクリニックの先生と私の姉は仕事上面識があるのです。

もちろん、私も、姉に疾病を隠してはいません。

しかし、私がクリニックへの通院をやめたら、その数日後、クリニックの先生が姉に、「弟さん、このまま放っておいたら悪化する。肛門科に行っていれば、いいんだけど。」と伝えているのです。

姉も知っていた疾病とはいえ、そのような重大なことを、私には連絡せず姉に漏らされたということに、すごく不信感を持ってしまった次第です。

その先生に不信感持っても、自分の身体を守るためには、すぐに肛門科に駆け込むべきでしたが、それをしなかった私もいけないとは思います。

でも、やはり、そのクリニックの先生への「なぜ?」という思いがますます募ります

患者として、正直に、不信感を持ったことを伝えてもいいものでしょうか?

メール 3  From 佐々木巌 To Aさん

A様

そうでしたか。
お姉様にそうおっしゃったのですね。

私の想像ですが「漏らした」のではなく、暗に「『うちでダメなら他所の肛門科にかかってくれよ』と伝えてほしい」とお姉様に依頼なさったという風に受け取りました。

Aさんのことを心配してくださる先生におかかりになっていたのだと思います、安心しました。
良かったです。

付け足しますと、前の先生の処置は「専門医から見て適切でない」のではなく、私たちとは異なる流儀なのです。

私たちの診療は決して標準ではないと思います、どちらかというと異端と言って良いくらいかも知れません。

前の先生と同様の処置をする専門医も、もちろんおられると思います。

抗生剤については、私は抗生剤が嫌いなので極端に使用頻度が低いですが、他所・他科の先生がどんな使い方をするのかよく知っているわけではありません。

やっぱり前の先生はご自身の知識の中で精一杯頑張っていたのだと思いますよ。

他疾患の診療はよく分かりませんが、肛門科診療に関して言えば悪意は感じられません。

ですから、おっしゃるように先生も戸惑っておられたのかも知れません。

不信感をお伝えになりたい・・・うーん。

この質問はお返事に困ります(苦笑)。

一般的に「他の専門医にかかってちゃんと治療しています。調子は良いです。」と伝えるだけで信用を失ったことが前の担当医には十分伝わり、その医者は意気消沈します。

それはお姉様にお伝え頂ければ十分ではないでしょうか。

ご参考になれば。

大阪肛門科診療所   佐々木 巌

メール 4  From Aさん To 佐々木巌

佐々木いわお先生。
〇〇県のAです。

昨日、大腸カメラ検査を受けてきました。

検査自体、苦痛ではありませんでした。

そして、大腸には異常なしとのことでした。

安心して、痔瘻の治療に専念できます。

お尻のこととか腸のことになると、恥ずかしさもあり、適切な医療機関にかかるのが遅れがちになりますが、早めに専門医にて受診することが大切ですね。

ところで、今回の検査費用、1日がかりでしたが、3割の自己負担で5600円程度でした。

保険診療報酬としては、12400円程度、病院に支払われると思いますが、はっきり言って、安いと思います。

人件費、設備費のことも考えると、もっと高くないと、病院の経営は厳しいと思います。

しかも、保険診療報酬が病院に支払われるのは、かなり後ですから、資金繰りも厳しくなります。

私が最初にかかったクリニックについて、ズルい診療報酬の取り方をし、専門外であるにもかかわらず、痔などの治療を自分のところでやり続けようとしたことを、以前、先生にメールしたと思います。

保険診療でやっている開業医さんの立場としては、そういうことでもしなければ、経営が成り立たないという思いもあるかもしれません。

今の保険診療制度では、まっとうな病院経営ができないと私は思います。

メール 5  From 佐々木巌 To Aさん

A様

ご連絡ありがとうございました。

大腸には異常なかったとのこと、良かったです。

次はいよいよ痔瘻の治療ですね。

良い治療になりますよう、祈っています。

貴重なご意見、承りました。

私からのお返事の続きは、ここまでのやり取りとともに近日中にブログに書かせていただこうと思います。

ありがとうございました。

どうぞおだいじに!

大阪肛門科診療所   佐々木 巌

今の保険診療制度ではまっとうな病院経営はできない・・

さて、ご指摘の件に対する私の所感です。

Aさんのおっしゃる

「そうでもしないと経営が成り立たない。今の保険診療制度ではまっとうな病院経営ができない」

とのご指摘について、私も同意見です

保険診療では診療報酬は不当に低い状態、技術が買い叩かれている状態だと思っています。

検査も手術も技術の習得には大変な労力が必要なのに、その部分が評価から抜け落ちています。

本来医療はもっと高価なもののはずなのに、国民にも、もしかしたら医療者の側にもその意識が希薄になっているかも知れません。

マジメに修行して真摯に診療している保険診療の施設には苦難の時代、もっとハッキリ言えば、医療をマジメにやると儲からない時代です。

ただ、診療報酬を引き上げたところで、悪い振る舞いをする医者は一定数存在すると思います。

当然、支払う側(国・健保組合などの保険者)はこれを取り締まりたい。

現行の制度や報酬は、支払う側と悪い振る舞いをする医者とのいたちごっこの結果なのかも知れません。

Aさんが受けた「ズルい診療報酬の取り方」というのは、患者の希望を無視して通院させ、その分の報酬を得るやりかた、しかも特定疾患の患者の場合は報酬は割高である、ということですね。

こういった診療が、マジメにやっている先生による同情すべき行動なのか、儲けたい先生のズルい行動なのか、医者・医療機関の心の中は外からは見えにくい問題です・・

私は「そういった行動を取った医療機関もマジメにやっていると信じたい」という立場でおります。

周囲を疑いの目で見はじめると自分の心がすさんでしまいます。

実際、昔の私はそうでした(苦笑)。

医者の心が荒れていると、せっかく良い診療をしていても患者さんを幸せにできないと思うのです。

今回、保健医療体制について私とは少し異なる立場の方にこれだけご理解を頂けている方がおられることに、安心いたしました。

こういうご感想は、マジメにやっている医者にとっては励ましです。

逆に気の緩んでいる医者にとっては思わず背筋の伸びるようなスルドイ苦情だと思います。

こういったことが、広く国民のみなさんの理解されるところとなれば良いなあ、と考えています。

そして、確信的に良くない振る舞いをする医療機関が自然に淘汰され、マジメに診療している先生がちゃんと生き残れるような保険診療の体制になったら良いのに、そうすれば患者さんも、保険者(国・健保組合など)も双方にとって一番良いんだけど、と思うのです。

まあ、当然みんなそう思っているはずで、それが難しいのですけどね・・

まとめ

Aさんの指摘が鋭いと私が感じた点は以下の2点です。

まず、医療機関がルールを守りながら行っている診療行為の中にも自院の利益誘導を優先し患者の利益を無視した振る舞いが潜んでいる可能性があること。

つぎに、そしてそれは強欲ゆえの事とは言い切れず、存続のためやむを得ず行われている可能性があること、その原因として診療報酬の安さを指摘していることです。

難しい言葉になってしまいました・・

「衣食足りて礼節を知る」と言う言葉があります。

施設がやっていけないくらいしか収入がなければ、なりふり構わず利潤に走る・・そんな先生を私は責める気持ちになれません

完璧な制度はおそらくないのでしょう。

でも、保険診療には解決すべき問題があることを皆さんに知って欲しいと思います。

・・・って、当院は自由診療なんですけどね(笑)。

そして、もしそんな完璧な制度ができたとしたら、当院はピンチかも知れません(汗)

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